謎めいたアーティスト((( o )))が生み出す、自然環境やエコシステムと調和する音楽 | Numero TOKYO
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謎めいたアーティスト((( o )))が生み出す、自然環境やエコシステムと調和する音楽

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、((( o ))) のセカンドアルバム『((( 2 ))) 』をレビュー。

12年にわたるプロジェクトの2作目。自然と調和し、自然に還っていく、オーガニックなクラブアルバム

((( O )))というのは彼女、June Marieezyのアーティストネームだが、特に発音の仕方が決まっているわけではない、記号なのだという。謎めいたSSWである彼女は、元々はアメリカはテキサス州・ダラス出身で、フィリピン人の両親の元に生まれたのだそう。アメリカでの物質的に豊かな暮らしに疑問を抱き、16歳の時にフィリピンへ戻ったという彼女。そんな経験がバックボーンとなったこの((( O )))というアーティストとその作品の魅力と特殊性を形作っている。そんな((( O )))が先ごろリリースしたのが『((( 2 )))』という名前のセカンドアルバム。実は、((( O )))は、このアルバムを含めて、フィリピンのジャングルで、太陽光のみで発電を行いながら楽曲制作をし、12年間に1作ずつアルバムをリリースするというプロジェクト、“The Sundrop Garden”をその活動のメインに据えている。昨年に出したファーストアルバムが『((( 1 )))』であったから、今作は『((( 2 )))』というわけだ。

前作では、R&Bやネオソウル風の楽曲を中心にしながらも、鳥の声やジャングルの葉のさざめく音など、環境音をふんだんに取り入れながら、澄んだハイトーンのコーラスが一面に広がり、まるで極楽浄土かと思わせるようなサウンドを作り上げていた彼女。今作では、そのスピチュアルな音作りはそのままながらも、よりアタック感の強いビートを取り入れ、アグレッシブでダンサブルなアレンジの楽曲を展開している。冒頭の「Less Than Three」から、太いベースの音を唸らせ、クラブのフロアにいるかのような密度の詰まったトラックを聴かせながら、「IDGAF」ではジャジーな生ドラムと弦楽器のアレンジでラウンジ・ミュージックのような洒脱さをまとう。かと思えば、「Homie」「Pocahontas」といった終盤の楽曲では、音数を絞ったミニマルで乾いたサウンドに自身のラップを乗せ、さながらトリップホップのようなトラックメイクにも接近しているのが興味深い。

そうした細かなアレンジ面での冒険を経つつも、鳥の声や水の流れる音などが漏れ聞こえてくるラストの「Mood Out There」では、思わず深呼吸したくなるような緑豊かな光景が目に浮かんでくる。そんな、まるで自然に還っていくようなアルバムのエンディングには、このプロジェクトの「自然環境やエコシステムと調和しながら音楽を生み出し続ける」という目的とも通じるようにも思える。消費社会と表裏一体の存在である、エンターテイメントや音楽。自然の中で、自然の恩恵だけで音楽を作ろうという((( O )))のプロジェクトは、音楽と環境の持続可能な関係に、新しいビジョンを投げかけてくれそうな予感がしている。今後の残り10作も、気を長くして見届けていきたい。

((( o ))) 『((( 2 )))』
2020年8月27日リリース
https://thesundropgarden.com/

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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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