エリイ インタビュー「料理と子育てを通じて知った新世界」 | Numero TOKYO
Interview / Post

エリイ インタビュー「料理と子育てを通じて知った新世界」

アーティストとして現代社会を見つめ、その社会とどう関わっていくかを探究してきたエリイ(Chim↑Pom from Smappa!Group)。生き方そのものが冒険である彼女の目線は、子育てのなかでどう変わってきたのだろうか。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年6月号掲載)

──最近の大きな変化というとお子さんが生まれたことでしょうか。

「大きく変わったのは、生活時間帯です。それまでは夕方に起きて、居酒屋の肴が朝食代わりという生活だったので、付き合いの長い友達には、朝、保育園に子どもを預けて、昼間に活動をしていることに驚かれます」

──朝起きることで、新しい発見はありましたか。

「意外と何もなかったんです。公園の光はきれいですが、飲んで朝帰りするときの光もきれいでした。新しい発見といえば、料理教室に通い始めたんです。以前は三食外食で全く料理はしなかったのですが、子どもがごはんをたくさん食べるんです。おいしければ尚更。私の母は料理上手で、私はおいしいものを食べて育ちました。その体験を私も子どもと一緒にしたい。それに料理ができないことはずっとコンプレックスでもありました。手早くササッとおいしいご飯を作る人たちをずっと羨望しています。自宅に土井善晴さんがいたら価値がありますよね。料理教室では野菜の切り方や火の入れ方など基本的なことを、なぜそうする必要があるのか、いちから理屈を教えてもらっています。私にとって頭で理解することは重要なんです」

──アートと料理は共通点がありそうです。理論を理解できれば習得が早いのかも。

「これまでも友達からは味付けはおいしいと言われていたのですが、作る行程においていまいち確信が持てませんでした。料理教室ではアクアパッツァや旬の食材を使った和食、ホタルイカの炊き込みご飯などを教えていただいて。私は原稿の直しや会議も、ぼんやりと先送りにする癖があります。アート作品を作るうえでも、長い時間の中に浸った視点から考えていく。でも料理は瞬間を捉えないといけない。旬の素材が手に入っても、3日後には腐っていますよね。冷蔵庫を美術館に例えると、アートなら200年、300年はもつのに、食材はあまりにも足が早すぎる。料理をぼんやり先送りにしていると成立しません。鞘から出したグリンピースはたったの1分半塩茹でにすれば食べることができる。ブロッコリーもそのままでは食べられないけれど、180秒ほど蒸せばいい。3分後にはおいしくいただける。もちろんそれらを育ててくださる方がかけた時間が根底にあるからこそですが、その“時”を摑む行為に興奮します。下ごしらえの時間を踏まえても、中華料理店で注文してから10分で出てくる焼きそば、すごい!」

──15分前には存在しなかったのに。

「しかも、食べたらおいしいという身体体験と心の動きがある。先日、韓国から友人が来てくれたので、料理教室で習った天ぷらを揚げたんです。揚げても揚げてもすぐになくなる。一瞬です。時間に対して労力が見合わない。時間と頭と体を使うなら作品を作ったほうがいいって思う。でもその場、その時が輝くエネルギーの虜なんです。二度と戻らない時間、その時しか使えない食材。瞬間を摑んでいる。子育ても同じです。子どもは日々成長していく。まるで出しっぱなしの水道のように。子育てをしていると、自分の人生を振り返ることがあります。あの時、すごくいい時間だったなと。大したことではないけれど、あの日の体験は素晴らしかったんだと思い返しては自分にフィードバックして。公園で過ごす時間、なんでもないときはどんどん消えていくけれど、確実に光り輝き、つながっていくと感じています」

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Photo:Takao Iwasawa Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Sayaka Ito

Profile

エリイEllie アーティストコレクティブChim↑Pom from Smappa!Group(2022年4月27日にChim↑Pomより改名)のメンバー。社会問題やそのシステムに対し独自の視点から現代のリアルを提示、都市論を展開する。国際的に活動し、各国の国際展、ビエンナーレに参加。グッゲンハイム美術館、ポンピドゥセンターなど国内外の美術館に作品がコレクションされている。著書に『はい、こんにちは―Chim↑Pomエリイの生活と意見―』(新潮社)がある。9月より、新宿歌舞伎町にて展覧会を開催予定。http://chimpom.jp/

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