松山ケンイチ インタビュー「役者が本物志向になると、面白くない」
──志ん田のキャラクターはどことなく、素の松山さんに似ているような気がします。志ん田に共感するポイント、似ているなと思うところはありましたか?
「自分ではあんまりわからないんですが、こだわりを持ってるというのは、僕にも当てはまるところですね。でも、小さなこだわりみたいなものは、志ん田以外の人にも全員あって。そういう考え方もあるんだなって気付かされたり、お互いを認め合えることも、ひとつの成長だと思います。それに、この映画の中みたいに共存できるこだわりがあるって、いいですよね。志ん田の役は僕っていうよりも、完全に『僕達急行 A列車でいこう』の小町なんです。この映画では、全員がかつて森田作品でやったことのある役を引きずって出ている。新しい役をやってる人はいないんですよ」
──森田監督がこの作品を観たら、どんな感想を持たれると想像します?
「いや、わからないです。森田さんのことはやっぱり今でもわからないし、本当はいろいろわかった上で一緒に仕事したかったなと思うんですけど、とにかく感性が面白すぎてついていくだけでも必死でした。だからご一緒した3回とも、森田さんの演出に従ってちゃんとできてるのかなと、ただ不安になる現場だったんですよね。森田さんから言われたことで今でも覚えてるのが、『ウケを狙わないでくれ』という話。『ウケを狙うのが一番サムい。人間はそのまま生きてるだけで面白いんだから』とおっしゃっていたのは、すごく印象に残ってます」
──35年という時間の変化を、どこに一番感じました?
「(伊藤)克信さんの体型の変化とかを見て、年月を感じていました(笑)。訛りは変わってないですけどね」
──前作を知らない世代の人たちに、どう楽しんでもらいたいですか?
「ゆるい青春映画なので、僕世代の人はもちろん、少し疲れていてリフレッシュしたいという方にも、すごくいい映画だと思います。なんかこう、何者にもなれないというか、“のようなもの”ってみんな抱えている感情じゃないですか。僕は、何かにならないといけないと考える必要はないと思うんです。いつの間にかなっちゃっているとか、そういう感じでいいような気がする。この映画に流れている、とりあえず今を楽しんで生きていこうよというメッセージは、ある意味、森田さんの『僕達急行 A列車で行こう』と繋がっている部分もあると思います」
──ご自身を何か”のようなもの”だと考えたりします?
「“のようなもの”でもあるし、本物でもあるかな。そのジレンマというか、せめぎ合いは常に抱えていて、どちらか片方に振れても駄目だと思うので、ギリギリのところにいたいと思っています。役者が本物志向になっちゃうと、面白くないんですよね。たとえば、僕自身が短期間で本気になって落語家を目指すのは、役として見ると一番つまらない。プロのほうが上手なのは明瞭なわけだから。結局は、それを表現としてどう面白く見せていくかが、“のようなもの”の仕事なんですよね」