大田由香梨が提案する「ライフスタイリスト」とは?
衣食住を“スタイリング”する新しい仕事の形
ファッションスタイリストでありながら、カフェ「ORGANICTABLE BY LAPAZ」のプロデュースを手がける大田由香梨は、衣食住のすべてをコーディネイトする女性クリエイター。カテゴリーにとらわれず活動の幅を広げ“ライフスタイリスト”というジャンルを自ら開拓。体と心に栄養を与える「FOOD」、居心地のいい空間「HOUSE」、そして自分らしさに彩りを添える「FASHION」。その3つを1つの「STYLE」でまとめあげる独自の感性を持っている。大田由香梨に聞いた、自分らしいワーキングスタイルの見つけ方。
ファッションスタイリストが手掛けるオーガニック・カフェ「LAPAZ」
──ライフスタイリストになるまで、どんな道を歩んできたのでしょうか。
「母が縫製の仕事をしていたので、ミシンの下で遊んだり、作業している手元を見て育ちました。ファッションが身近で、欲しいものは自分の手で作るのが当たり前だったから、服に関わる仕事をしたい気持ちはかなり小さい頃から根底にありました。でもスタイリストという仕事は、突如目の前に現れたもの。はじめて販売員としてアルバイトしたのが植田みずきさん(『ENFOLD』デザイナー)が当時ディレクションされていたショップで、スタイリストの修行もされていた彼女からバトンを渡してもらう形で、突然アシスタントになることが決まったんです。22 歳で独立後、雑誌『GLAMOROUS』や『ViVi』を中心にスタイリングや編集の仕事、広告やブランドのディレクションにも関われるようになり…。肩書きがよくわからなくなってきて(笑)。長くファッションの分野でトレンドを作る仕事をしてきて『今世界で起きている最先端の物事を自分というフィルターを通してアウトプットするんだ!』という強い使命感を持ってやってきましたが、トレンドの移り変わりを見る一方で、嘘偽りなくストレートに体当たりできることをライフワークにしていきたいなと。それが結果として、ライフスタイリストだったんです」
──スタイリストの枠を超えて、カフェ・レストランをオープンしたきっかけは?
「お店をやろうと決めたのは2011年で、大きなきっかけになったのは東日本大震災。震災当日、何かしなきゃという一心で、自分で持っていた冬物の衣料をかき集めてボランティアに向かったんです。届けた服で暖を取る方々を目にした時、改めてファッションの持つ力を感じました。同時に、ファッションの力って服をスタイリングすることだけじゃないのかもしれないと気づいて。元々あった食への興味とか、空間が好きなこととか、自分の中の全部が繋がりました。独立してから29歳までずっとファッションスタイリストとして仕事をしてきましたが、ライフスタイリストとして自分を語るようになった大きな転換期。その時に感じた『自分の価値観を人生にしっかりリンクさせていきたい!』という思いが、このお店に詰まっています。だからお店を作るときは内装をDIYしたり、食材を自分で買いに行ったり、ほとんどのものを自分の手で作りました。今思えばその経験が今のワーキングスタイルのベースになっています」
マクロビオティック・コーチ西邨マユミとの出会い
──オーガニックにこだわった理由は? 食べ物への意識は以前から高かったのでしょうか。
「10代から20代前半までは『お肉大好き!ジャンクフード大好き!』そのままの食生活で…かなり無頓着だったと思います。気になりはじめたのはお店をやろうと思う少し前。最初はマクロビオティックへの興味でした。2010年頃ってコンセプトカフェが流行っていて、今では定番のライフスタイルショップがまだ身近になかったから作ろうと思って、ナチュラルフードにフォーカスしてみたんです。そうしたら『あの子ちょっとカルト的なことを始めたんじゃないの?』なんていう噂が(笑)。マクロビってまだそういうイメージだったんですよね。オープンして一年くらいは、昼夜は普通のカフェメニュー。本当にやりたかったマクロビの食事は朝だけ提供していました」
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──当時情報が少ない中で、マクロビオティックの知識はどこで?
「LAでマドンナのプライベートシェフをされている専門家・西邨マユミさんの存在を知ったことが大きかったです。住んでいる場所も遠いし面識はまったくなかったのですが、自分がお店をはじめる前に、彼女に共感する食への熱い思いをつづってダメもとでメールを送りました。そしたらなんと返信が! マユミさんが来日されたタイミングでお店に来てくれることになり、その後は『LAPAZ』にメニュー提供をしてもらったり、トークショーもご一緒していただきました。マユミさんが発信する『キッチンから世界平和を』というメッセージに、心身ともにパワーをもらっています。五年前と比べれば変わってきたけど、日本では食材を選べるお店ってまだまだ少ない。そういうお店を見つけても、まだストイックな空気感があってなかなか気軽には入りずらくないですか? 例えばLAだと、ファッションや音楽に敏感なキッズたちがビーガンやローフードを注文していて、その様子がとてもナチュラル。店員さんもそう。『LAPAZ』はそれを目指していて、理論だけじゃなくて、考え方とカルチャーを発信したい。誰にとっても居心地がいい、一人一人のスタイルを大切にできるお店にしていきたいです」
Photo:Yuji Numba, @otayukari
Interview:Yukiko Shinmura