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Culture Post

ケラリーノ・サンドロヴィッチが選ぶおすすめの本
喜劇人の素顔

さまざまな分野で活躍するクリエイターやアーティストに聞いたとっておきの一冊。

Text:KERA Photo:Keiichi Wagatsuma


『哀しすぎるぞ、ロッパ 古川緑波日記と消えた昭和』山本一生/著 ¥2,400(講談社)

喜劇王の素顔の向こうに見える真実の昭和史

喜劇人の人生についての本を読むのが好きだ。「笑い」を生業(なりわい)にしている人間の生き様は面白い。喜劇人だから陽気で楽観的かというと、そうとも限らず、大抵どこか気難しいところがある。それでいて極端で破天荒な人が多い。古川ロッパもそんな一人だ。

戦前、エノケンと共に喜劇王と謳われたロッパは日記魔として知られ、遺された膨大な日記は『古川ロッパ昭和日記』として晶文社から四巻の分冊で出版されていて、モーレツに面白いのだけれど、なにしろトータルで五千ページを超える。読むとなると数年仕事だ。読んだけど。

山本一生氏によるこの見事な評伝は、ロッパ日記の要約としても秀逸である。華族出のインテリ編集者が、ひょんなことから喜劇役者になり、瞬く間に一世を風靡(ふうび)し、戦後は人気が没落し、貧困と病魔に喘(あえ)ぐ。その姿は壮絶の一言。結核による吐血を堪えながら創成期のテレビ番組に出演する件(くだ)りなど、読んでるこちらまで苦しくなる。日記というものは、他者に読まれることを前提にしていないから面白い。ライバルであるエノケンへの妬み嫉みや、つまらぬ芝居に笑う観客への罵倒など、まったく飾らずに、己のプライドの高さ、人としての徳の無さを露呈していて、気の毒なぐらいだ。もし日記ではなく自叙伝であれば、こんなことは絶対に書くまいに。絶対に関わりたくないタイプの傲慢な人なのだが、読み進めるうちに愛おしくてたまらなくなってくる。

もうひとつ、本書の大きな魅力は、一個人の日記とそれについての記述が、貴重な昭和史になっていること。戦時中、アチャラカ喜劇の客席は超満員で、観客は大笑いだったという。空襲警報が鳴ると一旦避難し、収まると戻ってきて観劇を続行した。警報も、慣れてくると、人間、意外と呑気だったようで、当時の生活におけるそうした側面は、なかなか他では語られないのではないだろうか。

テーマにまつわるその他の3冊

『21世紀アメリカの喜劇人』
長谷川町蔵/著 ¥1,600(スペースシャワーブックス)
「モンティ・パイソン以降の英米コメディアンを評論しながら紹介する。ありそうでなかった本。「笑い」は常に更新されているのだ」

『おかしな男 渥美清』
小林信彦/著 品切れ 重版未定(新潮社)
「小林信彦氏の書く喜劇人論は、どれも当事者との接触をもとにしているのが何よりの強味。そうした意味で、小林氏と奇人・渥美清の青春の記録でもある」

『モンティ・パイソン正伝』
グレアム・チャップマンほか/著 絶版(白夜書房)
「史上最強のコメディ・チームのメンバーが、各々の仕事を振り返る。仲が良いチームではなかった。そこがまたいい。創作の一点でのみ繋がることの尊さ」

Profile

ケラリーノ・サンドロヴィッチ(Keralino Sandorovich) 劇作家・演出家・映画監督・音楽家。1963年生まれ、東京都出身。82年にバンド有頂天結成。ナゴムレコードを立ち上げる。93年、劇団ナイロン100℃を始動。岸田國士戯曲賞ほか受賞多数。2015年、有頂天を再始動。映画監督としても活躍中。

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