ジョン・キャメロン・ミッチェル が語る愛とパンクとジェンダー | Numero TOKYO
Interview / Post

ジョン・キャメロン・ミッチェル が語る
愛とパンクとジェンダー

ジョン・キャメロン・ミッチェル,John Cameron Mitchel
ジョン・キャメロン・ミッチェル,John Cameron Mitchel

名作ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』で有名なジョン・キャメロン・ミッチェル。10月に自ら出演した来日公演が話題を呼んだばかり。12月1日には、最新監督映画『パーティで女の子に話しかけるには』の公開を控える彼にインタビュー。

数々の賞を受賞し、多くの人々に支持を受けた名作『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』で知られるジョン・キャメロン・ミッチェル。彼が監督を手がけた新作映画『パーティで女の子に話しかけるには』が、2017年12月1日より公開される。今回、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』に自ら出演するため、来日していたジョンに、最新作、そしてジェンダーやセクシュアリティなどについて話を聞いた。

ポジティブな二人が繰り広げる、甘酸っぱい物語

──ニール・ゲイマンの短編集『壊れやすいもの』に収められた自伝的小説を映画化した本作ですが、映画にするときに楽しみにしていたシーンはどこですか?

「エル・ファニングとアレックス・シャープが二人で歌う『Eat Me Alive』、そして二人が新しいコロニー(惑星)を創っていく、そのシーンが楽しみでした」

──エルが、とても魅力的な演技を見せてくれました。監督が実際、彼女と一緒に仕事をして素晴らしいと思ったのはどういったところですか?

「今まで一緒に仕事をした女優の中で、彼女といることが一番楽しかったかもしれません。彼女はすごくポジティブで、プロフェッショナルで、何も恐れず、聡明で、わがままな振る舞いをすることなど一切ありませんでした。特に彼女は、ファーストテイクが最高なんです。役者によっては、数テイク取ることで演技がよくなる人たちもいますが、彼女は違いました」

──エルが演じたシーンで印象的なところは?

「エルが橋から飛び降りるシーンでですね。そのシーンでは、彼女が演じるザンが飛び降りる前に“I love you”と話すところがありますが、これは映画の核となる部分でした。撮影の際、すでに素晴らしいテイクは取れていたんですが、エルの方から時間がほしいと申し出たんです。その後、彼女はカメラが回ると最高の演技を見せてくれたんです。エルは今後、絶対に素晴らしい女優の一人になるはずですね」

DSC_1943のコピー
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──相手役のアレックスはどうですか?

「アレックスは映画出演が初めてだったので、エルがいろいろと教えてあげていました。彼はすごく若いけれど、いい意味で歳を重ねているような側面があって、彼もまた素晴らしかったです」

──愛のパワーを感じる作品ですが、監督にとって恋をすることのパワーとは?

「僕らを救ってくれるものだと思います。もし人が恋に落ちないということならば、人間はただ働いているだけの蟻ですね。でも、愛というのはリスクも取らせるし、自分とは違う存在と直面させてくれるものです。怖いけれど、同時に新しいアイデアをもたらしてくれるし、新しい遺伝子をも持ち込む。恋人は自分という国への移民ではないでしょうか」

“パンク”は日々変わっていくもの、そして前向きなもの

──70年代のイギリスにおけるパンクカルチャーを舞台にした作品ですが、監督にとってパンクとはなんですか?

「パンクって日々変わっていくものなんですよね。今、着用している衣装はヴィヴィアン・ウエストウッドのものなんですが、例えば、ヴィヴィアンのアプローチも変わり続けています。彼女が今、環境問題についてよく話すようになったことは、直接パンクから来ていると思います。パンクというのは抑圧する権威に対して問いかけること、自分を正直な形で表現すること、すべてが包括的にメンバーになることができるようなコミュニティを作ること、それと同時に建設的な形で何かに対して疑いを持つこと、そしてユーモアを使うことだと思います。表面的には攻撃的で暴力的に見えるかもしれないけれど、僕にとっては何かを正そうとするポジティブなものなのです。バカバカしく思えること、ファシズム、人種差別、理想的なことを言えば性に関する差別など、そういうことに対して問いかけていくことであり、DIY(Do it Yourself)なのです」

DSC_1994-Editのコピー
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──例えば、どのようなパンクをご自身は経験しましたか?

「僕は歌うことが好きだったのですが、幼少期に歌が下手だと言われたことがありました。それで怖くて歌えなくなったんですが、思い切って歌ったことがパンクですよね。人生の中でも一番大きな変化だったのは、自分自身についてをカミングアウトしたこと。自分がなりえる最高の自分の姿になることが大切で、奴隷のような気持ちから開放されました。カミングアウトした当時はエイズが流行っていて、エイズのアクティビストが僕にとってパンクのヒーローみたいな存在で、僕を救ってくれました。そして、何世代にも渡るゲイの男性を助けてくれたのです。政府は僕たちのまわりで人が死んでいるのにも関わらず、何もしないのです。そういう状況を無視することが犯罪的な行為である、そしてエイズが政府にとって好ましくない人たち(ゲイの人たち)にしか影響しない、ということを理由に無視していましたから。ヘドウィグもまた、パンクシーンから生まれた作品だと思っています。90年代はエイズが減ってきてはいましたが、その問題が大きく取り上げられていた時代の作品です」

──現代社会においてパンク精神が必要だと思うシーンはありますか?

「現代は、若者がデジタルカルチャーによって麻痺状態に陥っているのではないかと思います。すべてがスマートフォンで済んでしまう時代で、情報過多な状態です。すべてが作られている、何か新しいものを自分で作ろうと思わない、モノづくりを始めてもすぐにやめてしまう……まるで猫みたいじゃないですか? しかも、デジタルカルチャーが普及してきたことで、若者はみんな、自分自身を商品として売り出しすようになりましたよね。若い時というのはいろんなことに挑戦する、自分なりに世界を知る、そういう時期だと思います。なのに、ブランディング、自分を広告として売る、偽物のような有名人のステータスを得るなど、そういうことに夢中になっています。お金も大切ですし、生計を立てるのも大事ですが、もう少し大人になってから考えてもいいんじゃないかと思う時があります。僕にとって若者は、疲れきった年配者にも見えます(笑)。何も覚えてないし、集中力もない。こういう時代になってしまったのは、親の世代が問題なことももちろん原因としてありますが、昔は若者が世をよりよくしようと頑張っていました。僕の若い時に比べて、エネルギーのある子たちが少なくなってきていると思います。現代は、過去に戻るような反動的な政治の動きが見られますが、そういったことに対して若者がパンクになる必要がある、僕はそう思います」

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時代は移り変わり、戻ることはできない。
私たちは一つのジェンダーだと思う

──ジェンダーやセクシュアリティに関する考え方が、現代では変わってきていると思います。監督もそれらをテーマにした作品を作り続けていますが、クリエイションや考え方に変化はありますか?

「僕自身は、クリエイションを特に変えていませんね。そもそも、ヘドウィグはセクシュアリティに関する物語だとは思っていないです。ジェンダーには言及しているとは思いますが、ジェンダーとセクシュアリティは交錯はするけれども違うものです。現代では、人々は多くの文化的な背景などがある中で、男性的なものと女性的ものをミックスしているのが理想的な状況なんだと、おそらくみんなが思い始めていると思うし、理解し始めていると思います。若い時は、自分はなんなのか、ゲイなのか、トランスジェンダーなのか、男なのか、白人なのか、黒人なのか、日本人なのか、アジア人なのか……そのラベルを必要としていて、カテゴライズされることを求めています。でも、大人になると、その状況から解放されます。私はゲイの男性だから、女性に魅力を感じてはいけないんだ、でもそれっておかしいと思います。魅力を感じてもいいですよね。歳をとって病気になったら、そんなこと考えなくなるでしょう、恋をして生きているだけで幸せなんだから(笑)!」

──小さい頃からジェンダーやセクシュアリティについて考えることがあったのでしょうか?

「父親が軍人で、僕はアーミーカルチャーの中で育ったので、ちょっと独特な雰囲気を理解していました。社会的に見ると保守的な人々なんだけれど、多様性があるんです。黒人、ラテン、日本人、韓国人、ヨーロッパ系、フィリピン系など、たくさんいました。お互い、国籍が違う人たちが結婚するのは普通なことだったし、ゲイである人が入隊しでも、全然問題はなかったですね」

──アメリカの現代社会において、ジェンダーやセクシュアリティはどのように扱われていますか?

「トランプ大統領は、セクシュアリティについて気にかけない人であるし、アンチゲイでもありません。ただ、彼はビジネスマンなので、自分にとって有利なのであればトランスジェンダーを軍から追放します。つまり、ラベルやカテゴリに縛られずに解放的になっているはずが、それを抑圧するようになっているので、アメリカ人は今、すごく抑圧された存在になっていると思います。ただそれに対して、自分が被害者なんだと感じること自体が危険です。自分が抑圧されている状況からどうやって勇気を持って行動したり、力を持ったりできるのか。それは、最初に話した、現代におけるパンク精神についてにもつながっているとも思います」

シャツ、ネクタイ、パンツ/すべてVivienne Westwood MAN  シューズ/Vivienne Westwood Accessories(すべてヴィヴィアン・ウエストウッド インフォメーション  03-5791-0058)

映画『パーティで女の子に話しかけるには』の情報はこちら

Photos:Shoichi Kajino
Interview&Text:Kurumi Fukutsu

Profile

ジョン・キャメロン・ミッチェル(John Cameron Mitchel) 1963年、アメリカ・テキサス州生まれ。舞台『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』が、1997年にオフ・ブロードウェイで初上演。2001年、同舞台を自ら映画化。2017年10月、オリジナル版で日本初上演を果たす。その他、『ショートバス』(2006)、『ラビッド・ホール』(2010)などの作品も手がける。

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