村上虹郎インタビュー「演じることを通して、その人たちの幸せを表現したい」 | Numero TOKYO
Interview / Post

村上虹郎インタビュー「演じることを通して、その人たちの幸せを表現したい」

旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.38は俳優、村上虹郎にインタビュー。

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デビュー作以来、ユニークな存在感で注目を集め続けている俳優・村上虹郎。その彼が、9月1日から公開の映画『二度めの夏、二度と会えない君』に主演。“あの夏”をやり直すために半年前にタイムリープしてしまう高校生を演じている。そこで、現在20歳の彼に、オンとオフの過ごし方、家族との関係や恋愛観、役者としての思いを聞いた。 家族と会うとオフという感じがします ──続々と主演作が公開になっていますね。仕事が忙しいから、それほどオフがないのではないでしょうか? 「たくさんはないですが、自分の時間はあります。最近は映画を観ている時間が多いですね。映画が好きというのもあるし、観ておかないとという思いもあって。昨日は『カリートの道』を見ていました。今、僕の中でショーン・ペンさんブームが来ていまして」 ──本当の意味では休まらないんですね。 「そうですね。ただ、家族と会うとオフという感じがします。母親は今、カナダに住んでいて、親父は東京にいます。カナダは遠いし、あまり行かないですが。以前僕が留学していたのもカナダなんです。モントリオールに住んでいて、今、母親が住んでいるのはバンクーバーの方の離島です。フェリーで2時間くらいのところ。バンクーバーは比較的住みやすいです。夏は涼しいし、冬は寒すぎない。とはいえマイナス10度までいきますが、防寒具がしっかりしているし、家の中の作りが東京ほど寒くないので。たぶん、こっちの方が寒いです」

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今に満足はしてないです、というか、満足はしないです

──映画『二度めの夏、二度と会えない君』ではタイムリープする主人公、智を演じています。時を巻き戻せるなら戻りたい時点がありますか?あのときああすればと、後悔していることは?

「基本的には今がいいです。どこかに戻れるって言ったら、多分たくさんある。言い出したらキリがないです。それより今をもっともっと素敵に生きる方が大切だなと思います。でも、学校は辞めなければよかった、もっといたかった、と思います。途中で辞めてしまったので。でも、あのとき辞めていなかったら今がない、という感じです」

──今に満足しているんですね。

「満足はしてないです。でも楽しいですね。というか、満足はしないです。過去に執着はしたくないと思っています。ただ今作のように人が死ぬってことになると話は別ですよ。それは違います。絶対に。今作は『いや、もう、忘れようぜ』ていうくらいの話ですよね。なのに、あえて突き進む。時間、戻されちゃいますしね。智って男には後悔があって、心の中にそれがずーっと残っていたんでしょうね」

──虹郎さんは智のようなタイプではないですね。

「そうですか? いやいや、似ているところもあります。身内に対しては不器用なので。恋愛もそうかもしれないですね。例えば、彼女に言葉で伝えようとするけど、ぜんぶは打ち明けられない。いろんな話をするし、僕、おしゃべりなんですけど、肝心なことを肝心な言葉で言えない。そういう扉が開かないというのはあります」

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明日死んだらどうしようって、いつだって思っています。

──恋愛には不器用と?

「実は距離が遠い方が伝えられる、人としての距離に余裕がある方が、こうやって会話にできる……。逆にすごく近いと〝話す必要がない〟という甘えが出てしまう。〝わかるでしょ〟って。それはきっと家族や親友に対しても同じですね」

──ヒロインの燐は積極的でしたよね。

「ありがたいですよね。あんな人いたらいいなと思います。本当はいろんな葛藤があるのに、強いですよね。特に女性はそういうところがある。男はそこで開き直れないところがありますよね。僕はそういうところだけは、オープンになりましたけど。言うべきときに言わないのは、ほんとうの男じゃないと思いますし。そこは言わないと!」

──家族に対しても不器用?

「言葉にするようにはしています。明日、死んだらどうしようって、いつだって思っているので。もし帰り道になにか起きてしまったとして、そしたら『愛してる!産んでくれてありがとう!』て、もう一回、言わないと、そういう衝動が来ると思います。18歳の誕生日には両親にメールを送りました。仕事を始めたのが16歳だったから、やっぱり学校を卒業する年が、僕にとっては人としての成人、と思ったんです。そのときは僕からメールしました。でもムラジュンはそういうことを細かく把握しているんです」

──お父さんのことムラジュンて呼ぶんですね。

「まさか、本人に向かってムラジュンとは呼ばないですよ。けど、他人と話しているときは、親のこと、UAとムラジュンて呼んでます(笑)」

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映画の現場に惚れました

──ムラジュンさんの息子としては、自然に役者になろうと思ったんでしょうか?

「いやいや。『2つ目の窓』(2014)という作品で河瀨(直美)監督にお会いして、オーディション受けさせてもらって。一度は落ちましたけどね(笑)」

──結果、それがデビュー作となりました。その撮影で俳優って面白いかも、と感じられたんですね?

「そうです。まず、映画の現場に惚れました。いろんなところから集まって来ている人たちが、本気で同じものを作るという、その世界に。河瀨監督の現場では「なんでカメラのないときも役を生きなければならないの?」という苦しさがありました。「役を生きろ」というのが河瀨組の手法だったから。今だったらもっとしっかりできると思いますが、当時はなかなか難しかったです」

──役者としてのスタートが、そういう映画製作という現場というのは恵まれていたかもしれません。

「河瀨組はすごく特殊な場所だと思います。僕はそのデビュー作の現場中は、まだこの先、役者を続けるかは決めていなかったんです。まずはこれをやってからでした。人生経験としてしかやってなかった。仕事ではなかったんです」

──今後はどんな役を演じてみたいですか?

「不条理な役です。今作もある種の不条理はあると思いますし、不条理の中を生きる男はすごく好きです。自分から遠い役をやりたいし、ラブコメもやりたいし、障害を持つ役だったり、いろいろと経験してみたいと思っています。役を通してその人たちの幸せを表現したいです」

衣装:シャツ¥46,000/7×7(セブンバイセブン 03-6427-8435 ) パンツ¥18500/Rags McGregor (Pred PR 03-5428-6484 )

映画『二度めの夏、二度と会えない君』の情報はこちら

Photos&Text : Shoichi Kajino
Styling:Go Takakusagi
Hair&Makeup:Ryohei Matsuda
Edit:Masumi Sasaki

Profile

村上虹郎(Nijiro Murakami)1997年3月17日、東京都出身。2014年、第67回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品『2つ目の窓』(河瀨直美監督)主演で俳優デビュー。15年、『書を捨てよ街に出よう』で舞台初出演初主演を飾り、活躍の場を広げる。他、出演作に『神様の言うとおり』(14年/三池崇史監督)、『さようなら』(15年/深田晃司監督)、『夏美のホタル』(16年/廣木隆一監督)、『武曲 MUKOKU』(17年/熊切和嘉監督)がある。9月23日に『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(廣木隆一監督)、9月30日に『Amy said』(村本大志監督)と出演作が公開を控える。

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