時空を超えるアート書物!『HERE』日本版
全世界にセンセーションを巻き起こした“アート×文学”な1冊が、ついに日本上陸。いざ、時空を超えた読書体験へ。
しかし、画面の眺めは淡々と進む。脈絡なく過去・現在・未来を行き来しているようでいて、繰り返し現れる人物やモチーフの間に関連性を見いだすこともある。建築中の家の様子を描いたページには「1907年」。以来、いくつもの家族がこの家で暮らし、子を産み、世を去っていったことがわかる。それ以前の時代には動植物や先住民たち、馬車に乗った歴史上の人物。たわいのない会話、痴話喧嘩、未来から20世紀の暮らしをたどるツアーの参加者まで、描かれるのはどれも日常の光景だ。説明的なト書きは一切なく、ある時間の情景と、そこに現れる人々の台詞だけが、ささやかな瞬間の印象を刻んでいく。
しかしこれは、果たして何だろうか。私たちがよく知るマンガや小説のように、わかりやすい時間軸を持つ“物語”はここにはない。そのことが、ページをめくる手をしばし止めさせ、描かれた人物やモチーフの持つ意味を思案する時間へと、私たちをいざなう。それでも、個別に説明的な描写がなされない以上、できるのは謎めいた断片から文脈をたどり、そこで生まれ、喜び、悲しみ、そして死んでいったであろう人々に想いを馳せることだけだ。
でも──実際のところ、人の一生にわかりやすい物語など、ありはしない。一人の人間として他者の人生に触れること、いや自分自身の人生さえも、すべては<いま/ここ>の断片の連続的な認識に過ぎないはずだ。つまり、ここに描かれているのは既存の物語形式では描写が不可能な“人生そのもの”、そしてそのフレームさえ超越した、悠久なる時間の狭間にほんの一瞬だけ浮かんでは消えていく“生の息吹”に他ならない。いったい、何ということだろうか……!
Text:Keita Fukasawa