年末年始こそ読書のススメ | Numero TOKYO
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年末年始こそ読書のススメ

本,読書,BOOK
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普段、忙しくてなかなか読む機会のない本を、年末年始のお休みに読んでみるのはいかが?各分野で活躍中のクリエイターたちがおすすめするとっておきの一冊をご案内。

ケラリーノ・サンドロヴィッチが選ぶおすすめの本 喜劇人の素顔

『哀しすぎるぞ、ロッパ 古川緑波日記と消えた昭和』 山本一生/著 ¥2,400(講談社) 喜劇王の素顔の向こうに見える真実の昭和史
「笑い」を生業(なりわい)にしている人間の生き様は面白い。喜劇人だから陽気で楽観的かというと、そうとも限らず、大抵どこか気難しいところがある。それでいて極端で破天荒な人が多い。古川ロッパもそんな一人だ。 山本一生氏によるこの見事な評伝は、ロッパ日記の要約としても秀逸である。華族出のインテリ編集者が、ひょんなことから喜劇役者になり、瞬く間に一世を風靡し、戦後は人気が没落し、貧困と病魔に喘(あえ)ぐ。その姿は壮絶の一言。結核による吐血を堪えながら創成期のテレビ番組に出演する件(くだ)りなど、読んでるこちらまで苦しくなる。日記というものは、他者に読まれることを前提にしていないから面白い。ライバルであるエノケンへの妬み嫉みや、つまらぬ芝居に笑う観客への罵倒など、まったく飾らずに、己のプライドの高さ、人としての徳の無さを露呈していて、気の毒なぐらいだ。もし日記ではなく自叙伝であれば、こんなことは絶対に書くまいに。絶対に関わりたくないタイプの傲慢な人なのだが、読み進めるうちに愛おしくてたまらなくなってくる。 Text:KERA Photo:Keiichi Wagatsuma

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坂本美雨が選ぶおすすめの本
妊娠・出産・子育てのバイブル

『子どもへのまなざし』
佐々木正美/著 ¥1,700(福音館書店)

子育てのお守りのようなことば


「伝えた希望が望んだとおりに、かなえられればかなえられるほど相手を信じるし、その相手の人をとおして多くの人を信じるし、それよりなにより自分自身を信じるし、自分が住んでいる環境、地球、世界を信じることができるのです。人を信じることと自分や世界を信じることとは、このようにおなじことなのです」

泣くことでしか伝えられない乳幼児期から、親にあらゆる望みに応えてもらい、全面的に肯定されることで親を信頼することができる。肯定されることによって、自分に自信が持て、安心して自立できる、という、この本を貫いている佐々木先生の信念。素直な子、優しい子、人を思いやれる子になってほしい…よく親が願う当たり前のことを私も願うようになった。けれど、その基盤となるのは、世界を信じる、ということじゃないだろうか。

私たちができることは、その世界の縮図である、お父さんとお母さんの元に生まれてよかったなぁとまず感じてもらうことかもしれない。

Text:Miu Sakamoto Photo:Keiichi Wagatsuma

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水道橋博士が選ぶおすすめの本
時代劇研究家・春日太一の世界

『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』
春日太一/著 ¥1,850(文藝春秋) ※文庫版あり

男騒ぎの東映映画の血湧き肉踊る史書。


若き時代劇研究家、春日太一の本は、銀幕に輝く大スターが数多(あまた)の脇役、端役の存在によって精彩を放つのと同じく、映画の光輝とは、見えざる陰の仕事の濃密さによって鮮烈に浮かび上がる――。そのことをテーマにした珠玉のノンフィクションの連作だ。

『あかんやつら』は、東映京都撮影所という共同体の歴史と「集団的個性」を掘り下げ、かつ東映京都らしい、血湧き肉躍る「不良性感度」の高い物語を再現する試みに挑戦した、文字通り十年一剣を磨くが如く書き上げた著者渾身の一作。頁をめくった刹那、目眩く群像劇、男騒ぎの止まらないカツドウ屋の歴史絵巻が一気呵成に続く。俠気と狂気が行き交い、銀幕に内幕が絡み合い、映像と活字が切り結び、映画的興奮と読書の快楽が相伴う!

息もつかせぬ大衆娯楽活劇にして圧巻の血風録。

Text:Hakase Suidobashi Photo:Kouki Hayashi

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片桐仁が選ぶおすすめの本
旅する気持ちを刺激してくれる本

『東京くねくね』
松尾貴史/著 ¥1,300(東京新聞出版局)

キッチュさんが横で
話してくれるような気分で


キッチュさん(松尾貴史さんの旧芸名です。松尾貴史さん、これも芸名。本名は「松尾」でも「貴史」でもない!)が、東京23区を中心に各地を散歩しながら、ご飯を食べたり(主にカレーと麺類)、お酒を飲んだりするエッセイ『東京くねくね』。全然興味のなかった“区”の話(全国には中央区ではなく、北区が一番多いなど)や区の由来(大田区は「大森」と「蒲田」から取ったらしいが、なぜそこの部位を?)、イメージと現実のギャップ、妙に符合する話の持っていき方が楽しく、横でキッチュさんが話してくれているような文体に引き込まれました。

「これ、誰かに話したいなーと思うけど、忘れちゃう雑学満載」です。本になってしまうので、正確な情報も載せないといけないけど、「これはこういう理由なのではないか?」という推理が、事実より面白かったな〜。

Text:Jin Katagiri  Photo:Kouki Hayashi

安野モヨコが選ぶおすすめの本
奥深き香りまたは香水の世界

『私が好きなあなたの匂い』
長谷部千彩/著 ¥1,800(河出書房新社)

記憶の中の匂いと共に


長谷部さんの『私が好きなあなたの匂い』というこの本は文章で記憶と共にある匂いを思い出させてくれる。思い出す、と言うよりも体験させられる、と言う方が近いかも知れない。同じ体験をしていないにも関わらずその時の気温や風の匂い、人の息遣いをありありと感じてしまうのだ。それは香りをかいで思い出す記憶と似ている。

画像や音楽はネットで検索したら見る事ができるし聞く事ができる。でも、香りは確かめられない。香りだけは自ら体験するしかない。と、私は思っていた。でも、ページとページの間から香りがする。スティムレイテッドな、時には藁のような。滑らかな肌の触れ合う音とアルデハイド臭。夕闇に立ち昇るようなジャスミンの。薄く流れる煙の匂い。見上げた曇り空。都会の雨の匂い。どれも皆、知っている。自分の香りの記憶と混ざり合い物語を体感する。

いくつかの香りを知りたいと思ってネットで検索したけれどそれらはすでに製造が終わっていて入手出来ない。少しがっかりしたけれど、それで良いと思った。一生知ることのない香りを、文字で身に纏うように体感できるこの本があるのだから。

Text:Moyoko Anno  Photo:Koji Yamada

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ブルボン小林が選ぶおすすめの本
漫画家と思われていない人の漫画

『これが好きなのよ長新太マンガ集』
長新太/著 ¥2,800(亜紀書房)

漫画は漫画家だけが描くわけではない


絵本作家として有名な長新太は漫画もすごかった。この新刊は、漫画雑誌ではない媒体にちょこちょこと載せてきた漫画の集大成だ。絵本はページを「めくる」こと自体が仕掛けとなり、大きく展開させたり驚かせたりするが、漫画はページ内にも「コマ割」という区分けがある。このコマがいっけん単調に、豆腐を賽の目に切ったようにただただ真四角に切り取られるのだが、同じサイズの繰り返しが効果をあげて「語り」のリズムを生み出している。これは漫画雑誌に載るような漫画の作法では発生しないグルーヴだ。どの短編も主人公はおじさん。彼らの不可思議な冒険は、「なのよ」とのんきに繰り返される語尾と相まって、必ず癖になる。

Text:Bourbon Kobayashi Photo:Yuji Namba  Edit:Miho Matsuda

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ヨシダナギが選ぶおすすめ本
活字嫌いの人生を彩った一冊

『BEFORE THEY PASS AWAY 彼らがいなくなる前に』
ジミー・ネルソン/著 ¥4,200(パイ インターナショナル)

アフリカ少数民族のファッション写真


2009年から現地で少数民族を撮り始めたのも、アフリカの貧困をジャーナリズムとしてフォーカスするのではなく、もっと彼らの格好よさを広く知ってほしいと思ったから。

少数民族の魅力を広く伝えるためにポートレイト風など様々な方法に挑戦していたのですが、そんな時に見たジミー氏の写真が、心の中でシミュレーションしていた表現に最も近いものでした。ジャーナリズムとしてではなく、ファッション写真のように撮ってもいいんだと背中を押されたような気がしました。学術的にまとめた彼と違うことをするのなら、私はもっと奥地へ行けるし、アフリカ人との距離を縮めることができる。自分なりの色彩感覚で作品に仕上げるから、ジミー氏とは違うアプローチで私なりの表現ができるんじゃないかと試みて、現在の作風に至ります。

Photo:Kouki Hayashi  Interview & Text:Miho Matsuda

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