岡田将生インタビュー「マンガを読んでいるとあっという間に一日が終わってしまう」 | Numero TOKYO
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岡田将生インタビュー「マンガを読んでいるとあっという間に一日が終わってしまう」

旬な俳優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.96は岡田将生にインタビュー。

2000年に台湾で公開され、第57回台湾アカデミー賞最多受賞作となった『1秒先の彼女』を、『リンダ リンダ リンダ』や『苦役列車』で知られる山下敦弘監督と、『あまちゃん』や『池袋ウエストゲートパーク』等、数多くの話題作の脚本を手がけた宮藤官九郎という初タッグにして盤石のコンビが『1秒先の彼』としてリメイクした。

宮藤の指名により、主人公の“何でも1秒早い”郵便局員・皇一/ハジメを演じるのは岡田将生。清原果耶演じる“何でも1秒遅い”大学生・長宗我部麗華/レイカとの、“消えた1日”を巡る一風変わったラブストーリーだ。口が悪く、自分のペースを貫く癖の強いハジメというキャラクターを、ピュアでファニーな魅力たっぷりに演じた岡田に、16年ぶりの山下監督作品への参加、思い入れの強い宮藤脚本のことに加え、オフの過ごし方についても聞いた。

キャラクターが勝手に走り出す。16年前の僕にはできなかったこと

──『1秒先の彼』のオファーを受けた時のお気持ちはいかがでしたか?

「『来たか!』と思いました。山下監督とお仕事をするのは僕がデビューしてすぐに出演させていただいた『天然コケッコー』以来でした。そこからずっと『またご一緒したい』と思い続けていて、でもどこかで『そういうことはないだろうな』と思っていたところがあったので、『ついに!』という気持ちでした。緊張と嬉しさが半々でしたね」

──16年前の『天然コケッコー』の時とどんな違いを感じましたか?

「デビュー当時の頃は、監督の演出の意図が全くわかりませんでした。つまり、『こういう風にセリフを言って』とか『あっちを見て』っていう風に指示されても、なぜそうしなければいけないのか理解できなかったんです。でもいろいろな作品に出演させていただく中で、徐々にわかるようになりました。今回は山下監督のもと、ハジメくんというキャラクターを一緒に作っていく中で、どんどんハジメくんが一人で歩きだしていったことがすごく嬉しかったんです。構造的にも監督のちょっとした演出がのちのちストーリーの中でとても活きていくことが多い作品だったので、監督と話し合いながら作っていったんです。そういうやりとりは16年前の僕にはできなかったことなので、とても楽しさを感じました」

──ハジメくんという個性の強いキャラクターをどう演じようと考えましたか?

「ハジメくんは何をするにしても1秒早いんですけど、そういうキャラクター自体なかなかいないですよね(笑)。だから、そこをどう解釈して作っていくかが重要だと思いました。台湾のオリジナル版では主人公の女性が何でも1秒早いんですけど、とてもキュートで面白味があって。そんな作品を山下監督と宮藤さんのタッグに乗っかる形で演じていけば、確実に面白いものになるなとは思いました。最初、早くセリフを言ってみたり、人の会話を聞かないで話してみたりしたんですが、そうすると会話が成立しなかったり、台本の面白さが半減してしまったんです。そこで監督とお話する中で、『ハジメくんが1秒早いということがわかりやすく描かれているカットがあると、早さを強く意識したお芝居をせずとも自然と面白味が出るんだな』と感じて、1秒早いということをあまり意識せずに演じるようになりました。ただ、連日撮影をしていると、自然とどんどん早くなってしまい、監督に『早くなってる!』と指摘していただくこともありましたね(笑)。1秒遅いレイカちゃんを演じる清原さんをはじめ周りのキャストの方々のリアクションひとつでハジメくんの見え方が大きく変わったので、とてもありがたかったです」

──岡田さんと宮藤さんというと、『ゆとりですがなにか』をはじめとする作品で何度かご一緒されていますが、『1秒先の彼』の脚本からは、どんな宮藤さんらしさを感じましたか?

「僕がこれまでご一緒した宮藤さんの作品はまともな役がないんですよ(笑)。それもあって、今回宮藤さんが僕に求めていることが何となく想像がつきました。自分では勝手に宮藤さんとは相性が良いと思っています(笑)。台湾のオリジナル作品をリメイクするにあたって、セリフの言葉選びや行間に宮藤さん節がすごく出ていて、日本語ならではの面白さをすごく感じました。是非台湾版と見比べてみてほしいですね」

──宮藤さんの脚本を演じる上での面白さや難しさって、どう感じてらっしゃいますか?

「宮藤さんのホンにはほぼト書き(脚本で人物の動きや気持ちを説明する文章)がないので、基本的にどう動いても良いんですよ。だからこそ自由で、自由だからこそ難しい。俳優がどう料理するかによって作品が大きく変わるところが面白いところだと思っています。今回山下監督は、『ゆとりですがなにか』ではどんな演出だったの?と僕に聞いてくれることもありました。ト書きがない分、自分の頭の中で『ここはこう動いたら活きるな』とイメージが沸いてくることが多いので、それを監督と共有した上で、丁寧に演出してくださいました。あと、セリフの一つひとつがとても面白くて、どれも聞き逃したくない言葉なんですよね。どうでもいいセリフに聞こえたとしても、のちのちすごく重要な意味を持ったりする。それもあって、宮藤さんのホンには普段の倍くらいの時間をかけて向き合います。その時間が好きなのかもしれないです。読む度に新たな発見があって、何度読んでも飽きない。だから、作品自体も色あせずにいろいろな時代にマッチして、たとえ10年後に見たとしても、引き込まれるものがあるんだと思います」

──役を育てる楽しさがあるということですかね。

「そうですね。ハジメくんも、最初に脚本を読んだ時に『こうしよう』と思っていたことと結局真逆のことをやったんですよ。勝手にキャラクターが走り出す瞬間があったというか。そうなるとありがたいんですが、そこまで持っていくのが大変ですね。でもそれがまた楽しいんだと思います」

映画的なマジックが宿った作品になった

──ハジメくんはいろいろな個性を持っていますが、共感する部分はありましたか?

「僕も割とせっかちな方なので、そこは共感しました(笑)。あと、素直な人間でもないので、そこがハジメくんみたいな癖の強いキャラクターが好きな理由のひとつだと思いました」

──『1秒先の彼』は京都の美しい情景も魅力的です。特に印象に残っている景色というと?

「この作品の映像的な醍醐味は、ハジメくんが目覚めると日曜日がなくなっていたところにあると思っています。台湾版の日曜日が消えたシーンを『これはどうやって撮影したんだろう?』と気になっていたんですが、ロケ地である京都のエキストラの方々が楽しみながら取り組んでくださったことで、大変な撮影だったにもかかわらず、映画的なマジックが宿った作品になったと思っています。台湾版を見て僕が『台湾に行ってみたいな』って思ったのと同様、この作品を見て『京都に行ってみたいな』って思ってもらえないとダメだと思うんです。でも、おかげさまでそういう作品になったんじゃないかと思っています」

──できあがった作品を見た時はどう思いましたか?

「僕、自分が出ている作品を見る時は基本的にずっと反省してるんですよね(笑)。撮影している時も反省してばかりではあるんですけど。もちろん監督がOKを出してくださったものに対しては何の悔いもありませんが、役者としての反省は大いにあります。ただ『1秒先の彼』は先ほどもお話したように、見た時に『京都に行きたいな』って思えたのと、音が入ったことでシーンの意味合いが変わっていたところもあって、僕にしては珍しく『もう1回見たいな』と思えた作品でした」

マンガを読んでいるとあっという間に1日が終わってしまう

──オフのお話も聞かせてください。最近は何をしていることが多いですか?

「録りためた番組や、見たかった映画を見ることが多いですね。あと、最近ハマっているゴルフをやったりしています」

──最近観た作品で刺激を受けたものというと?

「邦画ですと、『Winny』という作品を観たんですが、とてもよくできていて『こういう作品に呼ばれたいな』と思いました。あと、僕は未だに毎週ジャンプを買うくらいマンガが好きなので、1日中マンガを読んでいる日もありますね。『日本三國』と『ダーウィンクラブ』という作品も本当によくできていて面白かったです。『実写化しないのかな』って思いました。好きな小説を読んでる時も、『これが映画になったら面白いだろうな』と思ったりします。そんなことをしているとあっという間に1日が終わってしまうんですよね。以前はよく音楽を聞いていたんですが、あまり聞かなくなりましたね。ピアノの音が好きなので、クラシックは今でも聞くんですが、バンド系はめったに聞かなくなりました。コロナ禍でフェス自体が開催されない時期があったことで、昔よく行っていたフェスからも足が遠のきましたね。今はフェスも戻ってきているので、いつかまた行きたいですね。バンド系の音楽を聞くとすぐ行きたくなると思います(笑)」

──二年ほど前、松坂桃李さんが「最近はよく岡田さんと生田斗真さんとゲームをやっています」とおっしゃっていたんですが、最近はゲームはやられていないですか?

「そんな時期もありましたね(笑)。桃李さんと斗真さんとの3人の時間は本当に楽しいんです。ゲームをしながら、同じ仕事をしている同士だからこその話もできて、すごく大切な時間でした。こういうことを話していると、お二人に連絡をして『ゲームやりませんか?』って言いたくなりますね(笑)。あまりにもゲームに費やしている時間が多かったので最近卒業したんです。インプットしなきゃなと思って、それでいろいろな作品を鑑賞しています」

──面白い作品に出会うと、例えば悔しさを感じることはあるのでしょうか?

「以前は面白い作品に出会うと、『出たかったな。悔しいな』と思うことはあったんですが、最近はあまりそう思わなくなりました。悔しさというより、『そういう作品に呼ばれる人になろう』と思うようになったというか。同世代の方も含めて、他の役者さんから刺激をいただくことがとても多いので、自分も刺激を与えられる存在になりたいなと思います」

──同世代で刺激をもらう方というと?

「たくさんいらっしゃいますが、『ゆとりですがなにか』でもご一緒した桃李さんと柳楽(優弥)くんは、どんな作品に出られるのかすごく気になります。お芝居を見ると、『うわ、やっぱりすごいな』と思います。桃李さんから『あの作品、良かったよ』とか『今、ドラマ見てるよ』って自分の作品についての連絡をいただくことがあるんですが、その時は嬉しいですね。僕も桃李さんの作品の感想を毎回送っています」

──プライベートで役を引きずることはありますか?

「昔は全くそういうことはなかったんですが、1か月前ぐらいに映画を撮っていた時期に、役に影響されたのか、少し性格がキツくなっていたんです。普段イラっとしないことでイラっとする瞬間があったり、言葉が深く引っかかってきたり。それで共演者の方と、『役に引っ張られる役者になりたいね』って冗談っぽく話した後に、『でも俺たち今、ちょっと性格キツくなってるよね? もしかして今の状態がそうなのかな?』っていうやりとりをしたんです(笑)。それだけ役に没頭できているってことだとしたら嬉しいですね」

──では最後に、一ヶ月休みがあったら何をしたいですか?

「海外に行きたいですね。ようやく気軽に行けるようになりましたし。行きたい美術館がたくさんあるヨーロッパに行きたいです。20代の頃は、仕事で地方ロケが多かったりすると、『休みの日ぐらいは家にいよう』って思うタイプだったんですが、コロナが落ち着くにつれて、『どこか遠くの場所に行きたい』という気持ちが強くなっていった気がします」

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『1秒先の彼』

監督/山下敦弘
脚本/宮藤官九郎
出演/岡田将生、清原果耶、福室莉音、片山友希、しみけん、笑福亭笑瓶、松本妃代、伊勢志摩、柊木陽太、加藤柚凪、朝井大智、山内圭哉、羽野晶紀、加藤雅也、荒川良々
配給/ビターズ・エンド
©2023『1秒先の彼』製作委員会
https://bitters.co.jp/ichi-kare/
7月7日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

Photos:Ayako Masunaga Interview & Text:Kaori Komatsu Styling:Yusuke Oishi Hair & Makeup:Reico Kobayashi Edit:Chiho Inoue

Profile

岡田将生Masaki Okada 1989年8月15日、東京都生まれ。2006年にデビュー。映画『ホノカアボーイ』、『重力ピエロ』、『僕の初恋をキミに捧ぐ』、『ハルフウェイ』など、出演作が相次いで公開された09年に映画賞の新人賞を独占。以降テレビドラマ、舞台など活躍の場を広げ、実力派俳優として活躍中。近年の映画主演作に、『伊藤くんAto E』(18)、『家族のはなし』(18)、『さんかく窓の外側は夜』(21)、『聖地X』(21)、『ドライブ・マイ・カー』(21)など。他にも「ゆとりですがなにか」(16)、「ザ・トラベルナース」(22)など出演作多数。ナレーションを務める「SWITCHインタビュー達人達」が毎週金曜放送中。

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