死をイメージすることって難しい。祖父江慎が、クリスチャン・ボルタンスキー展をレビュー
ブックデザイナーとして幅広く活躍し、2016年に東京で開催された『クリスチャン・ボルタンスキー アニミタス_さざめく亡霊たち』の宣伝美術、ブックデザインを務めた祖父江慎が、国立新美術館で開催中のボルタンスキーの大回顧展をレポート。(「ヌメロ・トウキョウ」2019年9月合併号掲載)
体験できない「死」と向き合う
人の死に出会うことはあるけれど自分の死を体験することってできないから、死をイメージすることって難しい。『Lifetime』は、入ってすぐの小部屋から嘔吐音が響き、奥には心臓音が響く。入ってすぐにボルタンスキーが生まれてから現在までの時間を秒単位で刻む《最後の時》とともに、ブリキの箱に入った小さな長靴の形をした粘度細工が置かれている。これは彼が幼児期に所有していた長靴の記憶を復元した作品。
その隣に幼年期から還暦までの本人の顔写真を重ねた《自画像》。直線的な時間と重ねられた時間とが並び、《合間に》という巨大な顔のカーテンをくぐる。体内巡りみたい。
そして大好きな《影》や《モニュメント》、《アニミタス(白)》。サイズ感も時間も不安定なのに祭壇構成の秩序が心地いい。
そして中心には、既に重さも大きさも持たない他者が生きていた時に着ていた衣服が重なる《ぼた山》。
3年前の庭園美術館ではヨーロッパの事故現場で死者を覆う断熱シート(金色のエマージェンシー・ブランケット)で服が覆われて輝いていたけど、むきだしの黒い服が積み重ねられている。囁かれる言葉もバイリンガル。この解り易い構成は伝えたい気持ちの物語なのかも。時の起源を知るとされる鯨の映像の裏にやや残念な書体の《白いモニュメント、来世》。
通過すると、揺れる電球で踊るエマージェンシー・ブランケットの光。……ボルタンスキーにとっての死のイメージはなんだか微笑みみたいにも感じられた。
「クリスチャン・ボルタンスキー ―Lifetime」
会期/開催中〜2019年9月2日(月)
会場/東京・国立新美術館
住所/東京都港区六本木7-22-2
開館時間/10:00〜18:00(金土〜21:00、入場は閉館30分前まで)
休館日/毎週火曜日
料金/一般 1,600円、大学生 1,200円、高校生 800円
URL/www.nact.jp
boltanski2019.exhibit.jp
Text:Shin Sobue Edit:Sayaka Ito