【K-POPゆりこ×NICE73対談】ヒット曲には「トレンディな声」が重要! 歌の上手いアイドル分析〈中編〉
Culture / Feature

【K-POPゆりこ×NICE73対談】ヒット曲には「トレンディな声」が重要! 歌の上手いアイドル分析〈中編〉

全3回でお届けするK-POPゆりこ×NICE73対談。前編では今年の新人ボーイズグループについてたっぷり語ってもらいましたが、中編はK-POPゆりこさんが、ボーカルトレーナーでもあるNICE73にぜひ聞いてみたかった「K-POPの歌の上手さ」について話が広がりました。そこで飛び出したキーワードは「トレンディな声」。K-POPアイドルやボーカリストを目指している人必見の内容です。

K-POPに求められる「歌の上手さ」とは

K-POPゆりこ(以下、ゆりこ)「ボーカルトレーナーを務めているNICE73に、ずっとお伺いしたかったのですが、『K-POPにおける歌唱力』とは?ということです。私はボーカル至上主義というくらい歌の上手い人が大好きで、K-POPのグループにはボーカル力が高いメンバーが必ずいるという印象があります。K-POPに求められる『歌の上手さ』とはどういうことだと思われますか?」

NICE73(以下、73)「K-POPにもJ-POPにもそれぞれの良さがありますが、K-POPのボーカルの特徴としては多彩な声のトーンがあります。例えば、ある大手事務所は、メンバーごとに違うボーカルトレーナーを付けるんですね。すると、1つのグループに違う歌い方の子たちが集まる。それだけで多彩な声のあるグループになります。それができるのも、韓国にはレベルの高いボーカルトレーナーがたくさんいるからなんですよ」

ゆりこ「ボーカリストのサバイバル番組『Build Up』(ABEMA)について紹介する動画で、73が『トレンディなトーン』についてお話されていましたが、そこをより詳しく教えていただきたいです!」

73「ボーカルは、事務所によってもカラーが異なるし、楽曲のムード、コンセプトに合わせてスタイルが変わります。特にK-POPはトレンドを重視しているので、メインボーカルには、時代に求められているボイストーンが必要です。今のK-POPは、声を楽器のひとつとして捉えているように感じています。NewJeans登場までのK-POPは重いベースの楽曲が多く、ベースとシンセサイザーの音に混ざりやすい声質の子が重宝されます。だから、いくら歌が上手くても、声がちょっと重かったり太かったりするとなんかちょっと古いよねと言われてしまうんですね」

ゆりこ「今は声に主張があったり、歌い方にクセがあると敬遠されがち?」

73「K-POPがバラード全盛だった1、2世代前の歌い方やトーンは、古いと判断されてしまうことがあります。残酷な話ですが、いくら歌が上手くて努力家でも、それが理由でメインパートをもらえないこともあります。ボイストレーナーとしては『君は将来、ミュージカルへの道もあるかもしれないから落ち込まないで!』と思うんですけどね。でも、本人が希望すれば、トレンドのボイストーンになるようにボイトレをします。ただし、その子の声帯の特性もあるから、ボイトレ調節すれば必ずトレンディなトーンになれるとは言えないし、それをしてまで個性を潰さなくても良いとも思いますしね」

ゆりこ「確かにK-POPアイドルからミュージカル俳優になって成功される方、いらっしゃいますもんね。あとRIIZESOHEEさんは、デビュー前と現在とでは歌のスタイルを変えているけれど、今の時代に求められている声のトーンに合わせることができたという例なんですね」

73「おそらくそうだと思います。EXOはメンバー全員が歌が上手いモンスターグループですが、彼らのデビュー時に、特にBAEKHYUNさんの声があったから、SMの新しい時代が来た! とワクワクさせてくれました。BAEKHYUNさんのように、声のトーンが抜群だと練習生期間は短くても、すぐデビューメンバーに選ばれることがあると思います」

ゆりこ「一方で、ATEEZJONGHOさんはK-POPを長年見てきたファンにも支持される、K-POPらしい声の持ち主ですよね」

73「そうなんですよ。完全に矛盾したことを言いますけど、だからこそATEEZはいいんです!」

ライター松田(以下、松田)・編集S「うんうんうんうん」

ゆりこ「もうひとつお伺いしたいのは歌唱力というものは、どこまで努力で向上できるものなのかということ。もしかしたら、運動神経みたいに生まれ持った素質で、ある程度決まってしまうものなのでしょうか」

73「その子の歌唱力がどれだけ伸びるのか、どのくらいの伸び代があるのかは、だいたい2カ月のレッスンで分かります。シビアな話ですが、大手事務所は練習生が入所してからの2カ月で、その後も育成するかどうかを判断することがあるそうです。もちろん、その子の意欲によっても違うし、半年後に劇的に変化したり、ダンスやラップなど他に可能性があることもあります。トレンドの声に仕上げることができるかは、声帯によるところがあるので、一度歌ってもらうとわかってしまいますね」

ゆりこ「2カ月! 意外と早く分かってしまうのですね。厳しい世界だ……。ということは、今のメインボーカルは、素質によるところも大きいんですね」

73「もちろん素質があっても、努力しない子は伸びないので一概には言えません。よく“耳がいい”と言いますが、音楽の聴き方を変えると爆発的に耳が良くなって、それに伴って歌唱力も向上することもあります」

松田「聴き方を変えるとは?」

73「曲を聴くポイントを変えるんです。必要な音をキャッチする能力が高くなると、どうやって歌うべきかがわかるようになるんです。歌の細かいグルーヴ(音符や拍など理論では説明できない部分)の指導はどうしても抽象的になってしまうんですが、私の説明を自分なりにがんばって理解しようとし何度も質問して自分のものにしてくれた子はだいたい伸びています。物事に取り組む姿勢というのも重要なんでしょうね。それから先ほどの運動神経の話に戻りますが、私の経験で言うと、スポーツが得意な子は歌が上手くなる傾向があります。運動すると勘が鋭くなるのかもしれません。声帯も筋肉ですから」

ゆりこ「元々の才能に加え、レッスンへの姿勢も大事と。73から見て、デビュー時からかなり伸びた、この人は上手くなったと思うアーティストはいますか。例えば、SHINeeTAEMINさんは、デビュー当時はダンス担当でした。声変わりの時期も重なっていたからでもありますが、3月に日本武道館で行われた『TAEMIN SOLO CONCERT : METAMORPH in Japan』を見て、これほどまで歌えるアーティストになるとはと感動したんです」

73「それでいうと、やっぱりBTSJINさんですね。デビュー当時から考えると、私たちが想像もつかないほどの努力をしたんだろうなと感じます」

松田「声変わりというのは大体どのくらいで終わるものですか? 10代でデビューする人は、声変わりの時期に重なっていることもありますよね」

73「男性は25歳くらいまで、女性は21歳までと言われていますね。その後も年齢を重ねるにつれ、ホルモンバランスの変化に伴って女性は声が低くなり、男性は声が高くなる傾向があります。でも、年齢に関係なくずっと声の衰えを感じさせない人もいるんです。先日、テレビでお見かけした演歌歌手の坂本冬美さんは、ますます伸びのある歌声になられていて驚愕しました。もしかしたら、先生についてずっとボイトレをなさってるのかなと思いました。やっぱり努力に勝るものはないなと」

J-POPは歌が下手? 原因は日本語?

ゆりこ「もうひとつ質問してもいいですか。歌唱力のほかに、魅力のある声というのがありますよね。反対に歌自体は上手いけれど、アーティストとしての魅力はうーん、という人もいるかと思います。73からみて魅力のある声とは?」

73「私はもともと演歌が大好きなので、言葉を届ける伝達力と感情をどう届けるのかという技術、表現力といわれるもの、それが重要だと思っています。楽曲のリズムに対して声をどんなふうに乗せ、どんなグルーヴを出すのか。その技術を冷静にコントロールしながらも、感情的に歌える人は、プロだなと思います」

ゆりこ「譜割り通りではなく、0.1秒遅らせたり、あえて前に乗せたりして、グルーヴ感を出していくということですか」

73「そうです。そこが抜群に上手いのは、ちあきなおみさんです。ここからどんどん抽象的な説明になりますけど、例えば、ONE PACTジェイ・チャンさんの声は、振動する波が言葉の前の方にあるタイプで、欧米のポップスによくある表現方法です。一方で、J-POPは後ろに波動があることが多いんですね。それに、日本語は1音ずつ『子音+母音』で構成されているから、どうしてもカクカクした音になって、今のダンスミュージックのトラックにフィットしにくいんですね」

ONE PACT
ONE PACT

松田「それが逆に、世界からJ-POPは特殊で面白いとかカワイイと言われたりする理由なんでしょうか」

73「そうかもしれません。ただ、日本語を母語とする人がK-POPでのデビューを目指そうとすると、そこが苦労するところになります。それから、最近は、日本でもK-POP風のダンスミュージックもありますが、そのボーカルも言葉の響きの角張を削ぎ落としさらに前めのグルーヴで響かせる作業が必要なんですね。それをしないと、いわゆる『日本風のダンスミュージック』になってしまう。最近は韓国のプロデューサーを日本に招いてディレクションしてもらうケースが増えていますが、でもね、わざわざ韓国から呼ばなくても、日本人のボーカルトレーナーでもちゃんとそこに気付いている人はいるんですよ。お仕事ください! 待ってます!」

松田「日本語を母語とする人でも、imaseさんやAyumu Imazuさんは、洋楽のように歌いますよね。彼らの曲が海外でも評価されているのはそういうところもあるんですね」

ゆりこ「お話を聞いて、すごく納得しました。たまに日本人より韓国人の方が歌が上手いという説を耳にするんですけど、いや日本にも歌が上手い人はいるよ?とモヤモヤしていたんです」

73「トレーニング次第だと思うんですよ。XGは全員日本人なのにめちゃくちゃ歌やラップのレベルが凄まじい! もちろん彼女たちの生まれ持った素晴らしい才能、そして努力の賜物ではありますが、あのレベルのトレーニングを日本でも受けられたら、XGのようなハイレベルなグループが誕生するかもしれませんよね! 夢がありますね!」

 

 

Text: Miho Matsuda Edit: Yukiko Shinto

Profile

K-POPゆりこ 音楽・エンタメライター。専門はK-POPと韓国カルチャー全般。雑誌編集者を経て渡韓、1年半のソウル生活を経験。現在は帰国し、女性誌やニュースメディア等で執筆、ラジオ出演、番組の構成なども行う。Twitter: @yurikpop0327 Threads: @kpop_yuriko
NICE73 韓国にて歌手として活動後、K-POPグループの日本語の訳詞、日本オリジナル楽曲の作詞、作曲、レコーディングボーカルディレクションなど、制作にも携わる。近年、韓国関連の各種イベントでMCや、テレビやラジオのナレーションを担当。Numero.jpでは「大人のためのK-POP入門」2021年「K-POP忘年会」、2022年「K-Pop座談会」、2023年「私たちの偏愛的K-POP 2023!」にも登場。Twitter: @NICE73555 Instagram: @nice73 YouTube: @NICE73deSHOW Ch.求韓日もお見逃しなく!

Magazine

JANUARY / FEBRUARY 2025 N°183

2024.11.28 発売

Future Vision

25年未来予報

オンライン書店で購入する