多種多様な生き方を体現する、SNS時代のセレブたち | Numero TOKYO
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多種多様な生き方を体現する、SNS時代のセレブたち

マイノリティであることを恐れずに、自分らしくあることを貫くセレブたち。SNSの発展に伴い、彼らがさまざまな問題について発信するようになった、これまでの背景を解説するとともに、私たちに勇気を与えてくれるセレブたちの多様な生き方に迫る。(「ヌメロ・トウキョウ」2018年11月号掲載)

ステラ・マクスウェル(Stella Maxwell)/モデル(右)
×クリステン・スチュワート(Kristen Stewart)/女優(左)

影響力大! 女性同士のカップル

ロバート・パティンソンとの破局後に、アーティストのSOKOセイント・ヴィンセントなど女性との交際を明らかにしていたクリステン・スチュワート。そんな彼女が、ヴィクトリアズ・シークレットのエンジェル、ステラ・マクスウェルと交際。ステラはマイリー・サイラスと交際していた過去がある。2016年から交際を開始した二人は、デートから5カ月で同棲を始め、プライベートではいつも行動を共にしていた。2018年末には破局報道が。

世界が求める「自由」をセレブが体現

いつの世でも、時代を先行するのは政治ではなくセレブ。特に2010年代は、多様な生き方を主張することに対して、多くのセレブが声を上げてきた。その裏にあるのは、全世界的に急速で動き始めた、マイノリティや女性に対する人権の尊重と、それへの反発。わかりやすいタイミングとしては、アメリカでのオバマ政権の8年間と、それに対する反動が出てしまった今がある。

オバマ政権時代に積極的に取り組まれたのは、あらゆる差別の撤廃。これは、男女の社会的格差や、人種差別、性別マイノリティ差別など、欧米では長年市民レベルで偏見や差別が薄れつつあるものの、法で守られていないがばかりに、全ての当事者が平等に扱われてこなかった背景がある。

リナ・ウェイス(Lena Waithe)/脚本家・女優

アフリカ系の女性として初めてエミー賞を受賞

出演するドラマ『マスター・オブ・ゼロ』でエミー賞コメディ部門脚本賞を受賞して話題のリナ・ウェイス。受賞したのは、自身がカミングアウトしたときとその後の経験を生かしたエピソードを綴った脚本でだった。 タキシード姿(写真上)で挑んだ受賞スピーチでは、アフリカ系黒人女性でレズビアンであること、そして他の性的マイノリティへのメッセージを送り大反響。

昨春の大ヒット作『レディ・プレイヤー1』でも、本人のキャラを生かした役で活躍した。

SNSにより瞬く間に社会運動が波及

例えば2015年、アメリカにおける同性婚の違憲無効化=同性婚の認可や、ハリウッドを発信源に全世界に広がった男女の賃金格差を訴える運動。また2017年、大物映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインがセクハラで訴えられたことによって一気に広がっていった、性的暴行被害を訴える「#MeToo」運動と、それを撲滅するために立ち上がった「Time’s Up」運動などなど。

SNSの普及によって、こうした不平等に対しての意義が一気に全世界に拡散していき、その対応をめぐっても一般レベルで問題視が広がっていくのは、いかにも今らしい事象だ。それら大きな運動の大半は、政治ではなくセレブが発信源となり広がっていった。

こうした動きの反面、2017年アメリカではトランプ政権が発足したほか、欧州でも急速にその反動で右傾化の波が荒れ狂っているせいで、多様な生き方がおびやかされている。それも、ただの右ではない。オルト・ライトと呼ばれる、多文化や移民などの多様性を否定する歪んだナショナリズムに支配された思想が中心となっている。

カーラ・デルヴィーニュ(Cara Delevingne)/モデル・女優

オープンな交際でいつでも注目の的

ファッションモデルとしてだけでなく、ミュージシャン、女優としても活躍の場を広げるItガール、カーラ・デルヴィーニュ。ソーシャライトとして育った彼女だが、キャリアも恋愛もそのときにやりたいことをやる、と公言しており、保守的な考えはゼロ。ハリー・スタイルズなど有名人男性との交際はもちろん、パリス・ジャクソンやアンバー・ハードなどともカップルに。

最近ではアシュレイ・ベンソン(右)との交際をスタートし、自由な生き方を楽しんでいる。

セレブたちが声を上げることで救われる人も

これまでに歴史を見ても、極端なナショナリズムの台頭は、経済はもちろん文化的にも矮小化する傾向があり、とても肯定できるものではない。が、それ以前の急速な変化に対応しきれなかった人々の反作用も大いにあるために、その大きな流れを止めるのは非常に困難となっている。だからといって、声を上げないでいたら、多様性は失われていってしまう。

そこで大きな力を持つのが、セレブの多様な生き方だ。ここで紹介する人々は、ジェンダーやセクシュアリティで不当な偏見や差別に遭いながらも、自分らしい生き方を選び、それを公にしてきた。彼らはそれぞれのシチュエーションに苦悩しつつも、自身の生き方を公表することで、同じ立場にいる多くの人々を勇気づけている。

アダム・リッポン(Adam Rippon)/フィギュアスケーター

保守的なアスリート界で本当の自分を貫く

2018年の平昌冬季五輪でフィギュアスケート・アメリカ代表選手として活躍したアダム・リッポン。彼は2015年にゲイであることをカミングアウト済みだ。アスリートの世界は、セクシュアリティに対しては保守的な業界。公表は選手生命にも関わることゆえにタブーだった。が、彼をはじめ性的マイノリティのオリンピアンが多数現れたことで、確実に流れは変わりつつある。

同じくゲイを公表したスキー選手、ガス・ケンワージー〈左〉と。

フォロワー数だけじゃない、発言力の根底にあるもの

ましてやマイノリティを公言して生きることが急激に難しくなった今、彼らの存在は貴重だ。彼らはSNSのフォロワー数だけで見ても発言力があることは一目瞭然だが、それ以前に彼らは名声を持つ者として社会的模範であるべき意識が高いことが特徴。そこがSNSのインフルエンサーやYouTuberたち、一般人から即席でセレブ化してしまった人々と違うところ。

セレブは常々人々からの視線にさらされるが、その対応にも肌感覚で慣れており、自分の発言や行動が社会にどういった影響をもたらすかを本能的にかぎわけている。それゆえに、社会的な運動にまで発展する発言や行動が取れるのだ。これを一朝一夕の即席セレブがやろうと思っても難しい。注目されることに重きを置く彼らは地雷を踏みがちで、ちょっとしたことで炎上してしまう。だからこそ、勇気ある彼らの動向には注目し、生き方をフォローしていきたい。それが後の世を生きる人々への大きな財産となっていくのだから。

カーディ・B(Cardi B)/ミュージシャン

波乱万丈な人生をものともしない頼もしさ

2018年春メジャーデビューし、一気にスターダムに上ったカーディ・B。彼女が成功をつかむまで の足 跡があまりにも波乱万丈だということでも話題になった。普通でいることを拒んだ子ども時代、大学を中退しストリッパーになった青春時代、美容整形、DV被害を経て、それらを隠すことなく発言するネットセレブに……。 ドン底にいた彼女が、自身の経験を踏まえてラップの道に活路を見いだした。アメリカン・ドリーム以上の勇気を与えてくれる一人。

ハンネ・ギャビー・オディール(Hanne Gaby Odiele)/モデル

インターセックスを公表&支援で支持が高まる

LGBTの人権が向上する中、 顕在化しにくく、一般の理解もまだまだなのがインターセックス。性は男女2つだけ、という固定観念ゆえに、その両方の特徴を持つインターセックスへの理解はこれからの課題。そんななかだからこそ、ベルギーのモデル、ハンネ・ギャビー・オディールのカミングアウトは大きな事件だった。インターセックスを支援する団体とパートナーシップを結び、同じ境遇にある若者を支援するアイコンとして活躍している。

2016年に結婚したモデルのジョン・スウィアテクと。

アイラヴマコーネン(iLoveMakonnen)/ラッパー

ヒップホップ界を変える待望の革命児

ドレイクとのコラボでグラミー賞候補になったラッパーのアイラヴマコーネン。彼は2017年、自身がゲイであることを公表したが、これが大きな変化を導いている。というのもそもそもヒップホップ界には根強い同性愛嫌悪があるから。同性愛に対して批判的な楽曲が多く、保守的な男性性・女性性にとらわれた業界に対して、彼は拳を突き上げたのだ。その直後から、急速に業界内で性的マイノリティに対する理解促進運動が広まっている。

Text:Masamichi Yoshihiro Photos:Aflo Edit:Sayaka Ito

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