【新連載】パントビスコの不都合研究所 vol.3 ゲスト 上白石萌歌 | Numero TOKYO
Culture / Pantovisco's Column

【新連載】パントビスコの不都合研究所 vol.3 ゲスト 上白石萌歌

ようこそ、ここはパントビスコの不都合研究所。世の中に渦巻くありとあらゆる“不都合”な出来事や日常の些細な気づき、気になることなどをテーマに、所長のパントビスコがゲストを迎えてゆる〜くトークを繰り広げる新連載。果たして、ゲストの不都合を解決に導くことができるのか? 第3回目のゲストは、女優の上白石萌歌。

パントビスコ「初めまして。『パントビスコの不都合研究所』へようこそ」 上白石萌歌「お会いできてうれしいです。今日はよろしくお願いします」 パントビスコ「ここでは、最初にお互いの似顔絵を描き合うことになっておりまして」 上白石萌歌「あまり普段絵を描かないので…どうしよう。ぺろちじゃダメですか(笑)?」

パントビスコ「なんでもOKです。僕も実は似顔絵があまり得意じゃないんですよ」 上白石萌歌「本当ですか!? う〜ん、こんな感じでしたっけ…。これ以上描くとバランスが崩れるので、この辺にしておきます(笑)」

似顔絵、完成!

上白石萌歌・画「パントビスコ」 / パントビスコ・画「上白石萌歌」

(パントビスコ)「あっ、ぺろちに似てます。耳が顔から離れていますけど。こっちの方が可愛いです」

(上白石萌歌)「これが私ですか? ありがとうございます! 恩座マユコちゃんみたい」

「僕の描くキャラクターの一人ですね。よくご存知で」

「本当に大好きでよく拝見しているんですよ。もう何年も前からフォローさせていただいてます」

SNS時代の“不都合”を徹底討論!

「うれしいです。僕も2〜3年前からずっと拝見していて、いつかお会いしたいと思っていました。この企画は、普段感じている不都合や困っていること、日常生活での些細な気づきなどテーマにお話を伺えたらと思っています。早速ですが、今気になっていることってありますか?」

「そうですね、なんでしょう…。パントビスコさんの投稿って、ただ面白いだけではなくて、世間に対する叫びだったり、人に見られる仕事をしている私たちの心の叫びみたいなものを代弁してくださっているところがありますよね。そういうものが刺さるからこそ、きっといろんな方に支持されているんだろうなと思います」

「ありがとうございます。まさか褒めてもらえると思っていなかったので、うれしいです。」

「いえいえ(笑)。本当にいつも楽しく拝見させていただいてます! なかでも、SNSでの誹謗中傷に関する作品に共感しています。パントさんもファンの方からそんな反応を感じていらっしゃったりしますか?」

「逆質問になっちゃいましたね(笑)。実際、僕自身も見てくださる方が増えるにつれて、そういった意思疎通のできない方も必ず出てくるんですよね。でも、まともに受け答えすると、こちらが悪いことになっちゃうんですね。だからその辺が難しいなと実感しています」

「そうですよねぇ…」

「人の悪口を言ったり、人を傷つけるのはダメだというのは、当然のことじゃないですか。ただ、ネットの世界ってその法がまだ追いついていないんですよね。だから、今は言われた人が泣き寝入りするようなことが続いている気がします」

「多分、悪気はないんですよね。例えばTwitterって、海に向かって叫ぶようなことばっかりだと思うんですよ。特定の誰かに対して届ける、というわけではなく。それでもやっぱり、私の友達だったり自分自身もそうですけど、心無い言葉を受けちゃったりすることもありますし」

「同じ海の近くにいることもありますしね。たまたま耳に入ってしまうこともあるので。そのときに悲しい気持ちになりますよね」

「私も『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』というドラマに出演させていただいたのですが、まさにそういう題材の作品でしたし。今の時代に本当に必要なテーマだったのかなと思いますね」

「本当ですね。反響もものすごかったじゃないですか。だから世間にもそういう気持ちをもっている方が多いということですよね」

「私自身、SNSで発信するときは、どうしても言葉数が少なくなりがちですね。気をつけると、何も言えなくなっちゃう感じがして」

「僕も、イラストのなかで自分が思っていることを伝えることがあるのですが、例えばファンの方から『赤と青どちらが好きですか?』と聞かれたら、僕はどちらが好きというのを言わないようにしているんですね。なんでかって言うと、『赤が好きです』と言ったときに、青が好きな人たちから『パントビスコ、青が嫌いなんだ。青好きの敵だ!』と思われちゃうことがあるんですね。そういうのも難しいですよね」

「そうですよね。そういうつもりじゃなくても、そう受け取られてしまうこともありますし。何が好きっていうのも言えない風潮になってきてるのを感じますよね」

「だから今の時代は、何かを好きと言うのにも勇気が要る。考えて言わないといけないことがあるんですよね。僕はそういうのが面倒だなと考える部分があるので、あまり自分から好き嫌いを言わないようにしているんですよね。想像にお任せします、という風に」

「そうだったんですね。他に、小さいことで言ったら何だろう? あ、雨の日の傘問題。傘をこう横に持つ人がいて、たまに顔に傘の先が当たりそうになるときありませんか?」

「ありますね。階段を歩いているときとか、特に。あれは危ないですよね。僕もそのネタをイラストに描いたことがあって。そうしたら、コメント欄に『わざと当たりに行きます』という声があって」

「(笑)」

「肩だったりをコツンと当たるようにして、気づかせるという。それはそれでまた危ないな、と思うので、一番いいのはご本人がやらないのことなんですけど。それも悪気があってやっているわけじゃないので、難しいですよね」

「そうですよね。他に悩みというと、パッと思いつくことがなくて…。だから、恵まれているなと思いました(笑)」

カラオケで“あるある”な気遣いとは?

「素晴らしいですね。それはいいことですよ。ちなみに萌歌さんは、オフの日は何をされているんですか?」

「逆にパントビスコさんにお聞きしたくて! 正体が謎すぎて本当に実在するかわからない存在だったので。1日に何回も投稿されているじゃないですか。書斎にこもりっきりだったりするんですか?」

「そうですね、1日に3〜4枚くらい作品を描いているので。描く場所があって、そこで描いてます。フォロワーさんがまだ少ないときは、カフェとかで描いていたりしたんですけど」

「そうなんですね。普段何をされているのか、とても興味があります!」

「いたって普通の人です」

「歌も歌ったりされてますよね?」

「萌歌さんの前で、お恥ずかしいんですけど(笑)。単純に好きなので。歌といえば、カラオケには行かれます?」

「カラオケは姉としか行かないんですけど、たまに行きますね」

「カラオケには、僕の中で結構“あるある”があって。例えば友達と一緒に行っても、保険をかける人とかいませんか? 『これ初めて歌う歌だ』と言って、多分何回か歌っているのに下手でも見逃してもらうために言い訳をするとか」

「ありますね、あります(笑)」

「あとは、店員さんが入ってくるときだけミュートになるとか。カラオケだけでも100個くらいあるあるが出てきそうですね」

「間奏の間することがなくて、とりあえず烏龍茶を飲むとか(笑)」

「わかります。あと、気を利かせてくれる相手だったら、自分が歌っているときはちゃんと聞いてくれて、携帯も触らないし、トイレにも行かない」

「私、そういう気遣いしちゃう派です。携帯も触れなくて。相手が傷つくかなと思って」

「僕も同じです。嫌な思いをさせたくないので。それで、自分のターンでわざと曲の番号を入れずに、トイレに行きます」

「えっ、どうしてですか?」

「相手が歌っているときにいなくなったりしたら、『私の歌に興味ないのかな』とか思われるかもしれないので」

「(笑)。結構気を遣うほうですか?」

「そうですね。気を遣うからこそ、社会のいろいろなところが気になって、毎日ネタが生まれています」

「そういうことなんですね〜」

「だから普段、キョロキョロしています。映画館とか、舞台もそうですけど」

「よく観劇されたりします?」

「最近では舞台を拝見する機会が増えましたね。そのとき、すごく集中して観たいなと思うのですが、公共の場なのでいろいろな方がいるじゃないですか。例えば、隣の人がすごく音を立てる方とか。そうなると、そっちばかり気になってしまって。コンビニの袋をガサガサしたりとか、あと独り言のような声を発したりとか」

「それはちょっと良くないですか!? ダメですか(笑)?」

「だから生きにくいのかもです、僕って」

「繊細なんですね。人間観察もお好きそうですよね」

「好きですね。萌歌さんもきっとお仕事柄、人のことを観察されますよね」

「そうですね。でも単なる好奇心だったりしますね。見ちゃいけないと思うんですけど、電車の中でおじさんがメールを打っていて、ハートの絵文字ばかりで。誰に送っているんだろうとか(笑)」

「気になりますよね。その先のストーリーが書けそうですよね」

「そう考えたら、携帯の端末って怖いですよね。自分のアイデンディティがそこに詰まっているというか」

「自分の覚えていないことも入っていますしね。写真だったり、LINEもそうですし」

「恐ろしいですよね。そんな映画もありましたよね」

「話してみると、いろいろな問題が出てきましたね。そうだ、今回ご出演される舞台『お勢、断行』についても教えてください」

「実はまだ台本をいただいていなくて、来年の1月頃からお稽古に入る予定なんです」

観客と作り上げる、舞台ならではの魅力

「萌歌さんは、ドラマに映画、歌などさまざまなジャンルでご活躍されていますが、舞台というのはやっぱり違うものですか?」

「キャリアのスタートがミュージカルということもあって、舞台は自分の原点というか、一番身が引き締まる思いがしますね。お客さんによっても、全く変わるんですよ」

「雰囲気がですか?」

「お客さんがいきなり立ち上がって叫んだりしたら、中断されるじゃないですか。だからその緊張感がありますよね」

「生で演技をする舞台ならではですね」

「お客さんと一緒に作品を作っていくというか。もしかしたら、お客さんも静かにするということを演じているのかもしれないですね」

「なるほど…。いいことを聞きました。こちらも、もちろんいつもリスペクトして拝見しているんですけど、よりそういう気持ちになりました」

「本当ですか。うれしいです! 実は、舞台の初日に20歳を迎えるんです。私の役どころも、そういう人生の移ろいのなかにいる人物で、作品のテーマも善や悪を問う作品でもあるので、それを表現できたらと思います。他のキャストの方も魅力的で、何より倉持さんの作品が私自身すごく好きで、今からとても楽しみです」

「僕は、今のお話が伏線回収みたいに紐づいた気がしました」

「え、どういうことですか?」

「先ほどのSNSのお話もそうだなと思って。僕らは表現者として発信していて、きっと見ている人たちはただの通行人じゃなくて、きっとその作品を見るオーディエンスでもあったりするのかなと。誰かが何か突っ込んだりすると、またコメント欄や作品が違う見え方になったりして。SNSって実は一方的なものじゃなくて、相互のコミュニケーションで成り立つものかな、と僕も普段思って作品を作っているんですけど、今の萌歌さんのお話を聞いて、さらに近いものを感じました」

「最近、映画のサイトでも、口コミがすぐ見られるじゃないですか。その口コミも作品の一部なのかなって思ったり。あの人がこう言っているから観に行こう、とか。自分の感想って人の言葉でできたりするのかなって思うところがあって。ちゃんと自分の言葉で発信できたらいいなと思いますね」

「では、今回のお話を踏まえて、まとめの一枚を描きますね」

「難しいですね(笑)。もっと軽やかなお話がよかったですか? でも、せっかくならこういうお話をしたいと思っていたので」

「今の社会の流れに沿った、有意義なお話ができました。ありがとうございました」

世田谷パブリックシアター
舞台『お勢、断行』

※新型コロナウイルス感染症の拡散防止のため、残念ながら公演は中止となりました。

撮影:山添雄彦
撮影:山添雄彦

江戸川乱歩の原作を元に、劇作家・演出家の倉持裕が描き出す、稀代の悪女・お勢をモチーフにした善悪せめぎ合う全く新たな謀略の物語。上白石さんは、おっとりしたお嬢様でありながら、秘めた強い意志を持つ、物語の中心となる謀略の被害者・資産家の娘を演じる。

原案/江戸川乱歩
作・演出/倉持裕
音楽/斎藤ネコ
出演/倉科カナ、上白石萌歌
江口のりこ、柳下 大、池谷のぶえ、粕谷吉洋、千葉雅子
大空ゆうひ、正名僕蔵、梶原 善

日程/2020年2月28日(金)〜3月11日(水)
会場/世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアターチケットセンター
TEL/03-5432-1515(10:00~19:00)
URL/https://setagaya-pt.jp/

衣装(上白石萌歌):プルオーバー ¥46,000 プリーツスカート 参考商品 パンツ ¥26,000/ENFOLD(エンフォルド 03-6675-5942)

パントビスコの不都合研究所

 

Illustration: Pantovisco Photos: Takao Iwasawa Styling: Ami Michihata Hair & Makeup: Misaki Funato(allure) Edit & Text: Yukiko Shinto

Profile

上白石萌歌Moka Kamishiraishi 2000年2月28日、鹿児島県生まれ。2011年、第7回「東宝シンデレラ」オーディショングランプリ受賞。2012年ドラマ「分身」で女優デビュー。以降、テレビ、映画、舞台など幅広く活躍。2018年『羊と鋼の森』で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。主な出演作に、主演の声優を務めた『未来のミライ』(2018)、ドラマ『義母と娘のブルース』(2018)、『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(2019)、大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(2019)など。「adieu」名義で音楽活動も本格的にスタート。『A-Studio』のサブMCを務める。2020年には、テレビ東京系1月クールドラマ『僕はどこから』、NHKドラマ『ファーストラヴ』、映画『子供はわかってあげない』の公開を控えている。
パントビスコ Pantovisco Instagramでフォロワー数53万人を抱えるマルチクリエイター。3冊の著書を出版し、現在は雑誌・Webでの連載の他、三越伊勢丹、花王、SONYなどとの企業コラボやTV出演など、業種や媒体を問わず活躍の場を広げている。Instagram: @pantovisco

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