二階堂ふみが語る『リバーズ・エッジ』への特別な想い | Numero TOKYO
Interview / Post

二階堂ふみが語る『リバーズ・エッジ』への特別な想い

圧倒的な存在感と演技力で異彩を放つ女優、二階堂ふみ。岡崎京子原作の90年代漫画の金字塔『リバーズ・エッジ』実写映画の主演を務める。彼女にとって『リバーズ・エッジ』、そして90年代とは?(「ヌメロ・トウキョウ」2018年3月号掲載

コート¥2,980,000 ボディスーツ¥154,000 パンツ¥158,000ネックレス¥147,000 左ブレス¥80,000 右ブレス¥80,000 シュー¥148,000/すべてChanel(シャネル) 『リバーズ・エッジ』と共に過ごした6年の日々 ──漫画『リバーズ・エッジ』との出合いは、映画『ヒミズ』の現場でスタッフさんから貸してもらったことがきっかけだったそうですね。 「はい。絶対好きだと思うよとお薦めいただいて。読んだときは高校2年生で、ちょうど主人公と同じ年齢だったんです。体の中に傷跡が残った感じというか、自分が抱えているものとか感じているものが全部その中にあって、えぐられているような感覚になりました」 ──漫画が発行されたまさに1994年に生まれた二階堂さんから見て、過去のものという意識はなかった? 「90年代のことをハッキリと覚えているわけではないのですが、体に染みついているものがあるというか、6歳までは90年代を過ごしていたので、雰囲気みたいなものは根付いているのかなと思います。だから、違和感を感じることはありませんでした。言葉だったり服装だったり表面的なものに時代を感じることはありましたが、むしろ、ある一過性の気持ちだったり感については、どの世代の人も当てはまるものがあるんじゃないかなと。いつの時代も「今どきの若者は」と言われる年代があって、そういう頃のお話かなと思いました」 ──そういう頃というと? 「何も感じられないというか、生きていることをないがしろにする年代ってあって。子どものときは素直だから、自分に噓をつかなかったり、ごまかしを知らないから強いと思うんですけど、大人になるとどんどん傷つくことに慣れたり、傷つくことを避けるようになったり。そういう子どもと大人の狭間にいる時期のことなのかなと思います」

──そうですね。岡崎京子さんを知ったのは『リバーズ・エッジ』が最初だったんですか?

「はい。すごく好きな作家さんです。いつ読んでもリアルタイムに感じられるんですよね。例えば『ヘルタースケルター』も『pink』も、年齢によって、自分が経験したことによって、全然違う解釈ができたりする。でも、やっぱり人間の欲だったり、自分に嘘をついたり、取り繕ったり、そういうものを『全部あらかじめ知ってるよ』と見透かされているような気持ちになる。だから残るものがあるんだと思います」

──本作の映画化は二階堂さんにとっても念願のプロジェクトだったそうですが。

「『ヒミズ』の半年後に、あるプロデューサーの方から私で映画化したいとお話をいただいたんです。残念ながらなかなか企画が進まない状態が続いて。だから、この6年間は『リバーズ・エッジ』がずっと頭の片隅にあって、でも同時に私は思春期といわれる年齢をどんどん過ぎていくし、これ以上大人になってしまうとこの役はできないんじゃないかという焦りもありました。結果、22歳で演じたのですが、自分の中での体感だけではなく、俯瞰することができたので、いま演じることができて良かったなと思いました」


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ガツンと殴られたような気分になる映画を作りたい

──最初の時点では監督もまだ決まってなかったとか。

「はい。この表現が適しているかどうかわからないんですけど、わりと尖った、少し暴力性のある作品を成立させることが映画業界でも難しくなってきていることもあり、監督も決まらない状況でした。そんななか、20歳のときに釜山映画祭で行定勲監督にお会いする機会があり、一緒にやりませんかとお願いしました。ガツンと殴られたような気分になる映画を作りたいとお話しさせていただいて。後から知ったんですけど、監督はそれまで漫画原作の実写化を手がけてなく、監督自身も影響を受けた岡崎先生の作品の映画化とのことで、とても勇気のいる選択だったそうです」

──では、だんだんと映画化が現実となってきたんですね。

「導かれるようなものもあって、20歳になったときに小沢健二さんと偶然知り合うことができたんです。お会いしていろんなお話をして、はるか遠くにいらっしゃる方なのに、近づいてきてくださって。それから岡崎さんにも紹介していただいて。例えば大きな会場のライブなどで、一気に何万人も目にすると、みんな生きてる!って圧倒されるじゃないですか。それに負けないくらい生命力のある方で、すごくかっこいいなと思いました」

──映画をご観になって、岡崎さんはどんな反応でした?

「喜んでくださいました。小沢さんと二人で見に来てくださって。映画を観た後も、ずっと笑顔でいてくださって、うれしかったです。二人が観てるときに試写室の後ろのほうで私も観てたんですけど、すごく緊張しました。行定監督が撮ってくださることが決まった時点で、絶対的な信頼はありましたし、私も妥協しないで頑張ってきましたが、岡崎先生に観ていただくまでずっと緊張感がありました」

わからなさについてずっと考え続けること

──緊張感が続いた理由はなぜだったと思いますか?

「現場にたくさん行かせていただくようになると、できることが増えていく感覚があって。そんなにキャリアを積んでいるわけではないんですけど、どこかでそうできるようになっている自分がいたんです。だから『リバーズ・エッジ』に入る前は、果たして今の私にできるのかとすごく緊張しました。お芝居のことよりも、どういうふうに振る舞うかを感覚じゃなく頭で考えるようになってしまっていたんですよね。でも、そういうことを忘れることができた現場でした」


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──それはまたどうして?

「いろいろあるのですが、同世代のキャストが集まったのは大きかったと思います。吉沢亮君は『この人が同性じゃなくてよかった』と初めて思ったくらい、天才だし職人だし。お芝居をするのがまだ2回目のす(SUMIRE)ちゃんは、すごく素直。(上杉)柊平君も『全然わからないから』って丸裸で飛び込んでいくし、ルミを演じた土居志央梨さんのようにかっこいい女優さんもいて。面白い同世代がたくさん集まった現場でした」

──『リバーズ・エッジ』と同時代に生まれた方々ですね。

「はい。不思議とどこか孤独になって、それぞれが『リバーズ・エッジ』について考えていました。そういうのが効いていた現場だった。それで、みんな成人していたので、飲みに行ったりするんですけど、やっぱりずっと考えているんですよね。今日ようやく手に入れた感覚がまたゼロになるんじゃないかと思って、家に帰るのが怖い、帰りたくないと思う作品でした。幸せな日々だったなって。自分と役が共存する感じというか」

──二階堂さんは主人公のハルナをどう捉えたんでしょうか?

「簡単にいうと、不感症なのかなって。それが生きていることをないがしろにしている部分なんじゃないかと。感じられない瞬間って、誰にでも絶対にあると思うんですよ。例えばネットニュースで殺人事件を知って、被害者の子が生きていた頃の写真を見ることになって、悲しい出来事だけど、この子たちが存在していたことも知らなかったし、怖いと思うけど何か感じられない。その子たちがこれまでどういうふうに生きて何を感じていたのか全くわからないという戸惑いは、もしかしたら『リバーズ・エッジ』の中にもあるような気がしています」

──でも、大人になってもわからないふりをしているだけかも。

「そうですね。仕事をしてると、わからないけどわかったふりをしといたほうがいいんだろうなってことはある気がします。生きることとか感じることについてわかる日は一生来ないんだろうなとか想像すると壮大な話ですけど、一生かけて考えることって実はあったりするんじゃないかと思っていて。でも、観た方には何かを感じてもらいたい。わからなかった、でもいいと思うんです」

90年代の女子高生のかっこいいクソガキ感

──そもそも90年代カルチャーって、どういう印象があります?

「後追い世代として見ると、80年代まではけっこう統一されているものがあったと思うんですけど、90年代からはいろんなジャンルのものが出てきたのかなと。もちろん、その時代を生きていたときにしか感じられないものはあると思うけれど。いい味で、個性が生かされていた時代だと思います」

──憧れの対象ではなかったと。

「70年代、80年代に青春時代を過ごした方たちに対する憧れがあったんですけど、岡崎先生が『リバーズ・エッジ』を生み出した90年代に生まれてよかったなって、この作品に携わって思いました」


シャツ¥65,000 ボディスーツ¥39,000 パンツ¥84,000(すべて参考価格)/Ben TavernitiUnravel Project(イーストランド) イヤリング¥15,000/G.V.G.V.(ケイスリー オフィス)サングラス¥51,500/Mykita(マイキータジャパン) 

──90年代ファッションはどう?

「大好きです。90年代から2000年代初頭の女子高生のファッションが好きで、ルーズソックスも憧れていて、高校生の頃履いていました。すーちゃんとも話していたのですが、私たちが小さい頃に見ていた女子高生ってすごくかっこよくて、大人っぽく見えていたんですよね。今の高校生はどちらかというと少し幼い感じというか。もちろん、根本は変わらないと思うんですけど、90年代のほうがクソガキ感はあったかも」

──じゃあ、二階堂さんがなりたい大人像ってどういう存在ですか?

「今回は、監督はじめ何十年と映画を作ってきた方々と私を含め若いスタッフが同じラインに立ってできた作品と思っていて。そういうことを許してくれる大人って素敵だなと。『黙って上の言うことを聞け!』じゃなくて、若い人にも寄り添ってくれる、当たり前のことがちゃんとできるかっこいい大人。私もそうなれたらいいですね」

──年齢を問わず同じ目線に立てる人は確かに素敵ですよね。

「年齢を意識しない、自由で優しい大人になりたいですね。それとはほど遠い、ちょっとしたことで怒ってそれを引きずってる自分もいるんですけど(笑)。でも、そこも大事にしながら生きていこうかなと。プライベートでも仕事でも、自分らしくいながらも周りを受け入れられることができたらいいな、と思うことはたくさんあるんですよね。そうしたら、もっと生きやすくなるし、視野も広がるんじゃないかと思うんです」

──時間をかけて受け入れていくもののような気がします。じゃあ、今23歳の自分の在り方には満足しています?

「苦しいときはもちろんあるんですけど、苦しいってことをちゃんと実感できているし、苦しいと言える人もいるから楽しいです。23歳ってもっと大人な気がしてたし、それはたぶん30歳になっても思うだろうし、いつの間にか70 歳になってたみたいなのがいいですね」

──最後に、二階堂さんの今のエネルギー源ってなんですか?

「今はいろんなものを手で触って経験させていただける環境にいるので、お芝居だけにならないところですかね。友達もいますし。いろいろ言う人もいますが、好きって言ってくれている人もいる。あとは、生き物とか自然とか。ファッションも好きなんですが、動物や子どもと触れ合っているとき、ものすごくパワーをもらっていて。それも変化なのかなと思います(笑)」

映画『リバーズ・エッジ』の情報はこちら

Photos : Bungo Tsuchiya Hair&Makeup : Ikuko Shindo Styling : Shino Suganuma Interview&Text:Interview&Text : Tomoko Ogawa Edit : Michie Mito Cooperation : Spotlight-Shinbashi

Profile

二階堂ふみ(Fumi Nikaido) 1994年9月21日生まれ、沖縄県出身。2009年『ガマの油』でスクリーンデビュー。近年では映画『ふきげんな過去』『SCOOP! 』『何者』などに出演。18年のNHK大河ドラマ『西郷どん』に愛加那役で出演。映画『リバーズ・エッジ』が2月、『いぬやしき』が4月に公開予定。

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