上野樹里インタビュー「料理は結構手早いんです」
自分自身の今に影響を与えた人物や、ターニングポイントとなった出来事、モノ、場所との出合い。それをきっかけに変化し成長した自分を振り返る。上野樹里のビフォー&アフター。(「ヌメロ・トウキョウ」2018年9月号掲載)
──ドラマ『グッド・ドクター』で2年半ぶりの連ドラ復帰ですね。心構えの変化はありますか。
「間を空けて作品に挑むと、モチベーションが上がります。デトックスした後にご飯を食べる感じと似て。よくプライベートと仕事の両立は大変じゃないですか? って聞かれますが、プライベートだけでも仕事ばかりでも不完全。その両方が良いバランスであってこそ私が存在しているので。自分のことだけでなく、夫の仕事のサポートに回ることもあります。いろんな刺激があって、今はとても充実しています」
──上野さんの役は小児外科の臨床医・瀬戸夏美。仕事場にサヴァン症候群の青年・新堂湊(山﨑賢人)が後輩として入ってきて、奮闘する役どころとか。どんな女性ですか。
「執刀医としてはまだ子どもの手術の経験がなく、縮小化されつつある小児科が舞台。現状に歯がゆさを持ちながらも、常に明るく前向きな女性です。そこにレジデントとして湊がやってくる。湊は難しい後輩ですが、夏美は特別扱いはせず、医師としての湊を評価し、すごいところは認めて、コミュニケーション面で欠ける点ははっきりと指摘する。先輩として、偏見なく湊を面白く感じているのでしょう。湊が持つピュアで恐れない性質に、敏感に反応していきたいですね」
──小児科の思い出はありますか。
「小1の時、風邪をこじらせて病院に行って、入院したことがあります。最近、命にまつわるテーマが自分のもとに集まり、考える機会が多いです。このドラマを放送することで、一人でも小児外科医を目指す方が増えたり、いま実際に働いている小児科の方たちの励ましになるといいなと思う。この仕事に関わる方たちにシンパシーを抱いていただけるくらい、リアルに演じたいです」
──結婚という大きなターニングポイントから約2年。義母であり料理家の平野レミさんの有名なブロッコリー料理の写真が、上野さんのインスタグラムに上がっていました。
「料理はよくします。ほかにもレミさんのレシピをたくさん作っていますよ。夫がほぼ毎日家で食べるので。彼は家庭料理で育っていて、カップラーメンもスーパーのお惣菜などにも縁がない、手料理を食べたい人なんです。私、料理は結構手早いんですよ。ご飯を早炊きしている間に3品くらい作って、洗い物も終わらせてから食べる。夫が同じことすると2倍以上の時間がかかっちゃう」
──それは優秀ですね。得意料理はなんでしょう。
「最近は暑いから、酸っぱいものやさっぱりしたものが食べたくて。私は魚が好きなので、鰯のマリネに凝っています。あとラタトゥイユは3日ぐらい持つから、ドンと作って冷蔵庫に作り置き。それがあれば、夫がご飯は食べてきたけどつまみに何か欲しいという時にも『あれ食べて』って言えて、キッチンを汚さずにすむ。朝ご飯は鮭や鯵の開きとみそ汁と漬物、納豆とシソ、ネギ、卵でもあれば十分」
──料理はどこかで習ったのですか。
「14歳で母が亡くなり、その前から自分で作ったり、隣のおばあちゃん家に食べに行ったり、何とかしのいだ経験があって。15歳で上京してからも、料理はしていましたね」
──レミさんに習うことは?
「いや、習うというより、おいしいものがあるとよく呼んでくれます。『鮮魚が届いたから食べにいらっしゃい!』と連絡をくれて、行くとおいしいお刺身が並んでいる! タレもパクチー醤油やポン酢など4種類くらい用意されていて、夫と食べて『ごちそうさまです!』って。本当にありがたいです。レミさんはお母さんとして最高のキャラクターです。日常でいろいろ起きたとしても、『何でもありよ! そんなことで何よ!』って動じない(笑)。 年齢より遥かに気持ちが若くて、自分がどれだけ疲れていても、人を笑わせることでエネルギーをつくれる人。私は母を早くに亡くしているので、義理の母であり私の母なんです。電話でしょっちゅう話しています」
──素敵な関係ですね! 嫁と姑は仲が悪いものかと思ったら。
「昔は多かったでしょうね。お正月はこれ、何月にはこれをやって、とお作法や文化を知らないと『あなたできないの?』と言われる…。でも、そんな行事的なことをまったくやらないから大丈夫(笑)。それより、おいしいレストランができたからみんなで行こう! などのお誘いが多いです」
──そもそも、子どもの頃から女優になりたかったのですか?
「私は小学生の高学年の頃、この毎日がいつまで続くんだろう? と謎に思っていました。机の前にじっと座って、興味のない分厚い教科書を開いて、がんばらなきゃいけないという教えのもと、何も抵抗しなければこのまま人生が進む。努力した子は大学に行けるだろうけど、勉強好きじゃないしお金も必要。大学に行けなかったら将来が狭まって、何になるのか、選ばれる側になる。OLとしてデスクワークをする自分を想像しても、まったくリアリティがないし。現実を抜け出すために、自分が楽しいことをやりたいと思ったんです。学校行事でみんなが一丸となるのが好きだったから、歌やダンスなどを楽しみたい人が自主的に集まって共有し合えたら楽しいなぁって。試しに雑誌に載っていたモデルオーディションを受けてみたら、モデルは受からなかったけど、なぜか事務所に入り、CM、ドラマ、映画と次々と受かって、気づいたら俳優になっていたんです。だからA社B社C社を受けて、A社が第一希望だったけどC社に呼ばれて就職しました、みたいな感覚に近い」
──流れでこの仕事をつかんだ、と。
「最初のうちは、俳優ってメガホン持った監督に『違う!』と怒られるし、本を読むのも苦手だし…とネガティブなイメージで捉えていたけど、実際そんな監督はどこにもいなかったです。しかも俳優の仕事は感覚的で教科書がない。どちらかといえば、運動神経や体力を要するガテン系。全然違う自分になれて、みんなで作る過程も楽しい。だから続けているんです。いまだに本を読むのがひどく遅くて、映画2時間の台本に5時間もかかっちゃうけど。とにかく、気づいたら俳優になっていた。周りの皆さんが導いてくれたんですね」
──この先も俳優を続けていきたいですか。
「ここまで来ると、ほかの仕事が浮かばないですよ。夫だって、ミュージシャン以外の仕事は浮かばないんじゃないかな? 自分でゼロからプロデュースできるわけじゃなし、タイミングと作品との相性で役につける。これまでは運だけでやってきたようなもので、この先も多分そう。だからよく神社に行ってお参りしてます!」
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Photo: Ayako Masunaga Styling: Junko Okamoto Hair&Makeu : HAMA Interview&Text: Maki Miura Edit: Sayaka Ito