ウェス・アンダーソン インタビュー「飛行機が嫌い!? 手作り感が好き」 | Numero TOKYO
Interview / Post

ウェス・アンダーソン インタビュー「飛行機が嫌い!? 手作り感が好き」

『グランド・ブダペスト・ホテル』の大ヒットから4年、ウェス・アンダーソン監督がとうとう日本にやってきた!日本が舞台の最新作、架空の近未来の日本で繰り広げられる少年アタリ君と犬たちの冒険物語──パペットを使ったストップモーション・アニメ『犬ヶ島』(ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞)を引っ提げて来日した監督に直撃!

『ライフ・アクアティック』の公開時以来、なんと13年ぶりとなる二度目の来日。この貴重な機会を逃すわけにはいかない。実際に会ったウェス監督は、映画の可愛い作風や優しい世界観をまったく裏切らないナイスガイ。おしゃれで気さくでチャーミングな監督の素顔が伺える。 ──ようこそ日本へいらっしゃいました! お会いできて大変嬉しいです。 サンキュー! 僕も今回、日本に来ることができて本当に嬉しいんだ。『ライフ・アクアティック』のプロモーションで初めて来日してから、ずっとこの国が恋しかったからね。 ──飛行機が苦手だとお聞きしたのですが、今回はだいじょうぶでしたか? う~ん、まあ、なんとかね(笑)。それでも最近はだいぶ慣れてきたんだけど。飛行機さえ嫌いじゃなかったら、プライベートも含めて何度でも日本に来たいんだけどなあ……。 ちなみに前回、日本を発ったあと、用事があってパリに行ったんだ。そうしたら「もう飛行機に乗りたくない!」という気持ちになっちゃって、なんと一年半、そのままパリにアパート借りて住んじゃった。

──ビビリなのか大胆なのか(笑)。ところで新作『犬ヶ島』、本当に素晴らしかったです。お話の舞台を日本にした理由は?

それはもちろん、実際に訪れて日本が大好きになったから。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』がイタリアで公開された時、プロモーションで訪れたローマにすっかり魅せられて、次の『ライフ・アクアティック』を同地で撮った。それと同じパターンだね。『犬ヶ島』はアニメーションだから、日本でロケーションしたわけじゃないけど、初来日の時に受けたインスピレーションをもとに作った映画であることは間違いないよ。
あと友だちのロマン・コッポラ(『犬ヶ島』では共同で原案を担当)とも、ずいぶん前から「いつか日本で映画を撮りたいね」ってよく話してたんだ。彼の妹のソフィア(・コッポラ)は東京で『ロスト・イン・トランスレーション』を撮っているから、その話も聞いていたし、もう羨ましくて。

──ロマン・コッポラさんは、彼が製作総指揮を務めたTVシリーズ『モーツァルト・イン・ザ・ジャングル』のシーズン4の撮影で先に日本に来てましたね!(昨年、東京と札幌でロケーション)。

そうなんだよ! しかも彼は2ヶ月くらい前にも家族と一緒に日本へ遊びに来ている。ずるいなあって(笑)。

『犬ヶ島』メイキング (c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
『犬ヶ島』メイキング (c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

『犬ヶ島』メイキング (c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

──『犬ヶ島』は浮世絵から日本映画まで、日本カルチャーに対するウェス監督の愛が詰まっていますね。特に黒澤明監督の映画からの影響を公言しておられますが、1970年の黒澤作品『どですかでん』は観てらっしゃいますか?

おぉ、『どですかでん』! もちろん観ているし、『犬ヶ島』にとっても大きな影響を与えているよ。この2作品の最大の共通点は「ゴミ」だね(笑)。『犬ヶ島』の舞台は犬たちが追放されたゴミの島で、『どですかでん』ではゴミ捨て場にバラック小屋を建ててユニークな人たちが暮らしている。ゴミって普通は自然に出るものだから、美術として作るのはなかなか難しいんだよ。だから今回、映像的に映えるゴミを何点か製作するに当たって、『どですかでん』に登場する素敵なゴミを参考映像にさせてもらったんだ。


『犬ヶ島』メイキング (c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

──寓話的でシュールな味わいのあるカラー作品であり、主人公が少年であることなどの共通点もあります。

そうだね。これまで受けたインタビューでよく挙げていたクロサワムービーのタイトルは、『野良犬』とか『天国と地獄』、あるいは『悪い奴ほどよく眠る』。その理由としては、もし黒澤監督が『犬ヶ島』のストーリーで映画を作ったとしたら、『どですかでん』よりもあの3本に近いイメージになるんじゃないかなと思ったんだ。モノクロで、ちょっとダークな感じ。あんまり言いたくないけど、彼ならきっと僕より巧く作るだろうと思う(笑)。


『犬ヶ島』メイキング (c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

──ウェス監督の作品は実写でもアニメーションでもまったく作風がブレない。いつも100%のウェス・アンダーソン・ワールドですね。今回のお話は、ロマン・コッポラさんと一緒に以前脚本を書かれた『ムーンライズ・キングダム』とのつながりが強いように思いました。共に12歳の少年が主人公ですし。

うん。『ムーンライズ・キングダム』の主人公の少年サム君と、『犬ヶ島』のアタリ君は共通点が多いと僕も思う。実際ロマンと脚本を書いている時も、「このへんは『ムーンライズ・キングダム』の孤児の男の子によく似ているよねえ」と話していたし。あとサム君はボートに乗る。アタリ君は小型飛行機に乗る。そして、サム君は同い年の女の子と逃避行して、アタリ君は親友の愛犬スポッツを捜すための冒険に出る。

正直言って、僕とロマンはふたりとも、あの年頃の時、自分たちがそうであったらいいなあっていう理想像を、彼らに反映させているんじゃないかなあと思うんだ。僕の場合はすごくシャイだったし、オドオドしている少年だった。自分のしたいこともまるでできなかったし。だから、いまは大人になって「あの頃、こんな風だったらよかったのになあ」ってことを映画の中で実現しているんだ。

──思えば、孤独な少年と、新しい家族のような共同体という主題は、ウェス監督の作品に繰り返し出てきますよね。そしていまの監督は、信頼できる仲間たちと、ファミリー的な映画作りを楽しんでおられるように思います。

ありがたいことに、協力してくれる人がいっぱいいるんだ。今回もビル・マーレイやエドワード・ノートン、ジェフ・ゴールドブラム、ボブ・バラバンなど、僕の実写映画によく出てくれている素晴らしい俳優たちが、犬のキャストとして声優を務めてくれた。ちなみに今回、ボイスキャストが決まった時期はまちまちで、いくつかのパペットのキャラクターには僕自身が仮の声を当てていたこともあったんだよ。

──それはちょっと意外。パペットの犬の顔が、それぞれキャスト自身の顔に似ている気もしたので。

そう見えた?(笑)。きっとパペットを動かす段階で、アニメーターのみんながボイスキャストの声や存在に影響されたんじゃないかな。アニメーターさんの指先から彼らの生命が宿っていくように……。アニメーションってすごく不思議な表現で、ちょっとした首の動かし方や角度ひとつで同じシーンでもニュアンスがまったく変わってくるんだよね。声優たちの「声の演技」と、アニメーターの仕事による「動きの演技」。このふたつの要素が繊細に絡み合って、キャラクターのパフォーマンスを決めていくんだ。


『犬ヶ島』メイキング (c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

──なるほど、興味深いです。あっ、もうインタビュー時間の終わりが迫っているので……最後に、ウェス監督にとってのストップモーション・アニメ作りの醍醐味を教えてください!

僕が初めて映画監督をめざした時には、アニメにはあんまり興味がなかったんだ。フェリーニやベルイマンや黒澤のように、クレーンを使って、カメラマンがいて、豪華なセットがあって、実際の俳優さんを相手に演出する監督さんの姿を、自分のあこがれとしてずっと思い描いていた。
もちろんいまの僕も、そういう監督だと思っているよ。でもアニメを作っていくうちに、自分の創作において別の可能性が開いたというか……アニメのことがすごく好きになってきたんだ。
ストップモーション・アニメをやってみて気づいたのは、そもそも僕は手作り感が好きなんだよね。ストップモーション・アニメに登場するものは、すべてゼロから作り始めないといけない。逆に言うと、本当に100%自分でコントロールできる映画世界なんだ。
さっきも言ったように、今回のアニメーターさんたちが犬を動かす技術は驚くほど素晴らしくて、優れたアニメーターっていうのは替えの利かない存在だってこと。『犬ヶ島』を作っている過程でも、「このシーンは、このアニメーターさんにやってもらわないと絶対に駄目だ!」とか駄々をこねちゃった時もあって(笑)。つまり彼らの“キャスティング”もすごく重要だってこと。
それはあたかも歴史に残るような俳優さん、三船敏郎とかマーロン・ブランドを雇うような気持ち。大スターばりの技術を持った人たちなんだ。

──良いお話ですね。すごい楽しかったです。どうもありがとうございました!

こちらこそ楽しかった。良い時間をありがとう!

映画『犬ケ島』の情報はこちら

Interview&Text:Naoto Mori Edit:Masumi Sasaki

Profile

1969年、アメリカ、テキサス州生まれ。その比類なきユニークな才能で、世界で最も人気を博しているフィルムメイカーの一人。『アンソニーのハッピー・モーテル』(96年)で長編映画監督デビュー。続く『天才マックスの世界』(98年)でインディペンデント・スピリット賞監督賞を受賞、続く『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(01)でアカデミー賞®脚本賞にノミネートされる。『ライフ・アクアティック』(04)、『ダージリン急行』(07)を経て、初のストップモーション・アニメ『ファンタスティック Mr. FOX』(09)がアカデミー賞®長編アニメ賞にノミネートされる。さらに、『ムーンライズ・キングダム』(12)で、アカデミー賞®脚本賞、ゴールデン・グローブ賞作品賞にノミネートされる。そして『グランド・ブダペスト・ホテル』(14)が各国で大ヒットを記録、アカデミー賞®9部門にノミネートされ、ゴールデン・グローブ賞作品賞に輝く。自身もベルリン国際映画祭審査員特別賞を始め数々の賞を受賞する。

Magazine

MAY 2024 N°176

2024.3.28 発売

Black&White

白と黒

オンライン書店で購入する