岸井ゆきのインタビュー「芝居をすることだけが女優じゃない」 | Numero TOKYO
Interview / Post

岸井ゆきのインタビュー「芝居をすることだけが女優じゃない」

旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.41は注目の若手女優、岸井ゆきのにインタビュー。

006_015
006_015

1992年生まれのミレニアル世代を代表する若手女優、岸井ゆきの。2009年にTBS連続ドラマ『小公女セイラ』でデビュー後、映画、テレビ、舞台、CMなど幅広く活躍。現在は劇団☆新感線『髑髏城の七人 Season風』(11月3日まで)の舞台にも出演中で、多忙な日々を送る。そんな彼女が、11月4日公開の映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』で春野吉子として初主演を務める。おじいちゃんの死を通して見えてくる家族の姿はどんなものなのか? また、プライベートでの家族についてやオフの過ごし方について話を聞いた。

初主演を務めることが現場での意識を変えた

──映画初主演をしてどうでしたか? 何かご自身に変化はありましたか?

「この映画で主演を務めることが、転機になった気がします。役者として自分がどう見えているかではなくて、私自身が現場でどういう立ち位置でいるべきか、芝居以外のことも学ぶことができました。毎日炎天下でハードスケジュールだったのですが、現場ではとにかく元気でいよう! と。今まではとにかく芝居をすることだけに集中していて、自分の殻を破ることができなくて。なかなかスタッフさんやキャストの皆さんとコミュニケーションを取ることができませんでした。でも、どの現場でも主役の方がそれぞれのやり方で現場をまとめていっていたことを思い出して。主役の人の気持ちが周りに広がっていく。だからこそ、私もこの状況に初めて「飛び込んでみよう」と思えた気がします。私が頑張らないと! と気負っていた部分も、“森ガキ組(森ガキ侑大監督とそのスタッフ)”が温かく迎えて入れてくれたことで、すっと役にも入れて。周りと話していると役のことで気づくことも多いし、何よりも自分がいやすくなる、居心地がよくなる。お芝居だけやってればいいんじゃないということを実感した作品でもありました」

──共演した大先輩(岩松了、美保純、水野美紀、光石研ら)たちとのコミュニケーションはどうでしたか? 彼らから学んだことはどんなことですか?

「現場では芝居の話はせず、だいたい雑談ばかりしているんですが、みんな始まったらしっかりと芝居をする。そのバランスがすごく素敵だと思いました。芝居についていろいろ言い合うのもいいんですが、このチームはそうではなくて、待ち時間もなんだか家族みたいな感じだったので、自然に馴染めました。こういうやり方もあるんだなと思いましたし、本当に楽しくやらせてもらいました」

──雑談はどんな内容なんですか?

「そうですね、覚えてもないくらいのことなので、本当に他愛もない話です(笑)。食事の話とか家族の話とか、池本啓太くん演じる弟の春野清太が先に帰ってメイク室で寝てたんだよね、みたいなちょっと母親に愚痴っている感じでカジュアルに。(笑)本当に家族のような感じでしたね。このシーンはどうだとか、そういう話をしないというのは新鮮でした」

005_032
005_032

新しく家族を持つことは、
自分の家族と離れることかもしれない

──今回の映画のように、親族の死を通して家族に対する見方が変わったことはありますか?

「父と母は、私にとってはそれぞれ別の存在で、両親の背景に関してはまったく知りませんでした。でも、祖父母が亡くなった時、叔母は母の妹なんだということを初めて意識したんです。“母は叔母とずっと一緒に住んでいて、同じ時間を共有していたんだ”と、ふと思いました。それは映画の中でもそうなんですが、岩松了さん演じる春野昭男は光石研さん演じる春野清二と兄弟で、池本啓太くん演じる春野清太は私が演じる吉子の弟です。でも、こうやって一緒に生活して過ごした仲なのに、なんでこんなに遠くなってしまったのかな……と映画でもプライベートでも思ったりしました」

──これまで見えなかった家族の在り方が、あるきっかけで見えてきたんですね。

「やっと関係性がわかるようになってきました。新しい家族を持つというのは、これまでの自分の家族と離れることでもあるのかと考えたりして」

──映画の中の役も、冷静で客観的な見方をできる人物像でしたが、岸井さんもそういうタイプですか?

「私も高校生の時そうでしたね。俯瞰して物ごとを考えるタイプで(笑)。だから、その時のことを思い出しながら演じました。あと、台本を読んでいると、客観的に見るからこそ理解できることが多い。恋人との関係性もそうだし、一歩引いて見れないとダメな部分もあるなって。好きだけどドライ、どこか諦めているところもある、みたいな。ただ、いろいろと考えても結局、自分で考えるよりは会話をしよう、現場でそう感じました」

005_029
005_029

──役に引きずられますか?

「普段はそうみたいです。ただこの映画の撮影中は“元気でいよう”という気持ちでいっぱいだったので、そこまで引きずられることはなかったです。でも、撮影が終わってホテルへ帰ってからは主人公の吉子みたいに、もう一人の自分がいるような感じでふーっと一息つくことがありましたね」

──シーンとしてつらかったところや印象に残っているところはありますか?

「光石さんと2人で車に乗っているシーンがあるのですが、私が台本で読んで想像した以上の感情が湧きました。おじいちゃんが死んだ、その事実が吉子にとってももちろんつらいことなのですが、私自身もどこか感情的になって。一人で台本読んででもわからないことがたくさんあって、現場で演じるからこそ湧いてくる感情がありました。あと、タバコを吸うシーンがすごくつらかったです(笑)。私、タバコがたぶん合わなくて。シーンによってはフリスクを食べながらタバコを吸っていたので、かなりしゃべりづらかったですね(笑)」

オフの日は基本的に室内で過ごします(笑)

──今、忙しい日々を過ごしていると思いますが、オフは何をしていますか?

「映画見るか、舞台見るか、友達とお茶するか……。外には出るけれど室内に入ってしまいますね。前は、散歩したりもしていたんですが、今はもうしないです。おいしいパン屋さんとか、雑貨屋さんに寄って、無駄使いばかりしちゃうんですよ(笑)」

──今、ハマっているものは?

「“筋膜リリース(筋膜の癒着や萎縮を正常に戻すこと)”です! 11月3日まで舞台もやっているので、体力づくりに励んでいることが大きな理由なのですが……ローラーを使って毎日コロコロしています(笑)」

ニット¥8,900/Didizizi スカート¥22,800/Fig London(ともにアンビデックス 03-5465-0447)

映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』の
情報はこちらをチェック!

Photos:Motohiko Hasui Styling:Satsuki Shimoyama Hair & Makeup:Nori Interview & Text:Kurumi Fukutsu Edit:Sayaka Ito

Profile

岸井ゆきの(Yukino Kishii) 1992年神奈川県生まれ。2009年TBS連続ドラマ『小公女セイラ』でデビュー後、テレビドラマのほか、舞台や映画でも活躍。16年にはNHK大河ドラマ『真田丸』に出演し注目を集めた。主な出演映画に『ピンクとグレー』『森山中教習所』『太陽を掴め』、テレビドラマに『99.9 –刑事専門弁護士』『突然ですが、明日結婚します』など。11/4には初主演となる映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』が全国公開予定。18年元旦には三谷幸喜脚本・NHK『風雲児たち〜蘭学革命篇〜』が放送。これからの活躍に期待が高まる。

Magazine

JANUARY / FEBRUARY 2025 N°183

2024.11.28 発売

Future Vision

25年未来予報

オンライン書店で購入する