物語ではなく、空気になるために。岡田拓郎+duennが創造した2020年の“都市の音楽” | Numero TOKYO
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物語ではなく、空気になるために。岡田拓郎+duennが創造した2020年の“都市の音楽”

最新リリースの中から、ヌメロ・トウキョウおすすめの音楽をピックアップ。今回は、Okada Takuro(岡田拓郎)+サウンド・アーティストduennによるアルバム『都市計画(Urban Planning)』をレビュー。

街とゆるやかにつながり、生活音と溶け込んでいく、“都市のささやき”

このところ自宅にいる時間が増え、せっかくなので窓を開けて過ごしている。部屋の中にいながら外から入ってくる光や音を浴びながら過ごすのはなかなかに心地の良いものだと、ずっと同じところに住んでいるのに、今更ながら気がついた。陽の当たり方によって表情を変える建物、時間帯ごとに微妙に変化する生活音。それらが、自分のいる部屋の中と窓を隔てて混ざり合うのを感じると、この街で暮らしているのだというほのかな実感を得る。打ち込みのミニマルなフレーズで作られているのに、どこか温かみさえも感じさせる、岡田拓郎とduennの共作によるアルバム『都市計画(Urban Planning)』は、そんな風に暮らしの中で聴こえてくる、“都市のささやき”のような作品だ。

ドローンを中心とした電子音楽のアーティストであるduennが、簡易な音源制作ソフトであるGarage Bandで作ったというメロディをもとに、ギタリストである岡田が編集・プロデュースした今作。ソフトシンセを使った人工的な音ではあるものの、メロディ自体はハミングのように素朴だ。繰り返されるシンプルなメロディの積み重ねからは、“都市”の“計画”というタイトルとも相まって、きっちりと形を整えられた家々の立ち並ぶ風景をも想起させられる。人間にとって“初めから与えられたもの”である「自然」に対して、「都市」とは、“こうあるのが心地いい”と意図されて設計されたものだが、今作が、自然豊かな環境の音ではなく都市の音にフィーチャーしているという点では、住まいの音の心地よさを求めて、1980年代にミサワホームが取り組んでいたサウンドスケープ・シリーズにおける、吉村弘や広瀬豊などにも通じていると言えるだろう。

今作はそうした先人たちの「環境音楽」と同じく、ビートが希薄であるゆえに、生活の中の様々な音に溶け込んでいく。換気扇の回る音、遠くを定期的に通る電車の音、料理をフライパンで炒める音……。無機質だけれど規則的でもあるこうした音たちと混ざり合ってもぶつからず、むしろduennの紡いだ牧歌的なメロディと合わさることで、別の音楽のようにも聴こえてくるのだ。奇しくもそれは、部屋の中にいながら外の街と緩やかにつながっているように感じられる、最近の筆者の、そして多くの人の新しい生活のスタイルとも、どこか似ている。心地よく聴いていているとわずか30分足らずでふっと終わってしまうので、できればずっとかけていたい、などとも感じるのだがご安心を。YouTubeでは、なんと3時間もの尺のバージョン公開されている。

Okada Takuro + duenn 『都市計画(Urban Planning)』
2020年05月20日デジタルリリース
各種デジタル配信はこちらから

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Text:Nami Igusa  Edit:Chiho Inoue

Profile

井草七海Nami Igusa 東京都出身、ライター。主に音楽関連のコラムやディスクレビュー、ライナーノーツなどの執筆を手がけている。現在は音楽メディア《TURN》にてレギュラーライターおよび編集も担当。

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