「君と歩く世界」主演女優マリオン・コティヤールにインタビュー | Numero TOKYO
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「君と歩く世界」主演女優マリオン・コティヤールにインタビュー

『エディット・ピアフ〜愛の賛歌』でアカデミー賞主演女優賞後、『インセプション』『コンティジョン』『ダークナイト ライジング』といったハリウッド大作に出演し、映画界のミューズとして脚光を浴びているフランス女優、マリオン・コティヤール。彼女が久々にフランス映画に主演。フランスを代表する名匠ジャック・オディアール監督の新作『君と歩く世界』で、両足を失った女性ステファニーを演じている。

シャチ調教師のステファニーは、ショーの最中に起きた事故によって両足を失ってしまう。そこから彼女がどう希望を見出し、どう生きていくのかが描かれるが、この手の映画でよくありがちなキレイゴトの人生再生ストーリーではないのが、この映画の特徴でもある。ジワジワと襲ってくる喪失感、それでも生きていく人間の底力、そして愛するということはどういうことなのか……を問いかけてくる。『君と歩く世界』は、女性の、人間の、生きる力を描いた映画であり、それを代弁するステファニー役はオスカー女優であっても容易いことではなかった。

マリオン・コティヤール(以下M):脚本を読んで、すぐにステファニーを好きになったけれど、彼女のことを本当には理解できなかったの。ステファニーはこれまで私が演じてきたキャラクターのなかでも特にミステリアスで、とても難しい役だったわ。というのは、彼女がどういう社会で生きてきたのか、何を望んでいたのか、まったくわからなかったから……。それを正直にジャック(監督)に打ち明けると、彼も「僕も同じだ」と言って、彼と一緒にステファニーについていろいろな質問を投げかけ合って、話し合って、彼女が本来持っているものを分析していったの。彼女は一体どういう人物なのか、どんな幼少期を過ごしてきたのか、そうやってキャラクターを探っていく作業は役作りにおいてとても大切だと思っているし、考えるのが楽しくもあるのよ。

ステファニーというキャラクターに少しずつ近づいていったというマリオン。面白いのは、ステファニーのなかにある“空虚さ”は、両足を失った後ではなく、失う前にあったという解釈だ。

M:事故が起きる前のステファニーは、少し冷たい性格だったと思うの。彼女の中にはとても空虚なものがあって、彼女は自身自分のことを分かっていなかった。そして、両足を失うというショックによって、彼女は自分を見つめ直す機会を得るのね。それを手助けしてくれるのが(シングル・ファーザーの)アリという男性。彼女がアリを求めたのは、彼がステファニーをハンディキャップのある人と見ない人だったから。そもそも、ハンディキャップを持っている人と持っていない人というカテゴリに分けるのは簡単じゃないわ。だって、人間は1人ひとりが違って当然だもの。とても個人差があると思うの。両足を失ったことで生気を失う人もいれば、その事実を受け入れて何かを生み出す人もいる。ステファニーの場合は、事故によって自分の心を解放することを学んだのね。

その心の解放がよく現れているのが、アリにおぶってもらいながら海で泳ぐシーン、アリの格闘試合を間近で見つめるシーン、そこにステファニーの生気を感じるとマリオンは説明する。特に南仏アンティーブのキラキラした光のなか、生気を取り戻したように泳ぐ姿は、力強く、そして美しい。

M:彼女のなかで“水”というのはとても大切な要素なの。事故の後にしばらくは水に触れていなかったけれど、海に入ろうとするあの瞬間、彼女は自分を解放しようとしたのね。もうひとつ感動したのは、アリの格闘試合のシーン。肉体を通じてとても暴力的なものが描かれているけれど、ステファニーがその暴力的なシーンを見て開放感を感じたのは確かな事実なの。アリはもう闘えないんじゃないかっていうシーンがあって、その時、ステファニーは車から出ていくんだけれど、あのシーンはこれが同一人物? 本当にステファニーなの? というほど驚くと思うわ。彼女の弱さと強さを同時に感じるシーンでもあるの。ステファニーはアリに直接的に言葉は投げかけないけれど、無言で彼に話しかけているのよ。「起き上がりなさい!」「立ち上がって歩きなさい!」ってね。それは、アリだけに向けられた言葉ではなく、彼女が自分自身に言った言葉だと思うの。

もしも自分が両足を失ったらどんな選択をするだろう、生きるとは、美しいとは、愛するとはどういうことだろう。さまざまな投げかけを受け止め考えることが、人が輝く第一歩につながる。この映画には、本当の意味での女性が輝く瞬間が映し出されている。

『君と歩く世界 Rust and bone』
監督/ジャック・オーディアール
原作/クレイグ・デビッドソン
出演/マリオン・コティヤール、マティアス・スーナーツほか
HP/www.kimito-aruku-sekai.com

Interview&Tex&Photo:Rie Shintani

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