轟音でサマソニを沸かせた新世代アイコン、Wisp(ウィスプ)に聞くファッションと音楽のこと by Natsuki Kato
インディーロックバンド、ルビー・スパークス(Luby Sparks)のブレーンとしてはもちろん、音楽への愛と知識にあふれた“音楽オタク”としても知られるNatsuki Katoが、気になるアーティストに独自の視点で取材し、自らの言葉で綴る不定期連載。第7回はウィスプ(Wisp)が登場。

2023年、突如としてインターネットから現れた若き孤高のシューゲイズ・アーティスト、ウィスプ=ナタリー・ルー。灼熱のサマーソニックではその耽美な轟音で会場に清涼感をもたらした。大きなステージから降りた彼女は大好きなヒステリックグラマーで買い物する22歳。アーティストと一人の女性、その2つの顔について聞いた。
──今日は大好きだというヒステリックグラマーでのインタビューとショッピングだけど、今履いてるそのデニム(写真1、3枚目)もヒスだよね?他にもヒスの服は持っているの?
「そうなの、これはテキサスのセカンドストリートで120ドルくらいで買ったんだ。他にはパーカー、クロップドジャケット、ダメージジーンズ、ビンテージのヒスはいくつか持ってて、ツアー中にもよく着てるよ」
──今日のショッピングではどんな服が気に入った?
「一番最初に手に取ったのはグリーンのメッシュキャップ、それからニット地のキャミソール、カットソー、ローライズデニム、友達のお土産用のマグカップとか、たくさん買ったよ。本当はお店の商品全部欲しいくらいだよ(笑)」
──ヒステリックグラマーなど日本のファッションからの影響は強く感じるけど、日本の映画など他のカルチャーで興味のあるものや影響を受けた作品はある?個人的にはウィスプのアートワークや写真の世界からは岩井俊二監督の『リリイ・シュシュのすべて』なども思い起こさせられたよ。
「『リリイ・シュシュのすべて』のサウンドトラックはよく聴いてるよ。映画はすごく昔に観たからあまり覚えてないんだけど、ウィスプを始めた初期の頃に似たようなヴィジュアルを集めて非公式のビデオも作ったりしていたんだ。映画のワンシーンの寄せ集めだから公には出せないけどね(笑)。映画『パーフェクトブルー』も美しくて大好きだよ。あと日本の音楽もよく聴くんだ。26年1月の単独公演でのオープニングアクトを選ぶのは本当に難しかった。出演してくれた東京酒吐座(Tokyo Shoegazer)ももちろん好きなバンドだし、Spotifyで日本のシューゲイザー・バンドだけを集めたプレイリストを作るほどたくさん聴いてるよ。音楽プラットフォームのNina ProtocolやBandcampを使っていつも新しいアーティストを掘ってるよ」
──サマーソニックは、日本で初のフェス出演だったけど、どうだった?
「サマーソニックでの演奏はとても楽しかったよ。東京と大阪では少し雰囲気の違ったショーになったと思う。東京は屋内のステージで真っ暗だったからまるで自分たちのヘッドラインショーのようだった。それでもオーディエンスの顔はよく見えたから、親密な雰囲気を感じることができて良かったよ。フェスでは音量制限があるから十分にラウドな演奏ができてたら良いな。大阪はとにかく暑くて汗だくになったけど、それすらもすごく楽しめたよ」

──僕は東京のサマソニ公演を見させてもらったけど、他の誰よりもラウドで素晴らしい演奏だったよ。今年頭の初来日公演も即完で、アジアの中でも特に日本ではウィスプのファンがどんどん増えてるように感じているよ。ナタリーのファッションには日本のカルチャーからの影響も感じるけど、どうやって今のスタイルに辿り着いたの?
「中学生の頃から古着探しにすごくハマって、GoodwillやThe Salvation Armyみたいなスリフトショップによく通ってたんだ。そこから自分が本当に気に入る、可愛かったり面白かったりするアイテムを掘り出して、いろんな自分の中の“ブーム”を経て、ようやく自分の本当のスタイルがわかってきた。ただただ、洋服が大好きなんだよね。好きな服を着ると自分自身に自信が持てるし、いろんな柄や色を試してみるのも好き。それから着心地が良いものも好きだよ、ファッショナブルでいたいけど、素材や要素に圧倒されたり刺激が強すぎたりするのは避けたい。私のスタイルはすごくカジュアルだけど、同時に個性もたっぷりある感じだと思う。そしてこれって誰にでも簡単に実現できるものだと思うの、誰もが快適さとオシャレさを両立させたいと思ってるはずだからね」
──ステージ上でのウィスプの姿と、今のナタリーのカジュアルな服装ではまた違った雰囲気だけど、やっぱりステージで着る衣装と普段のスタイルは分けているの?
「ステージ上では今みたいなズボンやジーンズはカジュアルすぎる感じがして絶対着ないようにしてる。ジーンズってすごくロックスターっぽい見た目ではあるんだけど、これだと自分はロックスターだってあまり感じられないんだよね。ステージに立つときはフェミニンでちょっとダークな感じを演出したいから、黒をたくさん着るのが好きだし、ドレスやスカート、アクセサリーもよく身に着けるよ。普段はハイキングや散歩とかするのも大好きだから通気性が良くて、動きやすい服を着て外に出てるよ。時々、というか本当はほとんどの日はレギンスとかTシャツを着てるだけの全然おしゃれじゃない格好だよ(笑)すごく面倒くさがりだから(笑)」

──実際、みんな日常生活ではそんな感じだよね(笑)。じゃあ演奏するときは自分のモードを切り替えてるんだね?
「そう、ウィスプは一つのキャラクターみたいなものだから、人前でパフォーマンスするときはそれを演じたり、ある意味で架空の自分、ペルソナを装わなきゃいけないの。でもそんなウィスプのための衣装を厳選して、日常生活での自分とは違ったスタイルにするのはいつも本当に楽しいよ」
──サマソニ東京公演の衣装はどんなテーマだった?
「今回の日本への荷造りをしていたとき、何を持って行けばいいかわからなくて、あれこれごちゃまぜでなんとなくスーツケースに物を放り込んだ感じだった。そしたら当日の朝になって何を着ればいいかわからなくなって……。扇風機の風が当たったらいい感じになりそうと思ってロングスカートを選んで、トップスはパロマ・ウールのものを合わせようとしたら暑くなると肌に張り付くような生地だったから、結局黒いタンクトップにしたんだ。最終的に可愛くなったと思うよ」
──今回のライブでは背景に投影していたVJにもウィスプの世界観を感じられたけど、ウィスプにはシューゲイズだけでなく映像に使われていたようなゴスだったり、ドリームポップ、オープニングアクトも務めたデフトーンズのようなニューメタル的な要素まで持ち合わせているよね。それぞれの音楽性を上手く昇華していて、そこが90年代のそれとは違って新しいと思っているんだけど、これらは意図的に組み合わせたの?それともそれぞれのエッセンスが好きで自然と産まれたの?
「多分自分の好きなテイストが自然とウィスプのサウンドにつながっていったかな。90年代のシューゲイザーもたくさん聴いてきたけど、同時に最近の新しいバンドもよく聴くんだ。この2つの時代両方から影響を受けたものが、私が今まさに作っている音楽だと思う。何十年前のバンドから、ほんの数年前に結成されたばかりのバンドまで幅広い年代の音楽が好きで、その瞬間に聴いている音楽が何であれ、いつもインスピレーションを得て創作意欲を掻き立てられているよ」
──ルビー・スパークスもシューゲイザーやドリームポップを軸としているんだけど、ここ日本でも世界的にも若い子たちへのシューゲイザーリバイバルが起きているように感じていて、ウィスプはそこに大きく貢献していると思う。自分自身でリバイバルを牽引している感覚はある?
「よく雑誌や記事が『ウィスプはシューゲイザーのプリンセスだ』とか、『ウィスプがこの新しいシューゲイザー時代を牽引している』って書いてくれて、とても光栄なことだしすごく大きな褒め言葉なんだけど、それ故に自分のなかではなかなか受け止めきれないんだよね。自分自身に対して、少しは自分を認めて『よし、たぶん何か成し遂げたんだ』って思う義務があるような気もするし、シューゲイザーにちょっとした後押しをしたおかげで、今、より多くの人がこのジャンルを聴いてくれているのかもしれない、私の音楽を通してより深堀りした人もいるかもしれない。でも、ウィスプが登場してもしなくてもきっと人々はシューゲイザーという音楽をより探求していたはずだと思うし、こういうジャンルやそれに近い音楽を作っているこの現場って、まるで親しい友達と好きな音楽をただ共有しているような小さい規模感で、必ずしも大きなスケールで起きていることって感じはしないんだ。
自分より前にもたくさんのバンドがいたし、いまシューゲイザーをやっているバンドも多くいるし、当然すべて自分の功績とは言えないよ。シューゲイザーがこれほど人気なのは単にそのサウンドが素晴らしいからだし、人々が何か新しいものを求めているからだと思う。そしてここ数年で、みんな自然とウィスプを見つけてくれたり、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのような古いバンドをたまたま見つけたりしているんだよ」

──これまで僕がインタビューもしてきたビーバドゥービー、プリティー・シック、ウィンターなど、共通のミュージシャンの友達も多くいることに気がついたんだけど、彼女らのような現行オルタナティブ・ロックの近しいシーンからは、普段から影響を与え合ったりしてる?
「100%影響を受けているよ。実はビーバドゥービーはそもそも私が曲作りを始めるきっかけとなったアーティストの一人なんだ。16歳くらいの頃、コロナ禍でロックダウン中にギターを再び弾くようになって、彼女のアルバムを繰り返し聴いてどうしてもベッドルーム・ポップが作りたいって思ったんだ。今度ビーバドゥービーとはツアーに行くことになったし、だんだん緊張せず話せるようになったけど、初めて会ったときは心の中ではファンとして大興奮してたけど彼女を怖がらせたくなくて必死に抑えてたよ(笑)。ウィスプのリリースの数年前にはプリティー・シックもよく聴いていて彼女みたいな音楽も作りたかった。だから今はそういう人たち全員を知っていて、しかも手の届く距離にいるっていうのはすごくクールだと思うし、本当に『巡り巡って辿り着いた』という瞬間なんだよね。だって私がずっと憧れてきた女性たちだし、彼女たちのアーティストとしての活動は本当に素晴らしいものだから、私も同じ道を歩みたいと思ってるよ」
──ウィスプがお気に入りのドリームポップアルバムをランク付けしていくショート動画を見たんだけど、コクトー・ツインズの『Heaven or Las Vegas』が一番最後に残ったけど、ドリームポップだとあのアルバムがNo.1? 僕にとってもあのアルバムは人生のNo.1なんだ。
「そうだね、あのアルバムより良いものなんて他に思いつかないよ。『Heaven or Las Vegas』は私の人生にとってもいろんな時期を共に歩んできたような気がするんだ。本当にパーソナルなつながりすら感じているし、あのアルバムが与えてくれる感覚は、他の何からも得られないね」
──次作は今までよりハッピーで明るい内容になる、という記事も読んだけど、そのサウンドに合わせてウィスプのファッションや美学は次はどんなモードに変化していくの?
「最近はより色鮮やかな服をよく着るようになったんだけど、多分自然とそうなっていっているんだと思う。以前は本当に黒い服ばかり着てたんだけど、毎日黒ばかり着てるのにちょっと飽きてきたんだよね、それも相まってステージでの黒の割合が減ったのかも。最近作っている曲はどれもすごく明るくて、希望が感じられるようなものになっているんだ。そして今は緑やピンク、黄色、それから白も着てみたいって思う。
次のアルバムについては、テーマを全部ネタバレしたくはないんだけど、結婚式みたいなテーマを軸に展開していく感じだよ。白を基調にして、ウェディングドレスやロングドレスもたくさん出てくる。ウェディングドレスを着てすでにいくつかのシーンを撮影したんだけど、すごく綺麗になると思うよ。これはまだどこのメディアでも話してないから最速のネタバレだよ(笑)」
──新しいヴィジュアルもサウンドもとても楽しみだよ。最新情報までありがとう!
「ありがとう、私も今から楽しみだよ」
Wisp『If Not Winter』
レーベル/Interscope Records
リリース日/2025年8月1日
各種配信はこちらから
Luby Sparks『See you』
レーベル/AWDR/LR2
リリース日/2026年9月11日
各種配信はこちらから
ヒステリックグラマー 渋谷店
住所/東京都渋谷区神宮前6-23-2 B1F(Women)、2F(Men)
営業時間/11:00〜20:00
TEL/03-3409-7227
Photos:Madeleine Ray Interview & Text & Edit:Natsuki Kato Cooperation:Hysteric Glamour
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