写真家・若木信吾が「チュルリョーニス展 内なる星図」展をレビュー

リトアニアを代表する芸術家、ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス(1875-1911)。日本では34年ぶりとなる回顧展が国立西洋美術館にて開催中だ。祖国リトアニアにおける生誕150周年の祝賀ムードを引き継いで開催されている本展を、自身が発行人となりチュルリョーニスにまつわる書籍を出版したこともある写真家、若木信吾がレポートする。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年6月号掲載)

時代を超えて心に響く「内なる星図」
チュルリョーニスの絵の多くはテンペラという技法で描かれている。卵を媒材とした絵の具を、紙に載せたものが多い。当時の彼の経済状況もあっただろうが、油絵が普及する以前の画材を見直す世紀末の風潮とも共鳴した選択だった。薄く塗られたテンペラは水彩のようにも見え、淡く繊細な色や線を表すのにとても適している。チュルリョーニスが表現しようとしたリトアニアの精神性や、内面の探索という彼の芸術の根幹にある神話的ビジョンの表現において、最高のマッチングだったはずだ。
![ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス《冬Ⅷ[8点の連作より]》1907年、テンペラ/紙、国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)所蔵 M. K. Čiurlionis National Museum of Art, Kaunas, Lithuania.](https://numero.jp/wp-content/uploads/2026/06/2284e1076702c060bc0030cf70593d25.jpg)
現在、国立西洋美術館で我々が対峙する作品たちは、アースカラーとは少し違う、落ち着きながらも精神の内側に波を起こすような独特の色合いをしている。遠くから見れば静かに湧き立つ風景のようだが、近付いてディテールを見ると抽象的な掴めない形の集まりが現れ、風景だったものが溶け出して自分の心に流れ込んでくるような感覚に陥る。
テンペラの色と、透けた下地の紙が経年の酸化で帯びた黄色みとのバランス。まるで1世紀以上先の見え方を彼が知っていたかのように、深い神話的世界が現在に立ち現れているのを見ることができる。
![ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス《フーガ[二連画「プレリュード、フーガ」より]》1908年、テンペラ/紙、国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)所蔵 M. K. Čiurlionis National Museum of Art, Kaunas, Lithuania.](https://numero.jp/wp-content/uploads/2026/06/ea74a3d694ed39d0ee6577acdfb098b1.jpg)
そして今回初来日した大作《レックス(王)》は、カンヴァスにテンペラで描かれた稀有な一作だ。重なり合うモチーフの構造は、単なる「夢」という言葉では片付けられない。過酷な時代を生きた彼個人の精神が、その現実を飲み込み、いかに内なる世界を可視化したか。その切実な体験を目の当たりにすることになる。
本来ならリトアニアから離れないほうが賢明かもしれないほど、素材のフラジリティや保存状態の管理というリスクを冒してまで実現した、1992年以来となる貴重な展示だ。

「チュルリョーニス展 内なる星図」
会期/2026年3月28日(土)~6月14日(日)
会場/国立西洋美術館
住所/東京都台東区上野公園7-7
開館時間/9:30~17:30(金・土曜は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日/月曜
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://2026ciurlionis.nmwa.go.jp/
Text:Shingo Wakagi Edit:Sayaka Ito
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