ベストドレッサーはアダム・ドライバー! 映画『ハウス・オブ・グッチ』
巨匠リドリー・スコット監督が実話を基に、1970年から始まったグッチ一族の30年にわたる愛憎劇を映画化。レディー・ガガ、アダム・ドライバー、アル・パチーノら豪華なキャストも話題だ。ファッションをこよなく愛するライターの栗山愛以が観た映画『ハウス・オブ・グッチ』。
昨年グッチはブランド創設100周年だった。私もいくつかの記事で歴史を振り返り、「創設者グッチオ・グッチは若い頃ロンドンの老舗ホテル“ザ ・サヴォイ”で働いていた」とか、「乗馬にルーツがあるブランド」とかは書いた。しかし、そのグッチオの子、孫の代がこんなにも波乱万丈だったとは! 映画『ハウス・オブ・グッチ』を観て初めて知ったのだった。 グッチオ亡き後は息子のアルド(アル・パチーノ)が社長に就任。弟で副社長になったロドルフォ(ジェレミー・アイアンズ)の息子、マウリツィオ(アダム・ドライバー)がパトリツィア・レッジャーニ(レディー・ガガ)に猛アタックを受けるところから映画はスタートする。マウリツィオはダブルブリッジのビッグサイズのメガネがトレードマーク。当時は弁護士を目指していて、育ちの良さは滲ませつつもちょっとした野暮ったさがあり、それが演じるアダム・ドライバーに見事にはまっていた。 冒頭のフェアアイル柄のセーターにトレンチを羽織ったスタイルは特に印象深い。マウリツィオはやがてファミリービジネスに加わり、3代目の社長に。だんだんビジネスマンっぽい格好になっていくのだが、それはそれでアダム・ドライバーはビシっと着こなしていた。ぜひともこの映画のベストドレッサー賞を差し上げたい。
マウリツィオの妻となるパトリツィアは、マウリツィオと出会った頃はダイナマイトボディを強調するピタピタの服を着ているが、マウリツィオと結婚してお金持ちになると、ゴージャスなマダムっぽい着こなしに。装いにも表れているように、パトリツィアはグッチの名と富に酔いしれ、ビジネスにも食い込む。いや、でも、名字が「グッチ」って、一般人、とくに私のようなファッションバカならうっとりしてしまうのかもしれない。私もパトリツィアみたいに“Father, Son and House of Gucci(神と子とグッチ家に誓います)”とか言って何か約束してみたい……。
そんなわけで、ファッションを題材とした映画でも、デザイナーの生みの苦しみを描くといったよくある感じとは違い(特殊メイクを施したジャレット・レトが怪演したパオロはデザインで苦悶していたが)、こちらは経営陣が主役。株式をどうするとか、投資企業と組むとか、まるでファッション業界紙の記事を読んでいるかのような話が続き、あらためてファッションは夢を与えるだけではなくビジネスなのだ、と思い知らされる。豪華キャストが纏う1970〜90年代のグッチスタイルを堪能でき、ファッションビジネスについても学べる作品。そしてグッチ100年の歴史に潜む愛憎劇に驚かされることうけあいです。
『ハウス・オブ・グッチ』
貧しい家庭出身だが野心的なパトリツィア・レッジャーニ(レディー・ガガ)は、イタリアで最も裕福で格式高いグッチ家の後継者の一人であるマウリツィオ・グッチ(アダム・ドライバー)をその知性と美貌で魅了し、やがて結婚する。しかし、次第に彼女は一族の権力争いまで操り、強大なファッションブランドを支配しようとする。順風満帆だったふたりの結婚生活に陰りが見え始めた時、パトリツィアは破滅的な結果を招く危険な道を歩み始める……。
監督/リドリー・スコット
出演/レディー・ガガ、アダム・ドライバー、アル・パチーノ、ジャレッド・レト、ジェレミー・アイアンズ、サルマ・ハエック
2022年1月14日(金)より全国公開
配給/東宝東和
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Illustrations & Text:Itoi Kuriyama Edit:Sayaka Ito