篠山紀信「光の情事」展へ。建築とアートの共存する清春芸術村を訪ねて | Numero TOKYO
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篠山紀信「光の情事」展へ。建築とアートの共存する清春芸術村を訪ねて

「光の美術館」展示会場にて、篠山紀信(左)とモデルのAI(右)
「光の美術館」展示会場にて、篠山紀信(左)とモデルのAI(右)

谷口吉生、藤森照信、杉本博司による名建築とアートが集結する、山梨県北杜市・清春芸術村。この村内にある安藤忠雄建築の「光の美術館」にて2018年11月17日(土)より開催した「光の情事── 篠山紀信」展のオープニングレセプションに行ってきた。

スペインのアーティスト アントニ・クラーベのアトリエに着想を得て作られた、安藤忠雄設計の「光の美術館」で、篠山紀信「光の情事」展が開催されている。篠山が人工照明の一切ない、自然光のみで作品を観賞する同美術館の空間で、モデルやマネキンを撮影。

「光の美術館の中にライト持ってきたら失礼」と語る篠山は、レフ板でコントラストを強調することはあるものの、照明やレタッチは使わずに、自然光の中で対象を捉えている。篠山自身が「僕は光と空間の色気を撮ってる」と述べているが、まさに光との「情事」のよう。時間とともに移りゆく儚く繊細な光の一瞬を切り取ったモノクロ作品には、コンクリート建築の無機質さとは対象的な、人間の生々しさが表現されている。

「光の情事」── 篠山紀信展

会期/2018年11月17日(土)〜2019年1月27日(日)‬
会場/光の美術館(清春芸術村)
開館時間/10:00〜17:00‬
休館日/年末年始・月曜(祝日の場合は翌平日休み)‬‬
URL/www.kiyoharu-art.com/

光の美術館

建物上部のガラスや壁のスリットから差し込む自然光が時間とともに変化。季節によっても見え方が変わる楽しみがある。通常はピカソの後継者といわれたスペインのアーティスト、アントニ・クラーベの作品を展示している。

ここ「光の美術館」がある清春芸術村は、南アルプス、八ケ岳、富士山に囲まれた山梨県北杜市にアーティストの創作と交流の場として作られた。
大正14年に設立された旧清春小学校跡地に、小林秀雄や白洲正子と親交のあった画商・吉井長三が創設。敷地を囲む50本余りのソメイヨシノは山梨県の天然記念物に指定されているほど、春には美しい桜の花を咲かせるという。

中央には、1981年に建設された集合アトリエ「ラ・リューシュ」。シャガールやモジリアニなど、20世紀の画家たちがアトリエ兼住居としていたパリのラ・リューシュを再現したもので、内部は芸術家の活動の場として、アトリエと生活設備が整えられている。


エントランスには、岡本太郎の作品(通常内部は非公開)


1989年のエッフェル塔完成100周年に際し、フランスから移設されたエッフェル塔の一部「エッフェル塔の階段」

ほかにも村内には、谷口吉生設計の清春白樺美術館やルオー礼拝堂、藤森照信が手がけたツリーハウス「茶室 徹」といった施設に加え、数寄屋建築を近代的に再現した吉田五十八が建築した梅原龍三郎アトリエを新宿から移築するなど、豊かな自然の中でゆったりと芸術と建築を堪能できる。そんな素晴らしい施設と展示作品をざっとご紹介しよう。

清春白樺美術館

GINZA SIXやニューヨーク近代美術館新館などを手がけた谷口吉生の設計。武者小路実篤や志賀直哉など白樺派の作家たちが愛したルオーをはじめ、東山魁夷や梅原龍三郎、岸田劉生、バーナード・リーチ、中川一政といった芸術家の作品を展示している。雑誌『白樺』の創刊号から最終号のほか、白樺派関係の書簡や原稿なども収蔵。当時の芸術家たちの交流を身近に感じることができる。

螺旋状に設計された美術館の内部
螺旋状に設計された美術館の内部

オーギュスト・ロダンの彫刻「歩く男」
オーギュスト・ロダンの彫刻「歩く男」

ルオー礼拝堂

20世紀最高の宗教画家といわれるフランスの画家、ジョルジュ・ルオーを記念して、谷口吉生設計により建設された礼拝堂。コンクリートの建物と木製の扉のコントラストが印象的。入り口の壁にはルオー制作のステンドグラス「ブーケ」が飾られ、壁にはルオーが彩色した17世紀の木彫のキリスト像やルオーの銅版画「ミセレーレ」も展示されている。ルオーの力強い作品とあいまって、重厚な雰囲気に包まれる。

ミニマルで荘厳な空間に映えるジョルジュ・ルオー作の鮮やかな色彩色のステンドグラス「ブーケ」
ミニマルで荘厳な空間に映えるジョルジュ・ルオー作の鮮やかな色彩色のステンドグラス「ブーケ」

茶室徹

樹齢八十年の檜の上、4メートルの高さに配したツリーハウスは、実は茶室。建築史家・藤森照信が設計し、縄文建築団の赤瀬川原平、南伸坊、林丈二らの協力によって完成した。哲学者・谷川徹三を記念して建てられ、「徹(てつ)」という命名は作家・阿川弘之によるもの。内部は非公開だが、秘密基地のようなユニークな作りから、遊び心が伝わってくる。普段は外からの見学のみの非公開の「茶室徹」内部に特別に入室。イベント時などには実際に茶を点てることもできるそう。

「茶室徹」内部の様子
「茶室徹」内部の様子

梅原龍三郎アトリエ

吉田五十八が建築設計した、画家・梅原龍三郎のアトリエを東京・新宿より移築。愛用のイーゼルやパレット、絵の具箱、制作途中の絵画などが展示されており、今まさに画家が制作しているような空気が流れている。

谷口吉生建築の「ラ・パレット」内のバー
谷口吉生建築の「ラ・パレット」内のバー

さらに、国内外の著名な画家のパレットを常設展示したオーガニックレストラン「ラ・パレット」や、約80年前の歴史ある建築を杉本博司による内装デザインで蘇らせたレストラン「素透撫 STOVE」もあり、ランチやアフタヌーンティーもでき、小旅行としても楽しめる。

「素透撫 STOVE」 の外観
「素透撫 STOVE」 の外観

貴重な一枚板のカウンターテーブル。
貴重な一枚板のカウンターテーブル。

入口の横には、黒田泰蔵の白い器と、杉本博司の写真をさりげなくディスプレー。
入口の横には、黒田泰蔵の白い器と、杉本博司の写真をさりげなくディスプレー。

素透撫 STOVE

実業家で古美術と近代日本美術のコレクター・原三渓に重用された棟梁・山田源市が、1941年頃に築いた歴史ある建築を改修し、杉本博司が内装設計を手掛けた料理店。一流店で修行したシェフが手がける地元の野菜を中心とした料理を陶芸家・黒田泰蔵が制作した器で提供する。

料理の一例。素材の味を生かしたシンプルながらも上品な味わいが印象深く、器と料理の調和も美しい。
料理の一例。素材の味を生かしたシンプルながらも上品な味わいが印象深く、器と料理の調和も美しい。

住所/山梨県北杜市長坂町中丸4551
TEL/0551-45-7703
営業時間/ランチ11:30〜15:00(14:30L.O.)
ディナー18:00〜21:30(20:30L.O.)
ティータイム15:00〜17:30(土日祝のみ)
定休日/月曜(祝日の場合は翌日)

以上3点。新素材研究所によるゲストハウス(未完)
以上3点。新素材研究所によるゲストハウス(未完)

さらに、2019年春には、杉本博司と榊田倫之の新素材研究所が手がける平屋建てのゲストハウスがオープン予定。板と銅を使った屋根、敷き瓦のリビング、石を立てて敷き詰めた庭園には自然の形状のままの巨石を配するなど、各所に杉本の美意識とこだわりが凝縮している。今後も建築プロジェクトは広げていくとのことで、ますます魅力的なエリアとなりそう。

清春芸術村

住所/山梨県北杜市長坂町中丸2072
開館時間/10:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日/月曜(祝日の場合は翌平日)、年末年始
料金/一般¥1,500 大学・高校生¥1,000 中学生以下無料 ※清春白樺美術館・光の美術館入館料を含む
URL/www.kiyoharu-art.com/

Photos:Kazeyo Nishino,Masumi Sasaki Text:Kazeyo Nishino Edit:Masumi Sasaki

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