アンブッシュ® YOONインタビュー「ファッションにこだわらずさまざまな分野を勉強して常に新しいことにトライしたい」
東京をベースとしながら、グローバルに活躍しているアンブッシュ®のデザイナー、YOON。次々と新しいプロジェクトを手がけて世の中を驚かせている彼女は、今一体どんなことを考えているのか。話を聞いた。
(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年11月号掲載)
二面性がある自分
──今回のポートレートの撮影はYOONさんがディレクションされました。デザイナーのインタビューの際はアトリエでの仕事をする自然な姿を掲載することが多いので、かなりインパクトのある写真になっていて驚きました!
「ポートレートだって表現のうちです。ラテックスを着るデザイナーは珍しいかもしれませんが(笑)」
──フェティッシュなオールレッドのスタイルが印象的ですが、普段もラテックスを愛用されているとか!?
「ラテックスはさすがに着ないですが、こんなふうにヘアをツインテールにすることはあります。毎日ちゃんとメイクもしていますし。かわいいヘアメイクを見つけると自分も試してみたくなるんですよね。周りはどう思っているのかわからないですけど(笑)」
──ポートレートはどのようなことをイメージされたのでしょうか。
「表向きの自分と、学生時代のように日々勉強をしながらデザインをしている自分、両方を見せたいと思いました。前者は、最近フェミニニティを楽しんでいることもあり、ボディコンシャスな真っ赤のラテックス製の服に。後者を表現するアンブッシュ®2023-24年秋冬のルックの色味とバランスをとったところもありますが、仕事をしているときは男性目線で動いているような気もして、それにも対比させました」
──2023-24年秋冬は学校の制服っぽい印象でした。
「23年春夏はハウスやレイブといったかつてのクラブシーンをテーマにしたのですが、今季はそこで遊びすぎて厳しい私立の学校に入れられてしまった子をイメージしました(笑)。結局どんなことにもパターンがあるし、皆何かしらの役割を演じていて、独自の感覚で本当に自由な格好をしている人は少ない。それでユニフォームというコンセプトが面白いな、と思ったんです。深作欣二監督の映画『バトル・ロワイアル』(2000)も連想しました。中学生が殺し合いを強いられるというショッキングな内容ですが、厳しい現実社会をサバイバルする姿を描いた作品でもある。ぜひ自分なりに着崩してもらえたら」
──そのストーリーはまだ続いていくのでしょうか。
「24年春夏は学校のグラウンドで遊ぶ、ということをイメージして、スポーティな要素を入れています。もっと明るい感じですね。いつか卒業しないといけませんが(笑)、今後数シーズン続くかもしれません」
──22-23年秋冬はミラノファッションウィークに参加されましたが、それ以来ショーは開催せず、ルックブックで発表されていますよね。
「ショーにすごくお金がかかったので無駄だな、と思っちゃったんです。同じ予算をかけるなら、ショーのイメージを半年間引っ張るよりは、いろいろなコンテンツを作ってSNSなどでその都度発表していく方が楽しいし、お客さんも喜んでくれる。それがアンブッシュ®らしいスタイルだと考えたんです。業界の慣習は関係ありません」
コミュニティ作りを目指して
──一方の「表向きの自分」に関わるのかもしれませんが、個人のSNSで積極的に発信されています。
「一般的に、デザイナーはずっとアトリエにこもっているものと考えられているのかもしれません。でも、かつてのように『コレクションを発表したらメディアで紹介してもらってPRする』という決まったルートしかない時代ではなく、今はSNSを通してお客さんとダイレクトにつながることができます。モノを作ったら、見せ方を工夫しながら自分たちで発信すればいいんです。そのためには、デザイナーも人前に出て、自分でマーケティングや宣伝をする必要があります」
──フォロワーからはどんな反応があるのでしょうか。
「インスタではダイレクトメッセージで冗談を言い合ったりしています。フォロワーとのやりとりが楽しいし、皆の考え方や関心事を直に知ることもできる。コミュニティ作りにも役立っているんです。たとえばストーリーズで『夏に聴きたい曲を送って』と呼びかけたり。結果300曲近く集まって、Spotifyでプレイリストにしたら16時間くらいになってしまいましたが(笑)。デザイナーが神様みたいな存在、という考え方はもう古いと思う。私はお客さんとコミュニティを作っていくような感覚で動いているんですよね」
──約71万人もいるフォロワー(2023年9月現在)との直接のやりとりは大変そうですが、楽しんでいらっしゃるんですね! 昨年から、データをユーザー自身が管理・運営できるWeb3に参入されるなど、デジタル化にも積極的です。
「コロナ禍で外出するのが難しくなり、クリプト(インターネット上で取引されるデジタル通貨、暗号資産)が盛り上がりましたが、私たちはそれ以前から注目していました。いくつかの大手ブランドは例えば『ディセントラランド』とか「サンドボックス」といったプラットフォームで活動し始めましたが、私たちはコンテンツを100%コントロールできるようにしたい。独自のメタバースでファッションショーやアフターパーティを中継したり、ゲームをしたりしてコミュニティの人たちと遊んでいます。テック系の方など、ファッションだけに関心を持っているのではない新しいファンも増えました」
WEB 3.0とともにメタバースの世界を通じて、次のステージに向けた取り組みをいち早くスタート。
──同時に実店舗のオープンも続いています。
「2022年2月に上海、11月に香港、今年2月GINZA SIXにショップをオープンしました。お客さまにはウェブを使いこなしている人もいれば実店舗で買いたい人もいる。例えば海外の方向けにメールでオーダーを受けることを検討するなど、変化するお客さまの買い物のスタイルを把握していろんな要望に対応できるようにしたいと思っています」
──アジアを主なターゲットにされているのでしょうか。
「東京でスタートして育ってきたブランドだし、安定しているのでベースを変えるつもりはありません。まずは近いエリアで形にしていく方がいいかなと。無理やり欧米にお店を出す必要はありませんしね。日本人は欧米に対して劣等感を持っていて、その価値観に従おうとする傾向にあるように感じますが、『どうでもいいじゃん』と思ってしまいます。真似なんかせずに、自分らしく発信すればいいんです」
ファッションだけに留まらない
──デザイナーの個人的な関心を優先させて物事を進めるのではなく、顧客を大事にされている姿勢が伝わります。コラボレーションなど、他企業とのプロジェクトも数多く手がけられていて、お忙しいとは思うのですが。
「2023-24年秋冬までディオール のメンズのジュエリーを手がけ、ラグジュアリーブランドのしくみや経営方針などを身をもって学ぶことができましたが、短い人生のうちにいろんなことを試してみたいと思い、今はナイキでグローバル ウィメンズ キュレーターを務めています。24年末くらいからのテーマやイメージ、商品展開を見ているんです。ナイキではさまざまなカルチャーについて勉強ができるのでは、と期待しています」
──コラボレーションを行うときにこだわっていることはありますか。
「最近はブランドというよりはクリエイティブディレクターと組みたい、という案件が多いので、個人的に楽しそうだったらお引き受けしています。まったく違う業界からのオファーでも、少しでも自分とリンクするような部分があればイエスです。あとは、業界で一、二位を争うレベルであることも条件。ナイキはもちろんそうですし、以前シリアルの『リージーズ・パフズ』とコラボしたのも、販売している会社ゼネラル・ミルズがアメリカでは代表的な企業だから。そうしたトップランナーと仕事をして、勉強をしたいんです。ファッション業界はパリコレやミラノコレを重要視している人が多いですが、例えば映画にもファッションは出てくるし、視野を広げるといろんなやり方があることが見えてくるのでは」
(上)ルイ・ヴィトンやサカイなど国内外のさまざまなブランドとのコラボレーションでも注目されている。2023年ナイキとのコラボコレクションでは、サッカースタイルの美学を普段着に取り入れた。(下段左)23年グローバルなデジタルアートギャラリーBright MomentsとコラボレーションしたTシャツとNFTを発売。TシャツにはNFCチップが組み込まれ、NFTとの紐付けが可能。(下段右)2度目のタッグとなる「Levi’s®×AMBUSH®︎」の23年春夏コレクション。
──YOONさんがオフィスを不在にすることも多いのではないかと思いますが、アンブッシュ®はどのように運営されているのでしょうか。
「販売員を除くとスタッフは16人くらいしかいないのですが、得意分野を活かしていろんなことに取り組んでもらい自分から積極的に動いてもらうようにしています。上から落ちてきた指示に社員が従うだけ、という体制は古いと思うんですよね。毎朝全スタッフに予定を送ってもらって、進行を確認するようにしています。こうしたシステムを作っておくと、私がどこにいても仕事が滞ることがありません」
──気分転換したり、休息したりする時間はあるのでしょうか。
「以前は終わらせるまでずっと会社に残ったりしたのですが、今はもう少しコントロールできるようになって、アイデアが出なかったら明日に回すとか、切り替えるようにしています。それですごくスムーズに進んでいますし、体力的にも楽になった気がします。ただ、運動する時間はないので、なるべく食事に気をつかってはいますね」
──ファッションの枠にはとどまらないご活躍で、行動力に驚かされます。
「ファッションは一つのプラットフォームにすぎないと考えています。ずっと同じ場所で同じものを見ていると、頭が固まってしまう。違うジャンルからアイデアを引っ張ってきた方が楽しいんじゃないかと思うんです。アンブッシュ®の世界観にリンクするんだったらコラボレーションなどを積極的に行ってどんどん世界を広げていきたい」
──そんなYOONさんが今関心を持っているジャンルは何でしょうか。
「アフリカがルーツの音楽、アフロビートです。レゲエにちょっと似ているのですが、リズム感があって踊れるし、明るい。K-POPが欧米で人気が出て世界的に注目を浴びているのと同じようなプロセスを経ているのも興味深いんですよね。日本で浸透するのはあと1年くらいかかるかもしれませんが、NYで『何が流行っているの?』と聞くと皆アフロビートと答えるくらい今アメリカで大人気です。ナイジェリア出身のバーナ・ボーイというアーティストは2020年にビーツとコラボしたイヤホンのキャンペーンに出てもらったこともあります。実はアメリカにライブを見に行こうと思っているんです」
──今日の撮影中もBGMにこだわられていたので、YOONさんの中で音楽が重要な位置を占めているんだろうな、と思いました。
「事務所でもいつも音楽を流しています。スタッフと一緒にプレイリストを作ったりすることも。音楽はボーダーレスに楽しめるので大事だと思います。音楽シーンからカルチャーが生まれることも多いですしね」
自分でストップはかけない
──最後に、今後のプランについて教えてください。
「今社会は1年先もどうなるかわからないようなペースで進んでいますから、今後はまったく予想がつかないです!直近のプランは立てますが、一番大事なのはフレキシブルに考えるということだと思います。そしてもっといろんな業界の人たちと仕事をして、学びたいですね。ルーティンワークよりは、新しいことを試してみたい」
──今歳を重ねていくことについてはいかがでしょうか。
「『女性は歳をとると〇〇しない方がいい』といった発想はアジア人特有ではないでしょうか。年齢のせいで自分にストップをかける必要はありません。そんなこと誰が決めるの、と思ってしまいます。自分の関心事だけに集中すれば考え方も若くいられます。それに、これまでいろんな人たちと会ってきましたが、年上でも頼りない人も多いし、若くても尊敬できる人はいる。年齢は関係ないです」
Photos:Hiroshi Manaka Hair&Makeup:Rie Shiraishi Interview&Text:Itoi Kuriyama Edit:Michie Mito
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