懐かしくも新しい絵画の世界「ピーター・ドイグ展」
ロマンティックかつミステリアスな風景を描く画家、ピーター・ドイグの初期作から最新作までを紹介する待望の日本初個展(6月12日より再開)を、アーティストで編集者の山瀬まみが紹介する。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年5月号掲載)
ドイグの描く具体的な抽象世界
ピーター・ドイグを知ったのは、私がロンドンに住んでいるときでした。当時はまだダミアン・ハーストやトレイシー・エミンなどYBAs(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)の雰囲気が色濃く、特に“彫刻”と“絵画”という境界がアート界で薄れていたように思います。そんな中、展示でも繰り返し説明されていましたが、絵画をあらためて興味深いものにしてくれたのがドイグでした。その影響は私が通っていたチェルシー芸術大学(そう、ドイグが修士を取得した!)でもしっかりと残っていたように思います。専攻していたファインアートでは写真を撮っている子もいれば、一日中何もせず、公表会にはテキストが書かれた紙を持ってくる子がいたり、表現方法はみんなバラバラ。それでも、やはり(私も含め)ペインターはいて、色や構図、そして何よりこの時代に“絵画をやる”というモチベーションに彼の存在は大きかったのです。
3部構成の本展で特に心が惹かれたのは、ドイグが幼少期を過ごしていた島国トリニダード・トバゴに移住した前後の作品が多い第2章でした。前半期に比べてすこし軽快な筆遣い、独特なモチーフと構図は一段と洗練されていて、一枚の絵の中に具象と神秘的な抽象部分が混じり合い、どこか怪しい南国の雰囲気とともに行ったことのない場所を見せてくれます。
第3章の映画クラブポスターも新鮮で興奮しましたが、兎にも角にも、彼の作品がこんなに見られるまたとない機会/企画に大興奮なのです。
「ピーター・ドイグ展」
会場/東京国立近代美術館
会期/6月12日(金)再開〜10月11日(日)まで
休館日/月曜日[ただし8月10日、9月21日は開館]、8月11日(火)、9月23日(水)
※日時指定チケットの導入についてなど、最新の開催情報は、展覧会公式サイトをご確認ください。
Text:Mayumi Yamase Edit:Sayaka Ito