ミニマルで優美なオーガニック・ソウル。名盤の呼び声高いクレオ・ソルの新作『Mother』
最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Cleo Sol(クレオ・ソル)の新作『Mother』をレビュー。
にわかに脚光を浴びるシンガーによる「母性」をテーマにした、ミニマルなオーガニック・ソウル
今年はUKのソウル・シーン、なかでも若手と言える女性アーティストの良作が立て続いている。年初にリリースされたアーロ・パークスやセレステのハイクオリティなデビュー作を皮切りに、ジョルジャ・スミスのEP、ネイオのニューアルバム、そしてオーケストラ・サウンドをもバックに従えたリトル・シムズのセカンド・アルバムもまた、ラップアルバムでありながらもネオ・ソウル的なソングライティングも聴ける作品であり、大きな話題となったことも記憶に新しい。そのシムズのアルバムの中の数曲にフィーチャリングで参加しているのがウェスト・ロンドン出身のシンガー、クレオ・ソル。今年31歳となるシンガーで、2011年ごろから活動していたようだが、昨年ソロ名義でのデビュー・アルバムをリリースしたアーティストだ。シムズのアルバムを手がけるプロデューサー、インフローと、ラッパーのキッド・シスターとともに、ポスト・パンク、ブレイク・ビーツを思わせる音楽性を展開するSAULTというユニットにも参加しているクレオだが、その彼女が、シムズのアルバムと前後してリリースしたのがこのセカンド・アルバム『Mother』である。
アルバムは、クレオが今年出産をし母となったことをきっかけに作られたもので、ラディカルでシリアスなSAULTとはガラッと異なる顔を見せている。<天から天使を授けてくれてありがとう>(「Heart Full of Love」)などストレートに子どもを持つ喜びを溢れさせる楽曲も多々ある一方で、「23」という曲では、(詳しくは語られないが)自身の母親への確執からくる不満をぶつけつつも、<小さな星も、閉じ込められた夢も、欠けたピースも、私の中にある>と母の存在が自分を作ったことということに理解と敬意を示している。母性の目覚めをきっかけに、自身の人生を回顧すると同時にまた子どもの未来を想像する、というように、3世代の親子の過去・現在・未来へと巡らせた想いが、クレオの羽のように柔らかく軽やかなシルキーヴォイスと繊細な歌い回しによって昇華されていくのが実に美しい。
アレンジはいずれの曲も豪華になりすぎることなく、絞り込まれた数少ない楽器がオーガニックな音色でフレーズを繰り返す、引き算の美学を感じさせるところが絶妙だ。また特に、ベース・ラインとヴォーカルがシンクロしたり、曲間がシームレスに繋がっていたり、さらにゆるゆるとループするミニマルなピアノの旋律を軸にしたソングライティングには、ソランジュの『A Seat at the Table』(2016年)や『When I Get Home』(2019年)からの影響が感じられついニンマリしてしまうところでもある。
彼女らしい特徴といえば、アルバム後半に登場するコンガによるパーションが奏でるラテンのムード。彼女の両親はジャズバンドで出会った音楽家同士で、母がセルビアとスペインの血をひくフルート奏者兼ギタリスト、父がジャマイカ系のベーシスト兼ピアニストだったのだそうだが、今作ではジャマイカ・ルーツらしいレゲエ風のビートを交えるだけでなく、「Music」の後半ではチャチャチャ風に変化させるなど、ラテン・リズムを多彩に織り込んだリズムに心も弾む。イギリスは歴史的にジャマイカ系の移民が多いが、こうしたラテン・ミュージックを違和感なく持ち込んでしまうところがUKソウルらしさのひとつ。個人的に今後も新しい才能の登場が最も待ち遠しい、魅力的で豊穣なシーンだ。
Cleo Sol(クレオ・ソル)
『Mother』
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Text:Nami Igusa Edit:Chiho Inoue