堀井美香インタビュー「変わる快感を覚えたら 潔く、変化できる」 | Numero TOKYO
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堀井美香インタビュー「変わる快感を覚えたら 潔く、変化できる」

2022年、27年間勤めていたTV局を退職。“フリーランス”という沖に出たアナウンサーの堀井美香。不安もあったという50歳からの独立。一人で船を漕ぎ出したその先には、どんな景色が広がっていたのだろうか。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年7・8月合併号掲載)

──50歳で勤めていた会社を退職し、フリーに。きっかけは何でしたか。
「会社はとても居心地が良く、定年までいるんだろうと思っていましたが、ふと、いったん辞めてみようかと。そこから10カ月後に退職。何年も前から準備していたわけではなかったんです」

── 不安はありませんでしたか。

「退社間際は不安でした。今までやっていた会社の仕事を独立後も引き継ぐことは難しいので、一つずつ自分の手から離れていくときは特に。以前、独立した先輩から『手放したら新しいものが入ってくるよ』と言われて、『先輩は順調だからそう言うんだろうな』と思っていたのですが、いざ手放したら新しい仕事が来るように。執着は捨てて、人に渡すことって大事だなと思ったんです。また、今までと違う環境でそれまで出会わなかった人たちと仕事するようになり、いろんな価値観に触れたことも不安を払拭させてくれる一つのきっかけになりました。フリーで働く人がこんなにいるのかという発見もありましたし、いろんな生き方の例を目にして、それもアリなんだと。全然仕事してないけど、こんなに幸せそうな人もいるんだって、会社に勤めていた頃は知らなかったことです」

──仕事の向き合い方にも変化が?

「会社員時代は与えられた仕事を失敗せず、きれいに仕上げることに注力していましたが、フリーになってからは完璧を目指すよりも型を破ることができるようになったと思います。自分に何が求められているか、それさえわかっていたら自由でいられる。私の場合は“読むこと”だから、それを軸にして、どんなことをしようかと考えることが楽しいですね」

──朗読会も積極的に催されています。

「朗読会は誰に必要とされているのかと考え始めたら無意味に思えてきて、やらなくなるんです。でも、先に会場を押さえて、『もうやるしかない!』と自分を追い込む。それがフリーになった今、必要だと思っていて。すればするほど赤字なんですけど(笑)、勉強代ですね。来年の会場もすでに押さえています。一人でやっているので、チラシを作ったり、チケットの販売方法を考えたりと慣れないことばかりで大変ですけど、面白いです」

──初めてのことに挑戦したり、自分を変えることは勇気が必要ですが、堀井さんができるのはなぜですか。

「変化する快感を知ってしまったからでしょうね。それを一度でも経験すると次から次へ変化することに躊躇がなくなる。会社員のときは“○年後こうありたい”って先のことを決めて、そのとおりに生きる安定志向型でしたが、今はもうまったく未来が見えない(笑)。でも、それが楽しい。後輩の中には『フリーになりたいけど生活できる自信がありません』という子もいます。でも、やりたいことが決まってるんだったら、そこで稼げなくても、他のところで収入を得たらいいと思う。それは不幸で
も何でもないし、やりたいことがあるだけでも幸せ。これまでは50代で人生のシフトチェンジをするなんてレアケースでしたが、私たち世代が自由にやっていたら、下の人たちの選択肢も広がるんじゃないかと。だから、周りの人がギョッとするようなことをどんどんしようと思ってるんです」


『一旦、退社。 50歳からの独立日記』
著者/堀井美香
価格/¥1,650
発行/大和書房

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Photo:Ayako Masunaga Interview & Text:Mariko Uramoto Edit:Mariko Kimbara

Profile

堀井美香Mika Horii 1972年、秋田県出身。95年にTBSに入社。2022年に退社し、フリーアナウンサーとして活動。コラムニストのジェーン・スーとパーソナリティーを務めるポッドキャスト番組『OVER THE SUN』が人気。23年2月、自身初のエッセイ集『一旦、退社。50 歳からの独立日記』(大和書房)を、5月にはビジネス書『聴きポジのススメ 会話のプロが教える聴く技術』(徳間書店)を上梓。8 月26 日にあきた芸術劇場ミルハスで朗読会を開催予定。

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