コムアイにインタビュー「わたしたちは謎に満ちている」 | Numero TOKYO
Interview / Post

コムアイにインタビュー「わたしたちは謎に満ちている」

今年3月に妊娠を公表したアーティストのコムアイ。体内で別の生命が成長していくことの不思議や、子どもやパートナーとの自分らしい関わり方など、新たな価値観を探求する彼女に思いを聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年6月号掲載)

トップ¥13, 200/ Paloma Wool スカート¥42,900/John  シューズ¥80,850/Paula Canovas del Vas スカーフ¥14,300/Paloma Wool チョーカー¥35,759/Hugo Kreit (すべてザ・フォーアイド)
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──妊娠して体にどんな変化がありましたか。

「胸が膨らんできたり、乳輪の色が濃くなってきたり。つわりはもう治まったのですが、私の場合、食べづわりといって、おなかがすくとムカムカするつわりでした。特に初期は体が勝手に変化して、命を育むための工事現場になっていくようでおもしろかったです。妊婦向けのレンタル・エコー『ポケマム』というのがあって、タブレットにつないで赤ちゃんの姿を観察できるんですね。心音を聴く器具も買って、赤ちゃんと自分の心音を聴き比べています。胎児の心拍はすごく速いんです。大人の平均が1分間に60〜100で、胎児は倍くらいの180まで上がったり。妊娠して心臓のおもしろさに気がつきました。妊娠の確定は胎児に心拍があるかどうか。その時点では点滅している直径数ミリの丸ですが、そこから頭と尻尾のようなものが生えて魚のようになり、尻尾は引っ込み手足が伸びて人間らしくなる。生き物は心臓から始まるんだと思いました」

──感覚の変化はありましたか。

「自分の身体を前より大事に扱うようになりました。でも、自分が意識しなくても、胎児の手の指の指紋まで、細部のデザインが勝手に出来上がっていくんですね。これまで、行動には意思が伴っていると思っていました。仕事しようとか、パフォーマンスしようとか。でも、生命は勝手に育っていく。この設計図はどこにあって、誰が指示しているのか、もしかしたら命は自然と湧いて出るものかもしれないと考えると、とても不思議です。病気や怪我をしたときも、自分が気づかないうちに治癒してくれている謎の生命力を認め、身を委ねようと思いました。今まではどこか自然と人間を別々に捉えていたところがあったんですが、人間は自然の一部なんだ、と教えられました」

自分にとって自然な決断を

──仕事をしていると、妊娠のタイミングに悩んだり、妊娠に対して臆病になることもあるかもしれませんが、コムアイさんの場合は?

「私もまったくそうです。20代の頃は、今は困る、子どもは欲しくないと思っていました。実は昔、中絶したことがあって。倫理に反することをしているんじゃないかと判断を悩みました。相談もしなかった。でもそのとき決断した自分に感謝しています。自分が納得したタイミングと状況で妊娠を継続することはとても大事でした。妊娠を継続すること、中断すること、どちらも自分で選択する自由がある。そしてそれは本当に自分の直感しかあてにならない。ちなみに、あのときは手術するしか選択肢はなかったけれど、もし経口中絶薬が認可されていれば、そちらを選択していたと思います」

──今回は妊娠の継続を選択したんですね。

「ずっと誰かを育てたいという意識はありました。それは自分で産むことだけではなく、里親になったり、養子を迎えたりすることかもしれないし、甥や姪、近所の子かもしれないけれど、長く子育てに関わることはしてみたい。でも、まだもう少し先だろうなと思っていたんですが、今の恋人と出会って考えが変わりました。人生は勢いも大事ですよね(笑)。慎重なところがあるので、足踏みするときもあるんですが、未来の自分を一度イメージできたら、そこからは早いんです。愛し合ってもし妊娠したら、産みたいと思いました。それに『子どもができても私は私なんだろうな』と諦められたことも理由の一つです。自分が完璧な大人になるのではなく、ずっと変化を続けている状態に子どもが加わるような。自分と付き合いながら、子どもに振り回されながら、なるべく楽しくやっていきたいです」

──子育てによって自分が変わってしまう恐れもあったんですね。

「私の母はとても献身的な人で、子育ての大部分を担っていました。一般的な核家族です。母の姿を見て、子育てには自分の人生を捧げるイメージがありました。母は喜んでやってくれていたのかもしれませんが私にはできないと。でも、母と私は違う人格だし、仕事や友人関係も手探りしてここまできたので、私なりの子育ても自分で模索するしかないだろうとだんだん思えてきた。自分にかけていた呪縛が解けたのかもしれません」

──婚姻届を提出せずに恋人関係のままという形を選んだ理由は?

「日本の婚姻制度に疑問があります。夫婦のどちらかが改姓するデメリットも大きいし、どちらかの家に入るというのがなんとなく嫌です。同性婚の法制化が実現していない段階で、愛の証しとして結婚を選ぶ理由も弱い。それに、婚姻制度が力を発揮するのはどちらかが別れたいとなったときですよね。離婚するのが面倒だから別れない、というより、いつでも別れられるけど一緒にいたいから努力する、というふうにしたいなと考えています。二人の人生の方向が変わるだけで、離婚だって新たな冒険のはじまりなのに。法改正して、父親の認知があれば婚外子が相続で差別されることもなくなりましたし、恋人関係のまま子どもが加わるほうが自分達らしい気がします。結局、配偶者ビザを取るために急に入籍したりしたらごめんなさい(笑)。そうそう、籍を入れないという部分をヤフーが取り上げてくれて、さぞかしコメント欄が荒れてるだろうなとのぞいてみたら、皆さんご自身の体験談を書き込んでいて、すごく興味深かったですね」

──恋人の太田光海さんは、妊娠から出産までを追ったドキュメンタリー映画を制作されるそうですね。

「ただ出産を追うだけじゃなくて、『胎児はどんな夢を見ているか』という大きなテーマになりそうです。私が妊娠している状態でいろんな場所に行き、それをおなかにいる胎児はどんなふうに知覚しているのかという」

──そして、南米で出産されるとか。

「妊娠の経過が順調だったら、そのつもりです。どうしても自分が病院で出産する姿がイメージできなくて。できれば医療行為ではなく、生活や旅の延長で産めるのが自分らしいのではという直感があって。信頼できる人たちのもとで、伝統的な方法で出産する方法を模索しています。実際何が起こるかわからないので、映画に収まるまでは具体的なことを言えないのですが。今は自分の産む力を信じて、体力づくりをしています。婚姻にしても出産にしても、調べて、直感を信じて、自分が納得いく方法を試したいと思っています」

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Photo:Takehiro Goto Styling:Maiko Shibukawa Hair & Makeup:Haruka Tazaki Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Mariko Kimbara

Profile

コムアイKom i アーティスト。1992年、神奈川県生まれ。2012年、水曜日のカンパネラのメンバーとしてデビュー。21年に脱退。以降、音楽や身体表現のパフォーマンスを行う。パートナーの太田光海による、妊娠出産をテーマにした『『LaVie Cinématique 映画的人生』を制作中。motion-gallery.net/projects/kom_i_Film

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