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全人類を魅了する、奥深き食の世界[後編]/菊地成孔×伊藤俊治 対談連載 vol.19

I「でも菊地さん、ワインやシャンパンを飲むようになってまだ10年くらいなんですよね? けっこう凝っていそうですね」
K「上に行ったらキリがない世界なので、殿上人と比べるとまだまだヨチヨチ歩きですよ。最近はソウルによく行くので、ワイン事情にも注目しています。ソウルには三つ星シェフ、ピエール・ガニェールのレストランがあるんですよ。ソウルで唯一のシェフレストランなので、定点観測として年に数回通っています。開店当時はボルドーが一本もなかったのが、ワインリストがだんだん増えている。それから街ではカフェブームですね。米軍基地がある関係で、以前はシアトル系のスターバックスが多かったんですけど、最近はその名も『パリ・バゲット』や『パリ・クロワッサン』など、簡単なバゲットサンドにグラスの赤が出てくるようなカフェがものすごく流行っているんですよ。米軍基地のある国が遅まきながら欧州に目を向け、文化の定着がワインに表れるというのが面白いんですよね」
I「いま、バリ島にもいくつかワイナリーがありますね。以前はオーストラリアから輸入していたけれど、バリの山岳地帯でも作るようになったんです。バリには年に1、2回行きますが、食べ物も本当においしくて。農薬をまったく使っていないし、肉もうまい。日本ではあまり食べませんが、バリでは肉を食べますね。それから、日本人がラーメンに渾身の力を注ぐように、バリには店によって具が異なる丼ものの“ナシチャンプル”があって、同じ味がないので飽きが来ず、おいしいですね。生の唐辛子や赤玉ねぎをオイルにつけた薬味の“サンバルマタ”も、それだけでおいしい。サンバルマタもキムチのように家庭によって味が違うので、各自が工夫をしてちょい足ししているかもしれません」
──伊藤先生はお酒強そうですよね?
I「僕は秋田生まれなので(笑)。何十年も延々と飲み続けてきたけれど、50代からはアルコールを分解できなくなってきて、いまは週に一回くらいにコントロールしています。あと何回飲めるかわからないので、なるべく好きなワインしか飲まないようにしています(笑)。特に好みなのは、オーストリアのヴァッハウ渓谷などで作られるグリューナー・フェルトリーナという品種の白ワインです。全長3000キロのドナウ川の中でも最も美しい景観で世界遺産ですが、この土地の固有種で、芳醇なコクと酸味に目も眩みます。ぜひ一度、ウィーンのホイリゲなどで試してみてほしいです。日本でも最近は若くてやる気のある醸造家たちが、山形や岩手などもともとワインを作らなかった場所で、個性のあるワインやスパークリングワインなどを製造しているんですよね。ここ10年で日本のワインはすごくよくなったと思います。北海道まで一応ブドウは栽培できるから、町おこしの起爆剤になっているのかもしれません」
【文人は悪食、音楽家は美食!?】

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