松尾貴史が選ぶ今月の映画『ザ・サークル』
誰もが憧れる最先端の巨大SNS企業「サークル」に採用され、日々奮闘する新入社員メイ(エマ・ワトソン)は、カリスマ経営者ベイリー(トム・ハンクス)の目に留まり、新サービスの実験モデルに大抜擢される…。映画『ザ・サークル』の見どころを松尾貴史が語る。(「ヌメロ・トウキョウ」2017年12月号掲載)
未来のことでも他人事でもないSNSの進化
政治家が本来語るべき議会ではなく、ソーシャル・ネットワーキング・サーヴィス、いわゆるSNSを使って、意思表示をしたり、釈明したり、デマをばら撒いたり、ということが多くなっています。SNSとは、それほどまでに公的な事に頻用されるようなツールとなってしまったのですね。
その政治家やその他のセレブリティに対しての誹謗中傷嫌がらせが頻出しているのは、その匿名性によってのことであり、実は個人の特定ができない状態でのネット利用は、これから先はできなくなるのではないかと予想しています。つまり、誰だかわからないからこそ、嫉妬のエネルギーやストレス解消の衝動によって人を貶める行為ができるのは、今のうちだと思っているのです。
今は過渡期で、これからは誰がいつどこで何をどのように書いたか、すぐに露見してしまう世の中になると思っているのです。
この『ザ・サークル』というのは、劇中の社会で世界一の参加者を持つSNSのことで、運営会社はこのシステムを各個人に選択の余地がないほどのシステムとして君臨しようという目論見です。個人個人は特定され、存在証明にもなり、相互監視社会を形成して安全や平和に寄与しようというのです。
安全や平和のためと言いつつ、一部の人にのみ利益をもたらすだけの実は危険なものを、危機を煽って導入するという現象は私たちの身近なところにも散見されますが、「人が見ているから正しく生きようとする」という良心の質を問われるような命題がここに生まれるのです。
あの『ハリー・ポッター』シリーズでハーマイオニーを演じていたエマ・ワトソンも小柄とはいえすっかり大人になりました。彼女の役どころは、幸運(?)にもその企業に入社した新入社員で、その優秀さから世界中のユーザーに私生活を観られ続けるインフルエンサーの役目を負わされます。ジム・キャリーの『トゥルーマン・ショー』をも思い出す設定です。
近未来の社会の異常な進化を描いた作品には『華氏451』『ソイレント・グリーン』『赤ちゃんよ永遠に』などが思い浮かびますが、この作品はそれらよりは数段、現実味を帯びていて、2、3年後にはすでにそういう世の中になっているのではないか、いや、こういうことは世界の一部ではもう行われているのではないかという恐怖は確実に感じます。
トム・ハンクスの静かな不気味さには、いそうでいないようでいそうという絶妙のキャラクター設定に舌を巻きます。完全に、「あの人」の印象です。お為ごかしながら、選択肢を狭めていく集団催眠のような話術に引き込まれますが、警戒しながら観ていて正解です。
ストーリー展開の加速度が心地よく、観後感も美味しゅうございました。
『ザ・サークル』
監督/ジェームズ・ポンソルト
出演/エマ・ワトソン、トム・ハンクス
全国公開中
URL/http://gaga.ne.jp/circle/
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Text:Takashi Matsuo