吉岡里帆インタビュー「エネルギーチャージは観劇とライブ鑑賞、リラックスは美容とマンガ」
アートディレクター・千原徹也による映画初監督作品『アイスクリームフィーバー』が公開される。本作は、川上未映子の短編「アイスクリーム熱」を原案に、千原監督独自のヴィジュアル表現と、映画への愛情を織り込んだ作品だ。独特の映像美とリリカルな表現に溢れた本作で主演を務めるのは、長年、千原監督と仕事をしてきた吉岡里帆。彼女に千原監督の世界観や撮影中のエピソード、オフのリラックスタイムの過ごし方について聞いた。
「心配ごとが幻想的に昇華されていて、千原さんの力を感じた」
──吉岡さんと千原さんは長い付き合いだそうですが、吉岡さんからみて、千原さんとはどんな方ですか。
「いつも眠そうな方という印象があります(笑)。というのも、千原さんは他の人の10倍以上、動いているんです。今回の作品でも製作からプロモーションまで、ひとりで請け負っているようなところがあって。行動力があって、自分の睡眠時間を削ってまで、やりたいことのために時間を使うプロフェッショナルだし、大人になっても夢を追い続けている人。どうしてこんなにバイタリティが溢れているんだろうと不思議です。毎年カレンダーの制作を千原さんにお願いしているんですが、いつもいいものを作ってくださるので、信頼しています」
──そんな千原さんから映画のオファーがあったのはいつ頃ですか?
「2019年頃、構想段階でオファーをいただきました。でも、その後、企画がなかなか進まないというお話も伺っていて。ご自身にとって最初の作品だから妥協したくないし、出演者やスタッフもすべて自分が一緒に仕事をしたい人と作りたい。それを全部叶えて、ここまでちゃんと着地させたことに、千原さんの凄さを感じます。企画が進んでいく中で、途中段階の様子も少し聞いていたのですが、千原さんが監督をするのだからヴィジュアルも可愛いくて美しいものになるんだろうという期待がありましたし、原案が川上未映子さんの『アイスクリーム熱』だと教えていただいてから、川上さんが描く女性はいつも魅力的なので、演じるのがすごく楽しみでした」
──脚本を受け取った時の感想と、撮影現場の雰囲気を教えてください。
「脚本は、過去と現在の時間軸が混じり、現実と夢の狭間を行き来するような内容だったので、もしかしたら観る人は混乱するかもしれない、観客のみなさんにどこまで伝わるんだろうかという難しさを感じたんです。私とモトちゃん(モトーラ世理奈)のパートは、イメージ映像のようなシーンもたくさんあるので、これは映画として成立するんだろうかという心配もあり、現場でも千原監督にしつこく質問してしまいました(笑)」
──千原さんは本作で「映画制作をデザインする」というテーマを掲げていますが、撮影の仕方も独特だったそうですね。
「一般的な映画の撮影は、何回もテストをしながら作り上げていって最後に本番を撮影するんですが、今回は芝居を固く作りすぎずに、瞬発的に出てくる表情を捉えるような撮り方をされていたんです」
──撮影中に、これは千原さんならではのこだわりだと思った部分は?
「やっぱり美術です。一般的な映画の美術は、その空間や登場人物が実在してるような空気感を作り込むことが多いんですが、千原さんの場合は、1つ1つのアイテムへの思い入れがあって。例えば、デザイナーをしていた菜摘の本棚には、この本があってほしいという願いが込められていたり、置かれているもの、着ている服のひとつ一つが千原さんの好きなもので埋め尽くされているんです。佐保の部屋には、目立つ場所にバッグが置かれてるんですが、ルネ・マグリットの『これはパイプではない』という作品から着想を得たデルヴォーのものなんですね。それは千原さんが『これは映画ではない』というテーマを掲げて映画を撮っているから、それを表現しているようなバッグを置きたかったとおっしゃっていて。そういうこだわりが面白いなと思いました」
──衣装も素敵でしたね。
「スタイリストの飯嶋久美子さんは、スタイリングが可愛いのはもちろん、包容力があって現場がすごくハッピーでした。メイクは奈良裕也さんが担当してくださったんですが、詩ちゃん(詩羽さん)のリップはその日によって色が変わるんです。ぜひメイクに注目してみてください」
──試写で完成したものを見て、いかがでしたか?
「私が現場で心配していた時系列もちゃんと成立していて、映画としてのテーマの提示もされていたし、川上未映子さんに対するリスペクトもしっかりあって。それにやっぱりヴィジュアルも素晴らしくて。気にしていたシーンの繋がりも、そこが幻想的な雰囲気になっていて、さすがだと思いました。それから試写で驚いたのは、音楽へのこだわりです。お仕事の時は千原さんの事務所『れもんらいふ』で打ち合わせをすることもあるのですが、とんでもない量のレコードがあるんです。だから、千原さんはかなり音楽が好きなんだろうなと思っていたのですが、この作品でも田中知之さんの音楽がとても素敵なんです。一般的な映画では決してしないような、セリフの上に音楽をのせたり、セリフが音楽でかき消されるシーンもあったり、千原さんが好きなこと、やってみたかったことを、思う存分やったんだと感動しました」
「前に進めずに躊躇しているからこそ、余白と伸び代がある」
──先ほど、川上未映子さんが描く女性は魅力的だと言っていましたが、吉岡さんが演じた常田菜摘に対してはどう感じましたか。
「菜摘は、グラフィックデザイナーの仕事を諦めて、アイスクリーム屋さんでバイトしながら、前に進めず鬱屈とした毎日を過ごしている女性です。初め台本を読んだときは夢を諦めるのは早すぎるんじゃないか、これからまた頑張ればいいのにと思っていたんです。ただ、自分を確立する難しさは理解できるし、普遍的な悩みですよね。自分自身が完成している人なんていないし、その欠けてる部分を埋めてくれる人と出会ったときに心が揺れ動くというロマンチックさはとても気に入りました。それから、映画の撮影後に、ウンナナクールとのコラボレーションで、川上さんが短い詩を書き下ろしてくださったんです。それがまるでこの映画の続きのように感じられて、菜摘には余白も伸び代もあるし、まだまだ高いところに跳ぶことができる人なんだと。川上さんの詩によって、撮影後に改めて違う側面から菜摘を見つめることができました」
──モトーラ世理奈さんや詩羽さんなど、共演者との交流は?
「キャストがみなさん、私が好きな人やずっと会いたかった人ばかりで、すごく楽しかったです。モトちゃん(モトーラ世理奈)とは初めての共演だったんですけど、すぐ打ち解けて。劇中で、モトちゃんとスケートボードで渋谷の街中を走るシーンがあるんです。撮影中も楽しかったんですけど、試写でそのシーンを観たら自分でも見たこともないような嬉しそうな表情をしていました(笑)。詩ちゃん(詩羽さん)は、現実をしっかり見据えていて、夢があって、キラキラしていて、大好きです。松本まりかさんや安達祐実さん、MEGUMIさんなど、お仕事したいと思っていた先輩方とも今回共演することができました。キャストもスタッフも、みなさん千原さんとずっと一緒に仕事をしてきた人なので、現場の雰囲気もすごく良かったです」
──菜摘は、前に進めず立ち止まってしまう反面、衝動的に行動する一面もあります。吉岡さんご自身はいかがですか。
「私自身は、お店をほっぽり出して好きな人を追いかけちゃダメでしょと自制してしまう、つまらないタイプなんです(笑)。だから、衝動的に行動することはないんですけど…、あ! ひとつありました。ライブや舞台を観にいくことが大好きなので、どれだけ忙しくてもその衝動には正直に、意地でも観に行きます。絶対この日に見ておかないと私は後悔する! あの瞬間はあの場所にしかない!って。舞台も音楽のライブも、お笑い芸人さんのコント、漫才とか、その瞬間、その場所だけの表現がとても好きです」
「最近、行ったのはBLACKPINKとTWICEのライブ。椎名林檎さんは神様のようでした」
──最近行ったライブは?
「BLACKPINKとTWICEのライブに行きました! この世のものとは思えないくらい可愛くてとても感動したし、元気をたくさんいただきました。それから椎名林檎さんのライブは、演出も素晴らしかったし、林檎さんという存在がもはや神。ステージに降臨した林檎さんを観ることができて、本当に幸せでした」
──休日の前から演劇やライブの予定を立てるんですか。
「休みの前から、このお芝居の昼公演とこの夜からのライブ両方行くには、移動はこれくらいの時間がかかるからと真剣にスケジューリングしています。あとは美容も好きなので、マッサージとか鍼灸にもよく行くし、新しい美容を教えてもらったら発掘しに行きます。ジムとピラティスも続けていますね」
──美容で今、注目していることは?
「植物オイルのマッサージです。仕事で身体を酷使すると、体の内側が炎症しているように熱を持つことがあるんです。気持ちも高ぶってるので、消炎効果のあるオイルでマッサージすると眠りが深く気がして続けています。それから掛け流しのヘッドスパもすごく癒されるので時々通っています。食事の面では、抗酸化作用のあるものを意識して食べるようになりました。今までは好きなものを好きなだけでしたが、それに加えて美容にいいものもがんばって食べようと。生野菜やストイックなサラダも身体にいいと聞くので頑張って取り入れています」
──エンタメ鑑賞と美容のほかに、リラックス方法は?
「マンガを読むこと! これは、休みの日に限らないんですが、仕事から帰宅したらまず、とろんとした素材のルームウェアに着替えて、温かいものを飲みながらマンガを読む、この時間が至福なんです。最近よく読むのは、『忘却のサチコ』や『山と食欲と私』などの、日常系と料理・食系の作品です。父がマンガ好きで、実家にいた頃は、父が買う青年誌系や弟の少年誌系も全部読んでいました。最近は携帯でも読むけれど、やっぱり紙の単行本が好きで、松本大洋さんや井上雄彦さん、浦沢直樹さんなどのレジェンド作家さんの単行本は紙で揃えています。上京するときに松本大洋さんの『ルーブルの猫』を持ってきたんですが、上京してオールカラー版を見つけたので即購入しました。今も部屋に飾っています」
──お話を聞いていると、オフがとても充実してますね。
「そうなんですよ。楽しく過ごしています」
──これからオフに挑戦してみたいことは?
「ダンスと英語の習得です。ダンスは趣味だとしてももう遅いかなと諦めていたんですが、先日、黒木瞳さんとご一緒したとき、『観るのは大好きだけど、できないことのNo.1はダンスなんです』と話したら、『何歳からでも遅くないので、ぜひ挑戦してみてくださいね』と背中を押してくださって」
──じゃあ、いつかTWICEを踊る吉岡さんの姿を観られるかもしれませんね。
「そういえばTWICEのライブは、必ずファンによるダンスチャレンジの時間があるんですよ! カメラに抜かれた客席のファンの方は、絶対に踊らなきゃいけないんですが、なぜかみなさん上手なんです! 絶対に私のところには来ないだろうと思いつつ、すごくドキドキしました。でも、ダンスを習うとしたら、翻訳劇の舞台でも踊れるように、ジャズダンスにすると思います(笑)」
シャツ ¥99,000、スカート ¥121,000、ローファー ¥145,200/すべて Marni(マルニ ジャパン クライアントサービス 0120-374-708) ピアス(セットで)右耳 ¥29,700 ネックレス ¥69,300/ともに Swarovski Jewelry(スワロフスキー・ジャパン www.swarovski.com) アイスクリームのピアス(左耳)¥14,850/Ohrora ブルートパーズのリング(右手人差し指)¥23,100/Hiromi.A(ともにロードス 03-6416-1995)
『アイスクリームフィーバー』
美大を卒業してデザイン会社に就職するもうまくいかず、今はアイスクリーム店「SHIBUYA MILLION ICE CREAM」にバイト長として勤務する常田菜摘(吉岡里帆)。ある日、店を訪れた作家・橋本佐保(モトーラ世理奈)に運命的なものを感じる。バイトの後輩・桑島貴子(詩羽)は変わりゆく菜摘に複雑な想いを抱くが…。一方、アイスクリーム店の近所に住む、高嶋優(松本まりか)は、姉・愛(安達祐実)の娘・美和(南琴奈)の突然の訪問に戸惑っていた。いきなり始まった共同生活。熱(フィーバー)のような衝動を抱えた4人の想いは交錯していく…。
監督/千原徹也
原案/川上未映子「アイスクリーム熱」(『愛の夢とか』講談社文庫)
脚本/清水匡
主題歌/吉澤嘉代子「氷菓子」
音楽/田中知之出演/吉岡里帆、モトーラ世理奈、詩羽(水曜日のカンパネラ)、安達祐実、南琴奈、後藤淳平(ジャルジャル)、はっとり(マカロニえんぴつ)、コムアイ、新井郁、もも(チャラン・ポ・ランタン)、藤原麻里菜、ナツ・サマー、MEGUMI、片桐はいり/松本まりか
URL/icecreamfever-movie.com
twitter/@icecreamfever_m Instagram/@icecreamfever_m
7月14日(金)TOHOシネマズ日比谷、渋谷シネクイント他にて全国ロードショー
©️2023「アイスクリームフィーバー」製作委員会
Photos:Takao Iwasawa Interview & Text:Miho Matsuda Styling:Rika Endo Hair & Makeup:Sayoko Yoshizaki Edit:Chiho Inoue