ディーン・フジオカ インタビュー「バイオリンを猛特訓しました」
自分自身の今に影響を与えた人物や、ターニングポイントとなった出来事、モノ、場所との出合い。それをきっかけに変化し成長した自分を振り返る。ディーン・フジオカのビフォー&アフター。(「ヌメロ・トウキョウ」2019年12月号掲載)
──香港や台湾、北米、日本などで広く活動されているディーンさん。キャリアの上で大きなターニングポイントとなったのは?
「拠点を移し、国を変えるたびにターニングポイントが訪れました。それまでつくってきた常識を一度ぶっ壊さなければいけないところがあったので。特に日本に戻ってきたときはギャップが大きかったです」
──何がそんなに変わりましたか?
「自分が生まれた国で仕事できるありがたさを痛感しました。国籍があれば、何もしなくてもいられるから。他の国では滞在するためだけに、さまざまな手続きが必要じゃないですか。観光でなら誰でも行くことができますが、仕事となるとゼロから社会との接点をつくらなければいけません。言葉と文化の違いを乗り越え、人間関係を新たに築き、さらにビザのことなどで煩雑な手続きも必要。海外では常にハンディキャップを負っていたので。日本に戻ってきて、『今までこんなにハンディキャップがあったんだ!』と再認識したほどです。自分の国で、それも母国語で仕事できると、感覚が全然違う。だからこそ、できることをただ繰り返すのではなく、どこかしらで常にチャレンジをし続けたい。そうでないとご先祖さまに失礼だという気持ちになります」
──『モンテ・クリスト伯 華麗なる復讐』『レ・ミゼラブル 終わりなき旅路』、そして放送中の月9『シャーロック』と海外の古典をモチーフにしたドラマが続いているのも挑戦? 作品選びはどのように?
「縁とタイミングですね。いろんな大人の事情があるとは思いますが、ドラマのキャスティングは、楽しかった、一緒にやってよかったと思うから、同じチームから声をかけてもらえると思うんです。もちろん、僕も良い思い出だからもう一度やりたいと願っているわけで。時間がたって、再び集結して一緒にクリエイトする。俳優の仕事はその連続で、人の縁が基本。そのプロジェクトにとって自分がどんなふうに貢献できるのかと考えていると自ずと導かれていく気がします。役については、自分でプロデューサーにでもならないと、決められることではないというのもありますね。名作シリーズに3作続けて出演できたのも、そういった縁からです。ただ、『モンテ・クリスト伯』で演じた衝撃は半端なく、とてつもないエネルギーを持った作品に仕上がった達成感はありました。あの現場の日々は、この15年俳優をやってきて、トップ3に入るくらい厳しかった。みんなで打ち上げしてお別れして、ようやく乗り切った感がありました。今回、同じチームで久しぶりに顔を合わせたら、まるで同窓会みたいでしたね」
──気心の知れたチーム『シャーロック』ですね。ディーンさんが演じている誉獅子雄(=シャーロック)はどんな人物ですか。
「謎多き存在です。孤独で狂気じみていて、ちょっと間違えると犯罪衝動がありそう。いつ追いかける側から追われる側になってもおかしくないと思いながら演じています。原作『シャーロック・ホームズ』からインスパイアされつつ、一話ずつ作っています。令和元年の東京を舞台にしている点が、今まで作られた日本のシャーロック・ホームズもの、あるいはホームズをベースにした探偵物語と大きく違います。現代の息遣いを感じられるタイムリーな話題を取り上げ、そこに複雑な人間関係が絡まります。どこで誰とつながっているか、誰もが被害者、加害者になってもおかしくない状況。獅子雄はもちろん、岩ちゃん(岩田剛典)が演じる若宮潤一(=ワトソン)、(佐々木)蔵之介さんが演じる警部・江藤礼二など、魅力的なキャラクターが集まり、謎を一緒に解いていきます」
──ホームズとワトソンといえば強力なバディ。タッグを組む岩田さんはどんな方ですか。
「礼儀正しくて、一つ一つのプロセスに正面から向き合う努力家ですね。きっと音楽など他分野でも頑張り屋さんでしょうね」
──最近、ご自身に変化したことはありますか。
「バイオリンを弾く自分…でしょうか。原作のホームズがバイオリンを弾く人物なので、ドラマでも演奏シーンが出てきます。テーマ曲が出来上がったのがINする直前で、短期間で猛特訓しました。実はそのフレーズがめちゃくちゃ難しいんですよ! プロの方でも難しいというのに、バイオリン超初心者の僕がやっと音が出るようになったところで弾かなきゃいけない(苦笑)。相当なハードルの高さです」
──でも上達したら、ミュージシャン活動につながるのでは?
「うーん、ピアノやギターみたいに、ここを押せばこのピッチの音が出るという楽器とは違い、正確な音を出すだけでも何年もかかるんです。頑張れるかな?」
Photos:Masato Moriyama Interview & Text:Maki Miura Edit:Saki Shibata