私たちが目撃したカルチャームーヴメント【MUSIC編 by 三原勇希】
音楽番組MCやラジオなどで活躍する三原勇希が話題の音楽をレビュー。注目作から見えてくるトレンドとは。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年11月号より抜粋)
インターネットで見つかった新たな才能たち
今年4月。突如再生ランキングに現れた瑛人「香水」を初めて聴いたとき、サビの「ドールチェアーンドガッバーナ⤴︎」に飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。なんだこの斬新な歌詞のあて方は。サビの歌詞「求めてないけど」の「どっ」と下がるところは、K-POP発祥のフロウ(抑揚)を感じる。自身の弱さを吐露した歌詞には、自身をさらけ出せる強さがある。 そういった「誰かと話題を共有したくなる」魅力があることに加え「歌いたくなる」曲であることはヒットの持続性を生む。カラオケに行けなくてもお風呂で歌って気持ちの良いメロディーであり、すぐに覚えられる素直なコード進行の曲は無意識に脳に刷り込まれる。
上半期最大のブレイクを果たしたニューカマーYOASOBIの楽曲も、フックになるリズムと歌って気持ち良いファルセット、歌謡曲的な進行がふんだんに使われる。実在する小説を曲にし、MVは全てアニメーションと、YOASOBIは2次元と3次元のエンタテイメントの特長をハイブリッドに取り入れたアーティストであることも面白い。元々ボカロPのAyaseがネットで見つけたボーカリストのikuraは、癖のない歌声と正確なピッチ、速いBPMでどこか人間離れしている。
歌いたくなると言えば、藤井風も忘れてはならない。12歳の頃からYoutubeでカバー動画をあげていた彼の才能はオリジナル曲でなお発揮された。色気のある歌声と曲のアレンジや岡山弁に注目が集まるが、私は彼の「もうええわ」という曲の、固執からの解放を描いた歌詞にこの時期すごく勇気をもらった。
彼らに共通することは、インターネットを最大限にうまく使って、その才能と実力が世間に見つかったということだ。
癒やし系音楽の再評価
一方で、クラブミュージックなど「みんなで盛り上がりたいときに聴く曲」よりも「家でゆったりと聴く曲」が増えた人は多いだろう。私自身、家で聴く音楽はより落ち着きのあるものへと変化した。
Jhene Aiko(ジェネイ・アイコ)の最新アルバム『Chilombo』は世界が先の見えない不安に駆られる頃、ヒーリング&チルミュージックとして春本来の穏やかさを心にもたらしてくれた。彼女自身がシンギングボウルを使い日頃からヘルシーなマインドを保っていることは、音楽にも大きく影響している。
Caribou(カリブー)の『Suddenly』はDJプレイのごとく1つのグルーヴの中で変化していくダンスミュージックだが、その一定のテンションと洗練された音はホームリスニングにも最適だ。その場の”空気を作る”という、DJだからこそなせる技。暖かみのあるサンプリングや風の音など、オーガニックな質感も癒される。
タイのファンクバンド、Khruangbin(クルアンビン)もアジアンな熱を帯びた心地よさにファンが多い。彼らの信念は”Less is more”。何とも今にふさわしい言葉だ。コロナ禍を少しでも前向きに進もうという私たちのムードに寄り添ってくれるのもまた、音楽だ。
Text:Yuuki Mihara Edit:Sayaka Ito, Chiho Inoue, Mariko Kimbara