蓮沼執太フィル「Eco Echo」が導く「他の誰かと同じ空気を震わせる、ハーモニーの喜び」
最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、蓮沼執太フィル「Eco Echo」をレビュー。
他の誰かと同じ空気を震わせる、ハーモニーの喜びがここに
総勢16名の大所帯グループ、蓮沼執太フィルから(ちょっと早めの)今年を締めくくる1曲が届いた。「Eco Echo」という曲名は、Eco=生態系、私たちの生活、Echo=こだまし響き合う、という意味なのだそう。コロナ禍初期に作られた曲だというが、隔離され、互いの接触を控えてきた私たちの生活が再び交わりあい始めている今の空気感に、これが不思議とピタリとあった楽曲なのだ。
コンポーザーでシンガーソングライターでもある蓮沼執太が率いコンダクトする、蓮沼執太フィル。メンバーは皆、それぞれ個々別々に第一線で活躍するアーティストで、ある種スーパーグループといってもいいかもしれない。ギターやベース、ドラムといった一般的なバンドを構成する楽器はもちろんのこと、弦楽器、管楽器など、クラシックや現代音楽と近しい間柄の楽器のプレイヤーもメンバーとして在籍しているのが特徴的だ。またこの曲には、ここ直近のコンサートなどでも演奏に加わっていた雅楽器の笙の奏者である音無史哉も参加しているのも興味深いところ。まるでオーボエのような音色で違和感なく溶け込みつつ、けれど西洋的な木管楽器とは異なるやや硬質な音質でスパイスを与えているなど、バックボーンの異なる楽器やプレイヤーが集いハーモニーを作り上げているのが面白い。
その姿勢は、サウンドにも表れている。管楽器やスティールパンがふわりと空間を包み込み、ベースやドラムがクリアに抜け、ギターがきらめきを加えながら、弦楽器が心を揺らす。曲全体を決して大仰に盛りあげるわけではなく、“フィル・ハーモニック・オーケストラ”というその名前の通り、隙間の多いサウンド・スケープに一人ひとりのプレーヤーが自分の出す音を他の人が鳴らす音に寄り添わせるように奏でられているのが印象的だ。また、蓮沼執太フィルには正式なメンバーとしてエンジニアである葛西敏彦がPAとして在籍。楽器の音の生っぽさを引き出す技術に長けた葛西が音響を操ることで、10名以上ものメンバーが、同時に空気を震わせる瞬間そのものを紡ぎ出しているかのようなこの楽曲。その様子はどこかインスタレーションのような雰囲気もあり、現代アートともコラボレーションすることの多い蓮沼執太らしい感覚もある。
後半にかけ、<アカウントなしで空に放つ / 言葉 とばす><こだまする日々の暮らし / みんなで話をしよう>と歌われる本曲。その言葉は、互いに同じ空間を共有し、リアルの場で感情を共鳴させることへの可能性がまた再びうっすらと見え始めている今の空気とも共振しているような気がする。最後に畳み掛けられる<Eco Echo 行こう>という歌詞にはふわっと体が軽くなり、私たちは本来、自由にどこかへ飛び立てる存在だったんだ、という気づきを与えてくれる。もちろんコロナの流行は終息とは言えず、まだまだ予断を許さない状況ではあるが、せめて少しでも未来の光が見える来年へと、この曲が連れて行ってくれる気がする。
蓮沼執太フィル「Eco Echo」
2021年11月10日(水)リリース
各種配信はこちらから
「NEWoMan SHINJUKU CHRISTMAS 2021 JOY TO YOU」
昨年に引き続き、ニュウマン新宿のクリスマスキャンペーン・ソングとなった「Eco Echo」は、2021年11月22日(月)〜2021年12月25日(土)の期間、ニュウマン新宿館内BGMとなっているほか、12月16日にはChristmasライブ上映会も開催予定。また、配信シングルとは異なる、「Eco Echo」15分ver.が特設ウェブサイト内BGMとして視聴可能。
https://www.newoman-christmas.jp/
蓮沼執太フィル公演
エコ・エコー・行こう大阪(全方位型)
2021年12月12日(日)千日前ユニバース(味園ビルB1) 17:00開場 / 18:00 開演
https://happeningskyoto.stores.jp
エコ・エコー・行こう大分
2021年12月14日(火)大分・iichiko音の泉ホール
「GENKYO 横尾忠則」関連 ワンコインリレーコンサートvol.3 蓮沼執太フィル
①昼公演:2歳以上入場可 13:15 開場 / 14:00 開演 / 15:00 終演予定
②夜公演:小学生以上入場可 18:15 開場 / 19:00 開演 / 20:00 終演予定
https://emo.or.jp/event/3304/
Text:Nami Igusa Edit:Chiho Inoue