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Culture Post

水道橋博士が選ぶおすすめの本
時代劇研究家・春日太一の世界

さまざまな分野で活躍するクリエイターやアーティストに聞いたとっておきの一冊。

Text:Hakase Suidobashi Photo:Kouki Hayashi

『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』
春日太一/著 ¥1,850(文藝春秋) ※文庫版は2017年6月10日に文春文庫より発売予定

男騒ぎの東映映画の血湧き肉踊る史書。

今、映画本のベストセラーを連発し、映画史の語り部として一躍、脚光を浴びる、若き時代劇研究家、春日太一氏の一連のお仕事を今回、紹介したい。

春日太一本は、銀幕に輝く大スターが数多(あまた)の脇役、端役の存在によって精彩を放つのと同じく、映画の光輝とは、見えざる陰の仕事の濃密さによって鮮烈に浮かび上がる――。そのことをテーマにした珠玉のノンフィクションの連作だ。

ボクは、まず2011年に出版された、文春新書『天才 勝新太郎』で、最初に度肝を抜かれた。 この本は、没後、勝新伝説として巷間流布(こうかんるふ)される、役者バカ・勝新太郎ではなく、監督・勝新太郎に焦点を置いた評伝として描かれた。

1977年生まれ、出版当時まだ三十三歳、生前の勝新太郎に面識もない、後追い取材の若書きの一冊に、リアリティなど望むべくもないと、最初は高を括っていたが、著者は映像京都(旧大映京都撮影所)に東京から単身通い詰め、勝新と時代を共にした、脚本家、撮影監督、スクリプター、照明、美術、小道具……。映画の裏方スタッフの声なき声を証言として拾い集める手法により、亡くなって久しい、監督・勝新太郎の輪郭を新たに太く深く鋭利に刻みこんだ。

“勝新山脈”が裾野を広げ、天才の孤高の頂きと稜線を、より明瞭に浮かび上がらせ、読者の脳内スクリーンに圧倒的な景観として映し出してみせた。

そして、今回、ボクが文庫本の解説を書いている『あかんやつら』は、東映京都撮影所という共同体の歴史と「集団的個性」を掘り下げ、かつ東映京都らしい、血湧き肉躍る「不良性感度」の高い物語を再現する試みに挑戦した、文字通り十年一剣を磨くが如く書き上げた著者渾身の一作。

頁をめくった刹那、目眩く群像劇、男騒ぎの止まらないカツドウ屋の歴史絵巻が一気呵成に続く。俠気と狂気が行き交い、銀幕に内幕が絡み合い、映像と活字が切り結び、映画的興奮と読書の快楽が相伴う!

息もつかせぬ大衆娯楽活劇にして圧巻の血風録。

テーマにまつわるその他の3冊

『時代劇は死なず! 完全版京都太秦の「職人」たち』
春日太一/著 ¥740(河出文庫)
「デビュー作。かつて京都太秦(うずまさ)に在った東映、大映、松竹の三つの撮影所を支えてきた誇り高き映画職人たちを描く『撮影所版プロジェクトX』※初出は2008年集英社新書」

『天才 勝新太郎』
春日太一/著 ¥940(文春新書)
「問答無用の超絶大傑作。勝新という尋常ならざる「個性」にフォーカスを定め、かつ大映京都らしい格調高い芸術的な深度を再現する趣向の一冊」

『仁義なき日本沈没―東宝vs.東映の戦後サバイバル―』
春日太一/著 ¥740(新潮新書)
「東宝と東映の戦後史を対峙させ、邦画のターニングポイントを描く。以上4作は、それぞれ周縁部を重ね合わせながら、各社の映像的社風を反響させた4部作」

Profile

水道橋博士(Hakase Suidobashi) 1962年、岡山県倉敷市生まれ。漫才コンビ「浅草キッド」のメンバー。タレントやコメンテーターとして活動する一方、著作も多数、代表作に『藝人春秋』『博士の異常な健康』。日本最大級のメールマガジン『水道橋博士のメルマ旬報』好評配信中。

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