現代美術家の岡田裕子がレポート!「梅津庸一展 ポリネーター」
ドローイングや点描画のような絵画作品、自身を素材としたパフォーマンス映像、陶芸作品から、キュレーションなど、その領域は多岐にわたる現代アーティスト、梅津庸一の個展「梅津庸一展 ポリネーター」が東京・ワタリウム美術館で開催中。植物の花粉を運んで受粉させる媒介者”ポリネーター”、梅津自身の立ち位置ともいえる言葉を題した展覧会を現代美術家の岡田裕子がレポートする。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2021年12月号掲載)
グニャと温かく粉っぽい迷宮
「ポリネーター」とは<花粉媒介者>という意味。カタカナで『ター」で終わる言葉は、そのミッションを任された特殊な職業というような気配がある。「梅津自身の立ち位置をたとえて選んだ言葉」だということだ。アーティストの仕事はポリネーターのようなものなのかもしれない。
梅津庸一氏の作品はいつも謎めいている。裸体の彼が既存の名画になぞらえてさまざまなポーズを取った絵画や、自然の風景を裸で彷徨うような映像。作品の中にいる梅津氏は、エバとはぐれてしまったエデンのアダムみたいに見える。
今回の個展は近年の陶芸作品が大量に展示されている。彼の想像上の道具である《花粉濾し器》が終わりなき修練を重ねるかのように多数制作されている。グニャとした形の陶の建物がジオラマ的に立ち並ぶ街が広がる。花粉を出し切って虚脱したような、中折れしたヤシの木のような連作もある。これらの手業の温かみや不慣れなたどたどしさみたいなニュアンスは、なんだか小学校の図工の時間に子どもたちが作る粘土作品に似ている。おそらく形状には官能的な意味合いが含まれていよう。この官能+図工というマッチングが、いけないものを覗き見てしまったようなヤバみがある。
会場の壁は梅津氏の手により荒々しくアースカラーでペイントされ、まるで花粉を塗りたくったよう。過去の点描を用いた技法の絵画作品も点々が花粉に見えてくる。甘くむせ返りそうな梅津氏の花粉は、長いコロナ禍で装着し続けている不織布マスクを易々と通り越した。そうして受粉した私たちは、甘美な迷宮のような会場をもう一回りしたくなるのだ。
「梅津庸一展 ポリネーター」
会期/2021年9月16日(木)〜2022年1月16(日)
会場/ワタリウム美術館
住所/東京都渋谷区神宮前3-7-6
休館日/月曜日(9/20、1/10は開館)、12/31-1/3
開館時間/11:00〜19:00
入館料/大人 ¥1,200 / 学生(25歳以下) ¥1,000
TEL/03-3402-3001
URL/www.watarium.co.jp
Text:Hiroko Okada Edit:Sayaka Ito