「Loewe」ファンデーション クラフト プライズ 2019の大賞は日本人!
「ロエベ(Loewe)」クリエイティブ ディレクター、ジョナサン・アンダーソンとロエベ ファンデーションにより、2017年にスタートした「インターナショナル クラフト プライズ」。3回目となる2019年度の大賞、特別賞受賞者を含む、ファイナリスト29名の作品が、7月22日(月)まで、東京・赤坂の草月会館にあるイサム・ノグチ作の石庭「天国」にて展示されている。
ジョナサン・アンダーソンにとって、アート、デザイン、クラフツマンシップは、クリエイションにおける重要な要素。これまでも、アーツ・アンド・クラフト運動の立役者ウィリアム・モリスやマッキン・トッシュのアーカイブからインスパイアされたり、籠細工、ブランケットなどの工芸を取り入れ、積極的にアーティストや職人たちとコラボレーションを続けている。「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ」もそんな活動の一環として、創造性と芸術性、革新性の高い才能の発掘、クラフト文化の継承を目的に立ち上げられた。
今回、2500を超える応募の中から選出された29名のファイナリストの作品が一堂に会し、6月25日に授賞式が行われた。選考する審査員も、ジョナサン・アンダーソンをはじめ、アナツ・ザバルベアスコア、ジェニファー・リー、深澤直人、パトリシア・ウルキオラといったデザイン、建築、ジャーナリズム、博物館キュレーターシップの各分野を代表する、錚々たる顔ぶれだ。
そして、2019年度、栄えある大賞に輝いたのは、漆という伝統的な素材をモダンな彫刻に蘇らせた日本人アーティスト石塚源太(Genta Ishizuka)。 彼の作品『Surface Tactility #11』のインスピレーションソースは、意外にも地元(京都)のスーパーマーケットで見かけたネット袋に入ったオレンジだという。
「ストレッチ素材の袋にボールを詰め、麻生地を貼り付け、漆をかけました。凹凸があるものに漆をかける技法自体は7世紀から伝わるものです。2018年にロンドンで個展をした際に、日本の漆はあまり世界で知られていないこと、同時に皆さんがとても興味を持ってくれたことを実感しました」
そんなユニークな視点から誕生した石塚の作品をジョナサンはこう評価する。
「クラフトがオープンであり自由であることを証明しました。伝統的な漆テクニック をコンテンポラリーに生まれ変わらせ、新たに彫刻的なクラフトのヴィジョンを表現し、次世代の作品を生み出したことを評価しています」
ジョナサンが考える、次世代の作品とは何か?
「漆の技術は数千年もの歴史があり、彼が今回作った形というのは時代を感じさせないタイムレスなピースだと思います。どの時代に存在していてもおかしくないような形だからこそ素晴らしい。たとえ、千年前のものだったとしても、今のものだとしても、あるいはこれから千年後の時代に生まれたとしても不思議ではない作品だと感じました。やはり若い世代の人たちにとって、過去をどのように現代、あるいは将来のものに見せていくか、という点が課題だと思いますし、彼はそれを実現していました」と。
また、特別賞には、高樋一人(Kazuhito Takadori)、ハリー・モーガン(Harry Morgan)の二人が選ばれた。
高樋は、園芸とアート、ガーデンデザインを学んだ後、イギリスに拠点を移し活動している。作品に使用する素材を自ら栽培することから始めるという姿勢に、名前のないクラフトとして審査員も賞賛。『KADO (Angle) 』では、枝や草やアシを編み合わせながら、時の経過と共に素材そのものが成熟し、進化し、フォルムをなしていく。その根底には、「自然を無理やり作者の思い通りにすることはできない」という、わびさびにも通じる精神性が感じられる。
一方、モーガンは、普通では考えられない素材を組み合わせたり、古くからある技法を実験的に用いることで知られるイギリスのアーティスト。ミニマルな美しさを放つ、受賞作『’Untitled’ from Dichotomy Series』では、ヴェネチアングラス製造の技術を参考に、ガラス繊維のブロックの上に高密度のコンクリート塊を鎮座させ、対照的な2つの素材を融合して一つの形状を作り上げた。
イサム・ノグチの作り上げた石の庭『天国』に展示中の、これら受賞作を含む、セラミック、家具、ガラス、籠、ジュエリーから金属細工まで、世界中の、多彩なクラフトアート。これらの作品を通じて、古き良き伝統が、新たな感性で再解釈され、目的用途を超え、素材の可能性を拡張していく、その先のあり方を見出すきっかけになるに違いない。
「クラフトとは、絵を描く、料理をする、服を作る、誰もが直感的に本能的に何かをしたいという思い、人間が自己表現するための基本的なこと。ロエベを通じて、クラフトと改めて向き合うきっかけになればいいと考えている」とジョナサンは語る。
クラフトと芸術、大衆性と文化、実用性と趣向性の架け橋となるべく、これからも「ロエベ ファンデーション クラフト プライズ」は、デジタル社会の現代において見直されるべき手仕事の尊さ、新たな才能や技術に光を当てていくのだろう。
ロエベ ファンデーション クラフト プライズ
会期/2019年6月26日(水)~7月22日(月)(無休)
時間/10:00−19:00(金曜のみ20時まで)
会場/草月会館(東京赤坂)
入場料/無料
ロエベ ジャパン カスタマーサービス
TEL/03-6215-6116
URL/craftprize.loewe.com
トークセッション
7月6日(土)
皆川 明氏(minä perhonen代表、デザイナー)
吉泉 聡氏(TAKT PROJECT Inc.代表 、デザイナー)
7月13日(土)
西尾洋一氏(Casa Brutus編集長)
上條昌宏氏(AXIS編集長)
7月20日(土)
石塚源太氏(ロエベ ファンデーション クラフト プライズ2019ファイナリスト)
+ moreゲスト
時間/14:00−15:30
会場/草月会館(談話室)
参加方法/時間までに会場にご来場ください。(人数多数の場合は先着順)
Text: Masumi Sasaki Edit: Chiho Inoue