のんインタビュー「怒りが一番のインスピレーション」 | Numero TOKYO
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のんインタビュー「怒りが一番のインスピレーション」

旬な俳優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.87は俳優、のんにインタビュー。

ブラウス¥162,800 ニット¥97,900 パンツ¥203,500 シューズ¥107,800/すべてNina Ricci (イザ 0120-135-015)
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さかなクンの自伝的エッセイ『さかなクンの一魚一会~まいにち夢中な人生!~』(講談社)を原作にした映画『さかなのこ』で、勉強や働くことは苦手だが、誰よりも魚を愛し、 “好き”という気持ちで迷いなく突き進み、周囲にもポジティヴな影響を与えていくミー坊を演じているのん。男でも女でもない、性別を超越した存在であるミー坊をハイパーな生命体のように輝かせるのんという役者の力に改めて感服させられるとともに、監督業や音楽活動、アート制作と、自身もクリエイターとして活動するのんとミー坊の共鳴も感じさせる作品だ。映画のこと、自身のクリエイションのこと、オフの過ごし方について聞いた。

好きなことにまっすぐ突き進むエネルギーに共感

──性別を超えたミー坊を演じる上で、何か準備されたことや意識されたことはありましたか?

「ミー坊が着る学ランのサイズ感とか、見た目はみっちり作っていきました。さかなクンのYouTubeを見て、動きや声のトーンを研究したり、さかなクンが高校生の時に出演していた『TVチャンピオン』の動画を観たりしてつかんでいきました。女でも男でもないミー坊という役を演じることに対し、違和感はあまりなかったんです。でも、それを見る人が受けて入れてくれるのかっていうことに対してはすごくドキドキしていました。本読みの時、沖田修一監督が書いた『男か女かどっちでもいい』っていう紙がホワイトボードに貼ってあって、それを見た時に『そっか、お魚好きのミー坊っていう人を演じればいいんだ』と定まって、すごく勇気が湧いたんです。そこからは自信を持って演じられたと思います」

──誰よりも魚が好きなミー坊というキャラクターのどんなところに共感しましたか?

「好きなことに対してまっすぐ突き進むエネルギーです。たとえうまくいってない時でも、お魚が好きな気持ちを諦めずに、絶対どうにかなるんだって信じ切っているところにすごく共感しましたね。そこが私との共通項だなと思って膨らませていきました。私は演技をすることが本当に好きで、誰も自分のことを知らなくて、何者にもなれていない時から、『いい役者になるんだ』って信じ切っていました。オーディションに落ちても、『今回は駄目だったな』くらいに思っていたんです。ただ、いろんな表情を学びたいっていう気持ちはあるんですが、お芝居に対する知識を蓄えたいっていう欲はあまりないタイプなので、お魚のことを学術的にも勉強するミー坊の知識欲に対する貪欲さには憧れます」

──ミー坊は周りの人の支えもあって、好きなことに突き進みますが、のんさん自身はそういった経験はありますか?

「私は褒められたいタイプなので、褒めてくれたり、自分の才能に対して面白いと思ってくれる人の近くにいくようにしています(笑)。そういう人からアドバイスをもらったりしますね。あと、私の母もミー坊のお母さんまではいかないですが、テストの点数がいいことよりも楽しいことをしていて欲しいと思うタイプだったので、あまり勉強のこととかを言われたことがないんです。高校生の時に、『女優になりたい』『上京したい』と言った時も最終的には送り出してくれました」

──周りからは変わり者として見られている魚好きのギョギョおじさん(さかなクン)の存在もミー坊にとって大きかったと思いますが、それについてはどう感じましたか?

「ギョギョおじさんとミー坊のシーンはすごく好きですね。ミー坊のお魚好きをお母さんは肯定してくれてたけど、例えば幼馴染のヒヨ(柳楽優弥)もモモコ(夏帆)も全肯定してくれているわけじゃなくて。ギョギョおじさんは初めて家族以外で自分のことを受け入れてくれた存在なので、ミー坊はうれしかっただろうなって。あと、自分よりもっとお魚に詳しい人がいるっていう興奮ってとても大きかったと思うし、ギョギョおじさんがいたからこそ、ずっとお魚好きでいられたのかなとも思います」

──ミー坊は周りの人が大人になったり変化していく中で唯一少しも変わらないように見えましたが、それについてどんなことを感じましたか?

「そこが本当に素晴らしいなって思います。ミー坊が変わらないことでヒヨも救われたし、それが結局ミー坊がお魚の道で生きていくことにつながる。周りを動かす程のパワーのある人ですよね。 だから、映画を見てくれた人にもそういう希望やエネルギーを与えてほしいなって思います」

役者は弱点も活きる仕事。自分の全部が好きになる

──のんさん自身もミー坊と同様、芯がブレない方という印象がありますが、何か秘訣はありますか?

「根拠もなく、自分自身に対して自信があるんです。さっき少しお話しましたが、オーディションに落ちてもその自信は揺らがなかった。それくらい自分の好きなものを見つけることが大事なのかなって思います。役者の仕事はいいところだけが活きるわけじゃなくて、ウィークポイントや駄目なところも活きるから気持ちよくて、だからこそ自分の全部が好きになるんです。ミー坊も、勉強ができなかったり、世間的にはダメダメなところも含めて魅力的ですよね」

──音楽活動やアート作品を作る活動もされていますが、自己肯定感の高さはそういった活動にも活きていますか?

「そうですね。アート制作もネガティブなところとポジティブなところが同居しているので、役者の部分とアートを生み出す部分は切磋琢磨してると感じています。ただ、お芝居は基本的には受け身で、監督が伝えたいことや脚本に書いてあることを体現することが大前提。一方アート作品を作ることや音楽活動は、自分自身の中からメッセージを発信するものなので、表現のベクトルは全然違います。のんとしてそういった創作活動をするようになって、態度が変わったと思ってます。それまでは、自分は役者だから役を見てもらえればいいと思っていたので、自分のパーソナルの部分は置いておいて、作品のことだけを発信するような態度を取っていたんですが、今は主体的に自分が発信したいメッセージを伝えようとするようになりました」

──その変化はお芝居をすることに対して何かいい作用をもたらしましたか?

「監督の演出に対して、自分がどう返していくかを考える時の瞬発力がすごく上がりました。監督のイメージに対して、解釈の幅がすごく広がったと思います」

──創作活動における一番のインスピレーションというと?

「怒ってる時や鬱屈している時、うまくいかないことがあった時に悔しさを感じるところから創作意欲が湧くことが多いです。作品を作ることでその気持ちがポジティブな方向に変化していく。そうやって怒りの感情を使うのが好きなんですよね。怒りは自分にとってはそんなに悪いものではなく、喜びや楽しさ、笑ったり泣いたりするのと同じぐらいのカジュアルな感情です。楽しい時でもアイディアが溢れることはあるんですが、ガソリンになるのは怒り。ただ、長いスパンで作品を作る時は、楽しさのほうがアイディアが湧いてきます。
コロナ禍で怒りを抱きづらい状況になって、ぶつけどころのない悔しさを感じた時はすごく困りました。そのタイミングで『Numero TOKYO』(2020年7・8月合併号)のアート企画に参加させてもらって、リボンをモチーフにした『未来の視覚』という絵を描いたことから、リボンを使ったアート作品を作るようになり、それが『Ribbon』(脚本・監督・主演をすべてのん自身が手がけた)という映画につながっていきました。あの映画を作ったことでコロナ禍を乗り越えられたような気がしています。だからNumeroさん、ありがとうございます」

──こちらこそありがとうございます! 『Numero TOKYO』2021年11月号のインタビューでは、「監督として次に挑戦したいことは?」という質問に対して、「初めて監督を務めたYouTubeオリジナル映画『おちをつけなんせ』は、今だったらもっといろんなことができると思うのでまた撮りたい」とおっしゃっていました。今はどんなヴィジョンをお持ちですか?

「『おちをつけなんせ』では高校生の役を演じて、『Ribbon』では大学生だったので、次は社会人を演じたいですね。それだとまた全然違う話が描けると思いますし、その上で過去2作のように、ちょっとファンタジー感のある演出ができたらいいなって思ってます。『おちをつけなんせ』のように、妖怪ものもまた作ってみたいです」

北斎から宇野亞喜良、忌野清志郎まで
のんが影響を受けたアート

──創作活動において、影響を受けている人はどなたでしょう?

「絵に関しては、宇野亞喜良さんが大好きですごく影響を受けています。高校生の時に宇野さんの作品と出合ったことで、宇野さんの世代からイラストレーターっていう概念が生まれたっていうことを知りました。宇野さんがずっと女の子の絵を描いていることに惹かれますね。ミュージシャンでは(忌野)清志郎さんが好きです。あと矢野顕子さんの大ファンで、矢野さんみたいな人になりたいです。すごく自由さに溢れた方たちで、憧れますね」

──のんさんにとって、創作活動はどんな役割を担っていると思いますか?

「デトックスみたいな感じですかね。いろんなものが流れ出て、『こんなものが溜まってたんだ!』って思って気持ちいいんだけど、ぐったりもします(笑)。体が緩まるっていうか」

──最近、オフの時間にはどんなことをされていますか?

「寝るか(笑)、ボディのメンテナンスをするか、配信で作品を見たり、美術館に行ったりしてますね。美術館だと、何カ月か前に行った、サントリー美術館での葛飾北斎の展覧会(『大英博物館 北斎─国内の肉筆画の名品とともに─』)が面白かったです。葛飾北斎も自由ですよね。何度も名前を変えては違うタッチに挑戦したり、年齢を重ねれば重ねるほど自分の画に対しての自信を強めていったところがすごくかっこいいと思います。ロックな人だったんだなあって。大きな刺激を受けていますね」

──では、もし一カ月休みがあったら何をしたいですか?

「ヨーロッパに行ってお城や昔の建物を見たいです。パリに一度行ったことがあるんですけど、ルーブルとかオルセーとか、巨大な美術館に行ったらそれで観光の時間が終わっちゃって。ルーブルは本当に大きな美術館ですけど、宗教画をたくさん見ていたら、だんだんその発せられるエネルギーに胃もたれしてしまって(笑)、彫刻作品のエリアに行けなかったのが心残りなんです。ダリの美術館にも行きたかったですし。あと、『ドン・キホーテ』のバレエのチケットを取っていたんですが、時間を間違えていて、最後の20分しか見れなかったんです。クライマックスっていうこともあって、その20分だけでも大興奮だったんですけど、今度は全部観たい。『ドン・キホーテ』リベンジがしたいです(笑)」

映画『さかなのこ』

お魚が大好きな小学生・ミー坊は、寝ても覚めてもお魚のことばかり。他の子どもと少し違うことを心配する父親とは対照的に、信じて応援し続ける母親に背中を押されながらのびのびと大きくなった。高校生になり相変わらずお魚に夢中のミー坊は、まるで何かの主人公のようにいつの間にかみんなの中心にいたが、卒業後はお魚の仕事をしたくてもなかなかうまくいかず悩んでいた…。そんな時もお魚への「好き」を貫き続けるミー坊は、たくさんの出会いと優しさに導かれ、独自の道を突き進んでいく。

原作/さかなクン『さかなクンの一魚一会 ~まいにち夢中な人生!~』(講談社刊)
監督・脚本/沖田修一
脚本/前田司郎
音楽/パスカルズ
主題歌/CHAI「夢のはなし」
出演/のん、柳楽優弥夏帆磯村勇斗、岡山天音、さかなクン、三宅弘城、井川遥ほか
制作・配給/東京テアトル
公開日:2022年9月1日(木) TOHO シネマズ 日比谷 ほかにて全国ロードショー
©2022「さかなのこ」製作委員会

Photos:Ayako Masunaga Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Mariko Kimbara

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MARCH 2023 N°164

2023.1.27 発売

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