【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.8 フェデラーが経営参画するスニーカーブランド「On」の上場 | Numero TOKYO
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【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.8 フェデラーが経営参画するスニーカーブランド「On」の上場

Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。

今回はロジャー・フェデラーも経営に参画していることで知られるスイスのスニーカーブランド「On」の上場について書きます。

vol.8 著名スポーツ選手によるスタートアップへの投資

Copyright of On.
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ランニングシューズ市場を快走するOn、米国で上場

https://forbesjapan.com/articles/detail/43441 「On」というスイスの新興スニーカーメーカーをご存知でしょうか? 僕も4、5年前に最初の一足を購入しましたが、最近は街やランニングで着用している人が日本でも増え、見たことある、聞いたことあるという人も珍しくなくなっているのではと思います。そのOnが去る9月15日にNYSE(ニューヨーク証券取引所)に上場を果たし、公開初日から一兆円を超える時価総額がつきました。 ちなみにナイキの時価総額は20数兆円とこちらはまだだいぶ先にいますが、エンゼルスの大谷翔平がスパイクを着用するアシックスの時価総額が4000億円程度であっさり抜き去られました。

Copyright of On.
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そしてこのOnですが、テニスプレーヤーのロジャー・フェデラーが、2019年に投資家兼共同経営者として参画したことも大きな話題になりました。長年蜜月だったナイキとの契約を終了し、ウェアはユニクロに切り替えたタイミングにも重なります。

シューズに関してはサプライヤー契約終了後もしばらくナイキのものを着用していましたが、2020年の怪我からの復帰戦で自身も開発にも関わったフェデラーモデルのOnのテニスシューズを披露しました。

報道によるとフェデラーは2019年当時、50億円超の出資をして、3%程度の株式を取得したとのこと。仮に現時点で3%の株式を保有しているとすると、その価値は約300億円となります。2年で250億円の利益、6倍程度の価値になっています。フェデラーが20年余のプロテニスプレイヤー生活で稼いだ賞金総額が150億円弱(ちなみにスポンサー収入はユニクロとだけでも10年で300億円程度言われており、その数倍あると推定されます)と考えると、いかにこの投資が成功したものだったかということがよく分かると思います。

Copyright of On.
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セレブリティや著名スポーツ選手が、スタートアップに投資しているという話は近年珍しくなくなってきてはいますが、一定以上の規模まで到達しているスタートアップにこの規模の投資を自ら行い経営に深く関わった事例といのはあまり聞いたことがありません。

先日もカニエ・ウェストの総資産は約7200億円と報じられていましたが、アディダスやGAPといった企業との、毎年二桁億のロイヤリティ収入をもたらしているYeezyプロジェクトの成功(及びその収益をベースにしたYeezyの会社としての企業価値)がここには大きく寄与しています。

カニエの関わり方としては投資を伴わないものであり、また経営に関与するものではありませんが、カニエは協業先と売上ロイヤリティに加えてストックオプション(コラボレーション実施前の株価で一定数の株式を購入できる権利)が売上目標達成に応じて付与されるという契約を結んでいると言われており、自らのコミットによる株価の上昇によって大きな利益を得ているポイントに関しては少し近いところがあるかもしれません。契約の構造として、必然的に自分ごととして取り組んでいくモチベーションが高まります。

ブランドの顔としての役割を定額のフィーでこなすのもスーパースターの昔から定番かつそれだけでも決して低くない収入を得られる仕事ではありますが、結果にコミットメントすることでそれにしてもその金額の桁が変わってくるということがよくわかります。

スポーツのスーパースターたちにとっては契約プレイヤーとしての収入も活動を支えるものとして重要なものであることは想像に難くないですが、フェデラーのようなスーパースターたちがキャリアの晩年を迎えたタイミングでただ投資をするだけには留まらず、このようなかたちで自分の圧倒的な知名度や経験を活かし、深く新興スタートアップに関わっていくという事例は、今後もますます増えていくのかもしれません。

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Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue

Profile

山本憲資Kensuke Yamamoto 1981年、兵庫県神戸市出身。電通に入社。コンデナスト・ジャパン社に転職しGQ JAPANの編集者として活躍。その後、独立して「サマリー」を設立。スマホ収納サービス「サマリーポケット」が好評。

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