真剣なり。マーク・ニューソン×日本の伝統工芸の精髄『aikuchi』 | Numero TOKYO - Part 3
Art / Post

真剣なり。
マーク・ニューソン×日本の伝統工芸の精髄『aikuchi』

じつは、代表の高橋裕士氏の生家は、宮城県で18世紀から続く刀工の家柄。 日本の刀工200余人の中で唯一、大和伝保昌派(やまとでんほうしょうは)の鍛法を伝承する九代目 法華三郎信房(ほっけさぶろうのぶふさ)こと、父の背を見て育ちながら、自分自身の手で道を切り拓くことを選んだ高橋氏だったが、2011年の東日本大震災を機に、東北の伝統工芸のための貢献を決意。 刀工が鍛え上げた刀身に、漆や金工、象嵌(ぞうがん)など無数の技法を凝らした刀装具。まさに職人技術の精髄とも呼ぶべき日本刀に、現代随一の創造性を吹き込むことで、日本の伝統工芸の力を世界に向けて発信しよう––。 コンセプトはずばり、『aikuchi』。 斬り合いには欠かせない鍔(つば)を持たず、護符としての審美性を極めてきた刀 “合口”。 柄と鞘の口がぴたりと合うフォルムに異文化共存と平和への願いを託しつつ、その価値をグローバルな視点で進化させることで、需要低迷や後継者不足に苦しむ工芸産地の復興につなげたい。 その意気込みに、マーク・ニューソンも二つ返事で快諾。東北を訪れた彼とともに、かつてないプロジェクトがスタートした。
生命現象を象徴する「ボロノイ図」を漆塗りで表現した鞘。
生命現象を象徴する「ボロノイ図」を漆塗りで表現した鞘。
……そして、2015年3月17日。 かの至高なるラグジュアリーホテルグループ「アマン」が初の都市型ホテルとして手がける「アマン東京」のグランドオープニングパーティに、マーク・ニューソンと高橋裕士氏、刀匠・法華三郎信房氏をはじめとする伝統工芸職人たちの姿があった。 比類なき緊張感を湛えた刀身の輝き、生命現象を象徴する「ボロノイ図」をまとった鞘。そして、それらを収納し、刀掛台としても機能する刀箪笥(かたなだんす)の堂々たる佇まい––。来賓たちが感嘆の声を上げる中、『aikuchi』はついに、全世界に向けてその姿を現したのだ。
個人的な話で恐縮だが、真剣を扱う剣士の方とともに、スイスの古城を訪ねたことがある。 石積みの城内にディスプレイされた、驚くほど適当なつくりの中世の武器や防具を前にして、資源に恵まれたヨーロッパと日本では鉄の扱い方がまったく異なるという話を聞いた。 鉄資源に乏しい日本では、映画『もののけ姫』に見るように、膨大な労力を注ぎ込まなければ鉄を得ることができなかった。そのことが世界でも例を見ない精緻な鍛錬技術の背景となり、道具を超えた存在としての日本刀を生み出したのではないか。   そして……そのクオリティはもはや武器であることすら超越して、人智を超えた領域にまで到達してしまった。 理屈を超えた突き詰め方で「また日本がやった!」「やることが斜め上すぎる!!」と揶揄されるどんな日本製品も、時空間さえ歪んで感じられる日本刀の輝きの前には、おしゃぶりをくわえた赤子同然。 そのマッシブなる文化の真髄がいま、現代の息吹を得て甦り、国境を越えた異能者たちの魂を震わせ、抜かずして斬らずして破壊とは真逆の創造をもたらす、ひとつの象徴を創り上げたのだ……! (感想文おわり)
驚くべきは、この試みに挑んだのが、先鋭的な映像やインタラクションを展開する
当代随一のクリエイティブ集団だということ。文化の深層と真正面から向き合い、
その未来を切り拓く––この志こそ、いまの日本に最も求められることではあるまいか。 マーク・ニューソンがデザインし、日本文化を受け継ぐ職人たちと、現代日本が誇る最先端の工業技術との融合の下に実現した、世界限定10組の “アートとしての日本刀”。 響き合うものづくりの魂が、ここから日本文化 × 世界の新たな道を切り拓いていく。 WOW inc.による『aikuchi』のコンセプトムービー。 ※『Numéro TOKYO』2014年7・8月合併号 掲載記事を加筆転載 ※1 『Numéro TOKYO』7・8月合併号(5/28発売)特集「Love Japan 世界が注目、モードなニッポン再発見」では、日本を代表するアーティストの杉本博司氏が日本文化の深層を語るロングインタビューを掲載。ぜひ併せてご一読を! 『aikuchi』 1組¥35,000,000(税込/世界限定10組)WOW inc. ※公式サイトにはメイキングムービーなども。ぜひチェックを。 URL/http://www.w0w.co.jp/aikuchi

Text:Keita Fukasawa

Profile

深沢慶太(Keita Fukasawa) フリー編集者/ライター/『Numéro TOKYO』コントリビューティング・エディター。『STUDIO VOICE』編集部を経てフリーに。『Numéro TOKYO』創刊より編集に参加。雑誌や書籍、Webマガジンなどの編集・執筆、企業企画のコピーライティングやブランディングにも携わる。編集を手がけた書籍に、田名網敬一、篠原有司男ほかアーティストの作品集や、編集者9人のインタビュー集『記憶に残るブック&マガジン』(BNN)など。

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