Awichインタビュー「変化は自分の中からしか生まれない」 | Numero TOKYO
Interview / Post

Awichインタビュー「変化は自分の中からしか生まれない」

ジャケット¥441,100 ドレス¥786,500 ピアス¥70,400/すべてLouis Vuitton(ルイ・ヴィトン クライアントサービス 0120-00-1854)
ジャケット¥441,100 ドレス¥786,500 ピアス¥70,400/すべてLouis Vuitton(ルイ・ヴィトン クライアントサービス 0120-00-1854)

伝統と革新を紡ぐメゾンのシグネチャーを再解釈し、シックでモダンに昇華したルイ・ヴィトン2023 ウィメンズ・プレフォール コレクションをラッパーのAwichが纏う。強さと優しさが共存する女性像を表現した小誌での撮影のこと、そして近況を尋ねた。シーンのトップに立つ彼女を突き動かすものとは。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年9月号掲載)

ルイ・ヴィトンは「革新」していく勇気をくれた

ドレス¥786,500(参考価格) バッグ「ドーフィーヌ MINI」(W20×H15×D9cm)¥498,300 ピアス¥90,200 リング¥56,100 ブーツ¥251,900/すべてLouis Vuitton(ルイ・ヴィトン クライアントサービス)
ドレス¥786,500(参考価格) バッグ「ドーフィーヌ MINI」(W20×H15×D9cm)¥498,300 ピアス¥90,200 リング¥56,100 ブーツ¥251,900/すべてLouis Vuitton(ルイ・ヴィトン クライアントサービス)

──今回の撮影はいかがでしたか?

「まずロケ場所がとても素敵で、撮影中もずっとここに住んでいたいと言っていたくらい。そんな場所でルイ・ヴィトンのドレスやバッグを身に着けて撮影できることがとても幸せでしたし、世界観にのめり込むことができました」

──撮影で気になったアイテムは?

「全て素敵だったんですが、特にヴィンテージ風のモノグラム・パターンのドレスが印象的でした。普段はボディコンシャスな服が好きで、それが自分らしいと思っていたけれど、ファッションのお仕事でいろいろなスタイルに挑戦すると、こういう自分もいいなと心がオープンになっていく感覚があります」

──今回のアイテムは、4月にあったソウルの潜水橋(チャムスギョ)でのショーでもご覧になったんですよね。

「感動的なショーでした。橋を会場にしていて、ランウェイはそのままストリートだったんです。私はヒップホップ、ラップというストリートで生まれたカルチャーをずっと愛しているので、そこにシンパシーを感じました。それから、ショーの音楽に韓国やアジアの音がアクセントに入っていたんですが、ずっとローカルやアジアのカルチャーとヒップホップのミクスチャーがいいと思って活動してきたので、改めてその良さを再確認することもできました」

今年4月ソウルの潜水橋にて発表された、ルイ・ヴィトン 2023ウィメンズ・プレフォール ファッションショーの会場で。©️Louis Vuitton
今年4月ソウルの潜水橋にて発表された、ルイ・ヴィトン 2023ウィメンズ・プレフォール ファッションショーの会場で。©️Louis Vuitton

──韓国といえば、今年、SE SO NEONと一緒にソウルと東京の2都市でライブを行いましたが、韓国ならではの雰囲気を感じましたか。

「韓国のオーディエンスは、この瞬間を一緒に過ごしているんだと伝えるのが上手なんです。正直に衝動や感情をぶつけてくれるので、お互いのエネルギーの相乗効果が生まれて、ライブもすごく盛り上がりました。日本のオーディエンスはメッセージを受け止めて、心の中で噛み締めてくれるんですね。でも、どちらのスタイルも、私にとってはとてもうれしいことです。ルイ・ヴィトンのショーでは、ソウルに世界中からたくさんの人が集まっていて、とてもきらびやかだったし、韓国が今、ファッション界からどのくらい注目されているのかを実感しました」

──ルイ・ヴィトンは革新とスタイルコードを独自のデザインに落とし込み、常に新しいストーリーを大胆に表現しています。ルイ・ヴィトンのコンセプトに共感するところは?

「私も『革新』を意識しています。私の心の中にはいつも自分のルーツがあり、それを伝統として時を止めるのではなく、今の時代にも生きている文化だという見せ方をしたいと考えています。どんな人もそうですが、確立されたポジションから一歩踏み出すのは、とても怖いし勇気が要ることです。失敗するかもしれないし、恥をかくかもしれない。でも、ステップを進めないと新しいものは生まれません。ルイ・ヴィトンは失敗を恐れず、常に進化を続け、『革新』を成し遂げていることに尊敬を覚えますし、私のインスピレーションにもなっています」

アジアが連帯することで世界のシーンを変えていく

──ルーツといえば、同じ沖縄のクルー、SugLawd Familiar、CHICO CARLITOとの『LONGINESS REMIX』が大ヒットしています。

「昔から日記を書いているんですが、最近読み返す機会があったんですね。そこにも『文化はホルマリン漬けにして美術館に飾るものではなく、今も生きているものなんだから生かしてくれ』と書いてあって、私はずっと昔から同じことを考えているんだとあらためて思いました。私が生まれた土地のカルチャーとともに生きたいし、生きる過程で新しく出会ったものを取り入れることで成長していくと信じているし、私はそれを体現していきたいと思っています」

──MVでは琉球舞踊を披露していましたが、習っていたんですか。

「『かぎやで風』という歌の踊りで、結婚式などのお祝いの席で必ず最初に踊る余興です。沖縄の人は何回も見たことがあるし、家族に誰か一人は踊れる人がいるんですね。正式に習ってはいないけれど、小さい頃によく真似をしていたから、少し練習したら踊ることができました。私が習っていたのは沖縄空手です」

──ルイ・ヴィトンの2023年プレフォールのテーマは『行ったり来たりの物語』です。今年はRolling LoudやOG BOBBYとのライブ、JP THE WAVYとのアジアツアーなど海外を『行ったり来たり』ですが、この経験から得たものは?

「今年はアメリカも含めてかなり『行ったり来たり』してますね。他にもカンボジアのラッパー、VannDaが来日するタイミングで一緒に曲を作る予定もあります。アジアについては、ラッパーのシーンが繋がるべきだと思っているんです。『これがアジアのシーン』というひとつのイメージが出来上がれば、世界のシーンに対してレペゼンしやすくなるし、もっと動きやすくなると思うんです。そのヴィジョンのために日本でいろいろ調べていても、オフラインで現地に足を運ぶことでわかることがたくさんあって。それから、日本では私のことを知ってくれる人が増えて、ライブでもみんなが一緒に歌ってくれたりするけれど、その状況に自分が甘んじてはいけない。外の世界に出れば自分自身を見つめ直すことができるし、世界のどこに自分がいるのか再確認できるんです。海外での活動は、精神的な部分の挑戦でもあります」

──SNSで上海でのライブが盛り上がっていたのを見かけました。

「熱狂的に迎えてくれました。上海ではミート&グリートにもたくさんの方が来てくれて、感激して泣いちゃった人や、『You change my life!』と言ってくれた人、長文の手紙を頑張って日本語で書いてくれた人もいて。『Revenge』という曲が好きという方がたくさんいたので、急きょセットリストに入れたんですね。そうしたら日本語で一緒に歌ってくれてすごく驚いたし、ただありがたいという気持ちになりました。絶対にまた上海でライブしたいと思います」


全国5カ所を巡った初のZEPP TOUR『THE ROAD TO ARENA Japan Tour』の最終公演、 Zepp DiverCityより。
全国5カ所を巡った初のZEPP TOUR『THE ROAD TO ARENA Japan Tour』の最終公演、 Zepp DiverCityより。

どう見られているかではなく自分の心の声に耳を傾けること

──女性をエンパワメントする意見を求められる機会が増えましたが、女性のロールモデルとして見られることに対しては?

「小さな頃、自分は変わった存在だと思っていたんです。どうして私は他の人と違うんだろうと悩んでいたんです。私のライブで『Open It Up』チャレンジというコーナーがあって、難しいラップの曲に11歳や14歳ぐらいの子も挑戦してくれるんですが、みんな最後に自分の意見を言い残して帰っていくんですね。私のファンは『Awich Children=ウィッチェル』と言うんですが、ある子は『ウィッチェルのみんな、Awichのファンであることは、誰かを崇拝したり、誰かの後を付いていくことじゃない。自分で自分の好きなことを見つけてそれに向かって進むのがウィッチェルだよ』と言う子がいて。ヤバい。私も子どもの頃そういうこと言ってた!っていう。そんな子たちを見て、昔の私に対して『おまえ一人じゃなかったぜ』と言いたいし、私と同じことを考えている人がいたことがうれしくて。

女性の地位に対して意見を言うこともありますが、やっぱり、変化は自分の中からしか生まれないと思うんです。だから、それをやり続けているビヨンセやエリカ・バドゥはクイーン中のクイーン。そういう人たちを尊敬するし、私もそんな人生を送ってみんなをインスパイアしたいと思っています」

5月に幕張メッセで開催されたヒップホップフェスティバル「POP YOURS 2023」に参加。Cooperation:Pop Yours  Photo:cherrychillwill
5月に幕張メッセで開催されたヒップホップフェスティバル「POP YOURS 2023」に参加。Cooperation:Pop Yours Photo:cherrychillwill

──07年にアルバムをリリースし、それから『8』で復帰するまで11年の空白がありました。20代が活躍するヒップホップシーンで、30代で返り咲き、トップに上り詰めたモチベーションはどこから?

「29歳でアルバムを作り始めたとき、毎日が葛藤でした。若くて可愛いことに価値があるというのが社会の暗黙の了解。もう遅いでしょ? 私、何やってんだろうと。でも、周りがどう思うかじゃない。自分は何をしたいのか心の声を聞いて、自分の言葉、音楽に集中すると、すごくワクワクしたんです。私の音楽はかっこいい、これがやりたいんだという気持ちにフォーカスすると決めたら、全てがうまくいくようになりました。日記を読み返すと、若い頃だって周囲の目を気にしていたときは何も信じられず、社会のプレッシャーに飲み込まれそうになっていました。だから、年齢は関係なかったんです。夫を亡くしたとき、全てを失ったのだから、失敗しても何も損はしない。36歳でこんなことやってるなんて逆に新しいと思えた。そんなふうに既存の枠を外す思考実験をしてみるのも大事なことでした」


5月に配信されたAwich、NENE、LANA、MaRIによる『Bad Bitch 美学』。

──『グラミー賞を獲る』と宣言していますが、その言葉の真意は?

「とてつもなく難しいことなのかもしれません。でも、本気で獲ると宣言することで、自分の中でそこまでにやるべきこと、手段がクリアになったし、共通の使命感を持つ人たちも集まってきてくれて、目標に一歩ずつ近づいているのを実感します。時々レコーディングやライブで、これは獲れるんじゃないかと予感する瞬間があるんです。受賞式でスピーチして泣いている姿まで想像できてしまう。これは行ける!と鳥肌が立つような、その波動をすごく大切にしたいし、具体的に一つずつ実現していくことで夢が現実になっていくんだと感じています。ただ、グラミーを獲ることはゴールの一つ。その先の目標は、教育施設を作ることです。自分の声を聞くこと、そこから変容を遂げるにはどうしたらいいのか具体的に教えるような学校をいつか作りたい。グラミー賞という大きな肩書を手に入れたら、さらに大きな夢が実現できるんじゃないかと思っています」

Photos:Toshio Ohno Model : Awich Styling:Masataka Hattori  Hair:Takayuki Shibata at Signo Makeup:Shino Ariizumi at Tron Nail:Nero,Asami at Nes.Nail Interview&Text:Miho Matsuda Edit:Michie Mito

Profile

Awichエーウィッチ ラッパー。Awichは本名の漢字の直訳であるAsia Wish Childを略した造語。沖縄県那覇市生まれ。最新アルバム『Queendom』(2022年)はAppleアルバム部門総合1位を獲得、最新シングル『Rasen in Okinawa』は各チャートでの一位を記録。同年初の日本武道館公演を、23年全国Zeppツアーを大成功させ、海外にも活躍の場を拡げている。11月にはアリーナ公演を予定している。
Instagram: @awich098
Twitter: @Awich098

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