チェコの国民的作家カレル・チャペックの『母』を新国立劇場で上演! | Numero TOKYO
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チェコの国民的作家カレル・チャペックの『母』を新国立劇場で上演!

『母』舞台写真 提供:ブルノ国立劇場
『母』舞台写真 提供:ブルノ国立劇場

チェコ第二の都市ブルノにあるブルノ国立劇場は、チェコ共和国最大の劇場のひとつだ。オペラ、バレエ、演劇の三本柱で成り立っており、主にオペラとバレエを上演するヤナーチェク劇場の他、演劇を上演するマヘン劇場、レドゥタ劇場というブルノ市内に点在する3つの劇場を運営している。

今回、この劇場付きのスタッフ・キャストが所属する『ブルノ国立劇場ドラマ・カンパニー』を新国立劇場が招聘。上演されるのは、チェコの国民的作家カレル・チャペックの代表作『母』だ。作品の初演は1938年と約90年前に遡るが、今回は、ブルノ国立劇場 演劇芸術監督ミラン・ショテク氏による、現代劇の上演と共にチェコ演劇の古典作品に現代的なアプローチを続けるという方針のもと、2022年4月レドゥタ劇場にてシュチェパーン・パーツルにより演出されたものが上演される。

『母』舞台写真 提供:ブルノ国立劇場
『母』舞台写真 提供:ブルノ国立劇場

カレル・チャペックは作家・劇作家の他にも、ジャーナリスト、評論家、小説家、童話作家と多彩な活動を行った文筆家で、20世紀前半のヨーロッパを代表する知識人として知られている。

チェコ語の「robota(強制労働)」に由来する「ロボット」という言葉を生み出したとも言われていて(彼自身は、兄のヨゼフ・チャペックが生みだした言葉だとしている)、風刺や社会批判を交えたSF作品を多く生みだした。また、ナチス・ドイツの独裁に危機感を訴え、痛烈なナチス批判を込めた作品を発表している。

『母』舞台写真 提供:ブルノ国立劇場
『母』舞台写真 提供:ブルノ国立劇場

今回の『母』は1938年に発表された作品で、1936~1939年に起こったスペイン内戦を受けて執筆されたている。戦争により夫と息子たちを次々と失くしていく母親の物語で、現在も全く色あせることの無い作品だ。

物語は、夫をアフリカでの戦いで失ったドロレスを中心に進む。5人いた息子たちは、次々と命を落とし、亡くなった者たちは霊となってドロレスに話しかける。戦火が激しくなり、戦争への参加が呼びかけられる中、唯一生き残っている末息子のトニが軍への入隊を志願し、死んだ父と兄弟たちはトニの決断を応援する。トニまで失う事はできないと必死に抵抗するドロレス。

『母』舞台写真 提供:ブルノ国立劇場
『母』舞台写真 提供:ブルノ国立劇場

日本国内では、第二次世界大戦から何十年も経ち、戦争の記憶が薄れることが課題とされてきた。しかし、近年、SNSの発達によってロシアとウクライナの戦争やイスラエルのガザ地区での紛争では、数多くの子どもを失った母たちの姿をリアルタイムで目撃することが多くなっている。残念な形で、戦争の悲惨さが身に迫る思いを感じている向きも多いのではないだろうか。

『母』は、悲痛でありながら、ユーモアを交えてくる作品だが、ウクライナからの避難民が多く訪れるチェコでは、その事と切り離して観ることはできない、という劇評が多く見られた。

ニュースで声高に危機が語られるよりも、映画や音楽、ドラマなどで伝えられることの方が、辛辣でストレートに人の心を打つことも多い。ぜひ、この時代を生きる者として当事者性を持ってこの作品に向き合いたいものだ。

舞台 シリーズ「光景―ここから先へと―」Vol.1
海外招聘公演 『母』 〈チェコ語上演/日本語及び英語字幕付〉

作/カレル・チャペック
演出/シュチェパーン・パーツル
制作/ブルノ国立劇場ドラマ・カンパニー
出演/ブルノ国立劇場ドラマ・カンパニー
テレザ・グロスマノヴァー トマーシュ・シュライ ロマン・ブルマイエル マルチン・ヴェセリー ヴォイチェフ・ブラフタ ヴィクトル・クズニーク パヴェル・チェニェク・ヴァツリーク
会場/新国立劇場 小劇場
主催/新国立劇場
後援/チェコ共和国大使館 チェコセンター東京 Supported by Embassy of the Czech Republic in Tokyo, Czech Centre Tokyo
公演日程/2025年5月28日(水)~6月1日(日)
※開場は開演の30分前です。
チケット料金(税込)/ A席7,700円 B席3,300円/Z席(当日)1,650円
チケット申し込み・お問い合わせ/
新国立劇場ボックスオフィス TEL 03ー5352-9999 (10:00~18:00)
新国立劇場webボックスオフィス https://nntt.pia.jp/

Text:Reiko Nakamura

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