「劉建華(リュウ・ジェンホァ)中空を注ぐ」@十和田市現代美術館へ
ペットボトル、テレビ、タイヤ、ブーツ、ぬいぐるみ、身近な日用品が、磁器で形作られ、置かれている。壊れたり、役割を終えたものたち。土に還ることもできないものたちが溜まっている……。こちらは上海を拠点に活動するアーティスト、劉建華(リュウ・ジェンホァ)による作品『遺棄』。彼の日本初となる個展が、青森県・十和田市現代美術館にて開催されている。2023年11月19日(日)まで。
中国を代表する現代アーティスト、劉建華(リュウ・ジェンホァ)は、土や石、ガラス、陶磁器などを使った立体作品やインスタレーションをつくり出してきた。なかでも磁器を用いた作品が多く、そこには14歳で働いた景徳鎮陶磁器工房での経験と、長い歴史からなる磁器が持つ芸術領域での可能性への思いがあるという。
これまで中国の経済や社会の変化に伴う問題をテーマに、時にはグロバリゼーションとそれに伴う無意味さ、さらには存在するものと非存在とのインタラクティブな関係などについても考察を続けてきた。本展では2001年から2022年の間に制作された6作品を展示する。
『遺棄』の中に建つ、最新作『塔器』。そこには瓶や壺の口と首の部分だけを切り取ったものが並んでいる。
劉とのつながりは2010年にさかのぼる。十和田市現代美術館は、中心市街地の官庁街通り全体を美術館として見立て、「まちなか常設展」を展開しているのだが、その一つとして、歩道に二つの大きな枕からなる『痕跡』(2010年)を設置。枕の凹みが、まるで何かがそれを使っていた(/使っている)ようで、印象的だった。
今回は、その造形にもつながる作品『儚い日常』(2001年〜2003年)も登場。
そして、したたる墨汁のような釉薬のようなものがしめされた『兆候』(2011年)、磁器で作られた『白紙』(2008〜2019年)。その形式も、明確に既存の言葉で分けられない作品が並ぶ。
展覧会タイトル「中空を注ぐ」については「中が空洞の陶磁器や流動的な釉薬を連想させますが、意味も内容もない「無意味さ」を作品に込めた劉の制作への姿勢を示しています。そして空虚な「もの」や「こと」が広がっていく現代のありさまともつながっています」とある。
──「中空」とは? 「空虚」とは? 「からっぽ」は本当に何もない?
そして「中空を注ぐ」とは?
考えるほどに、思いが浮かぶ。 仏教はじめ、古来からのさまざまな概念とつながるかもしれない。「中空を注ぐ」という、無意味のようで、能動的にも思えるタイトルから、思考が広がっていく。
劉建華から寄せられたコメントには、「私は、作品が日本の鑑賞者と深く交流してほしいと思っています」とある。ぜひ会場で、その目でディテールまで感じてほしい。
また、十和田市現代美術館では、市内のサテライト会場にて、9月3日まで、「筒 | tsu-tsu 地上」展も開催中。筒|tsu-tsuが、「実在の人物を取材し、演じる」という一連の行為を「ドキュメンタリーアクティング」と名付け、実践する。過程の公開、市内各所での日課、会期終盤にはパフォーマンスを実施。
そして、後半の9月16日(土)から12月17日(日)には、写真家であり舞台作家でもある三野新の個展が開催。青森でのリサーチから戯曲を書き起こし新作を発表する。どちらも会場は、アーティスト目[mé]による、市内の空き家にホワイトキューブが埋め込まれた作品であり展示会場でもある「space」にて。夏休みは、少し涼しい十和田へ、アートトリップはいかが?
劉建華(リュウ・ジェンホァ)中空を注ぐ
期間/2023年6月24日(土)~11月19日(日)
会場/十和田市現代美術館
住所/青森県十和田市西二番町10-9
開館時間/9:00~17:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日/月曜日(祝日の場合はその翌日)
観覧料/1,800円(常設展込み)、高校生以下無料
URL/towadaartcenter.com
Text:Hiromi Mikuni