夏帆インタビュー「知らない場所に行って、いろんな人に会って、自分の世界を広げていきたい」 | Numero TOKYO
Interview / Post

夏帆インタビュー「知らない場所に行って、いろんな人に会って、自分の世界を広げていきたい」

旬な俳優、女優、アーティストやクリエイターが登場し、「ONとOFF」をテーマに自身のクリエイションについて語る連載「Talks」。vol.66は女優の夏帆にインタビュー。

直木賞作家である島本理生が描く大人の恋愛映画『Red』。主人公・村主塔子は、一流商社勤務の夫と娘、夫の両親と何不自由なく暮らしていた。ある日、学生時代にアシスタントをしていた建築家・鞍田と再会する。妻、母、女性、ひとりの人間として、塔子は何を決断し選ぶのか。揺れ動く塔子を演じる夏帆に、ひとりの女性としての生き方について聞いた。

塔子を変える、3人の男たち

──『Red』の主人公・塔子は、学生時代は空間デザイナーを目指していたけれど、今は裕福な家庭で専業主婦をしています。演じる前、演じた後で彼女の印象は変化しましたか? 「今まで演じたことのない女性像だったので、最初は、この人は何を自分の中で大事にしていて、どう生きたいのか、捉え所がないという印象でした。この映画の中で塔子自身もそれを模索していくのですが、演じる中で、塔子は、妻であり、子どもをもつ母であり、自分の気持ちをどれだけ表に出していいのかと迷い、葛藤している女性なんだなと感じました」

──劇中、鞍田(妻夫木聡)、小鷹(柄本佑)、夫の真(間宮祥太朗)という男性たちと関わるうちに、塔子も変化していきます。

「いろんな人からの刺激を受けて、塔子自身が変わっていくというより、彼女が本来持っていたものが、表に出るようになったのかもしれません。抑圧されていたものが解放されていったという方が近いのかも」

──塔子にとって、3人の男性がキーパーソンになりますが、それぞれに対しての表情が全く違いますよね。

「台本を読んだ時に、この3人には、塔子の違う面を見せていくことを大事にしたいなと思っていたんですが、3人とも役柄も役者としてのタイプも全く違っていて、こちらが意識せずとも自然と心持ちも変わっていった感じがします。表情だけじゃなくて、相手が変わると不思議と現場の雰囲気も変わるというか、スタッフは同じなのに違う作品の撮影をしているような感覚にもなって、そこは共演者のみなさんに助けていただきました」

──柄本佑さんといえば、夏帆さんは弟の柄本時生さんとプライベートでお友達ですよね。

「そうなんですよ。昔から時生くんと仲良くしていて。佑さんとは同じ作品に出演することはあったんですが、同じシーンでちゃんと共演するのは今回、初めてだったんです。でも、“友達のお兄ちゃん”みたいな感覚もあって、自然体でいられました」

──ではベストな配役でしたね。夫の真を演じた間宮祥太朗さんはいかがでしたか?

「間宮さんは3人の中では唯一、共演歴もあって自分と世代も近いので、気負うことなく演じることができました。真という役は、嫌な夫だと捉えられてしまいそうですが、この作品では決してそうならずに、どこか憎めないキャラクターになったのは、間宮くんが持っている品の良さもあるだろうし、改めて力のある役者さんだと感じました。真を悪い夫に描いたら話は簡単です。だから塔子は鞍田さんのところに行ってしまうのねと理由づけできるのですが、今回はそうではなくて、お互いの価値観に小さなズレがあって、こうなったんだということを描きたかったんです」

──では、その鞍田役の妻夫木さんはいかがでした?

「妻夫木さんは、役に対して真摯に向き合っている方で、共演はすごく刺激的でした。塔子は私にとって難しい役だったので、現場でずっと悩んでいたんですけど、それを見守り続けてくださった大きな存在でした。妻夫木さんが現場にいてくださって心強かったですし、妻夫木さんと共演したシーンは、大きなものに守られているような心地よさがありました。どんなことも寛大に受け止めてくださったので、私も思い切り演じられました」

──何度かある鞍田とのベッドシーンは、官能的でもありますが、塔子の表情の変化に驚きました。

「そうですね。そこは塔子が変わるタイミングでもあり、物語の重要なポイントでもあるから、ベッドシーンだからということだけではなくて、塔子の感情を表現するうえでとても繊細なシーンであったと思います。そのシーンの中で解き放たれていく塔子を表現することに集中していました」

──今作は、三島有紀子監督、原作者の島本理生さん、脚本の池田千尋さんをはじめ、美術、装飾、編集などスタッフに女性が多いですよね。

「確かにそうですね。作品としては、女性だからというより、人としてどう生きるかということに着地していると思います。ただ、製作陣にこれだけ女性が多いということは、塔子という人物に、女性の視点が入っていたかもしれませんね」

良い母親、良い妻。果たしてそれは幸せなのか

──今作は夏帆さんの出演作の中でどう捉えていますか。

「20代後半に差し掛かって、大人のラブストーリーを演じる機会をいただけたのは、役者を続けていく上でとても大きな経験だったと感じています。三島監督とは、過去にもご一緒しているのですが、その三島監督が、こういう題材で主演としてオファーしてくださったことが、とにかく嬉しかったですし、そんな監督の想いに応えたいということが原動力でもありました。今、振り返ると撮影は大変だったんですが、とことん役と向き合える作品と、時間を与えていただいたことがすごく有難いことだったと思います。塔子に没頭できて、充実した時間でした」

──いつも役を演じるときは、プライベートの時間も削って?

「その作品と役によりますね。役によって、役と自分との距離感も変わりますし。でも、なるべくそうありたいなと思っています」

──ちなみに昨年末放映のドラマ『ひとりキャンプで食って寝る』はどうでした?

「あれは素で楽しんでいました(笑)。役を作り込むというより自然体でいることを心がけました」

──今作は「大人の恋愛」がテーマのひとつですが、「大人」と言われてイメージするものは?

「大人ってなんでしょうね。10代の頃は28歳は大人だと思っていたんですが、今、そうなのかと聞かれたら、決して大人とは言えなくて。この作品の塔子もそうですけど、大人になることは何かを選択していくことなのかもしれません」

──塔子は結婚後、仕事を続けることを希望していましたが、結局、専業主婦を選択しました。結婚後の塔子は、周囲の目をかなり意識していますよね。

「塔子は、良い母親、良い妻でいなくちゃいけない、それを一番に生きています。でも、自分の人生を振り返って考えたときに、果たしてそれは幸せなのか。一度に全てを手に入れることはできないから、難しいですよね」

──今、日本では、社会の不文律のような「女性らしい生き方」から、一歩踏み出そうとしている時代です。夏帆さんは、ご自身の生き方と「女性らしい生き方」と言われるものを、どう考えていますか?

「これまでは、母親、妻という役割を求められていたと思うんですが、女性が社会で活躍するようになって生き方は多様化しているし、そうであって欲しいと思います。自分にとっては、まだ結婚が身近なものではなく、今は仕事をしたい時期ですけど、もし結婚したとき、家庭とやりたいことが両立できるのか、というのは考えます。それは相手の協力があってのことですし、自分一人でどうにかできることではないのですが、女性として生まれてきた以上、いつかはその壁にぶつかるんでしょうね。生物として男女の性差はあったとしても、社会的な性差、格差みたいなものは、あって欲しくないと思っています」

広い世界を知って、もっと自由で楽しい30代につなげたい

──オフについて伺います。最近、ハマっていることは?

「旅行です。この前も、ロンドンに遊びに行ったんですよ。時間ができたら、国内でも国外でも、自分の知らない場所に行きたいと思っていて。もともと旅行が好きというわけじゃなかったんです。ついつい腰が重くなってたんですけどね」

──お気に入りの場所はありますか?

「去年、行ったニューヨークは、すごく楽しかったです。友達に会ったり、ミュージアムに行ったり、街を歩いたり。観光らしい観光はしなかったのですが、刺激の多い街でした。ロンドンはまたニューヨークとも違って、人柄は日本に近い感じもありましたね」

──自然のある場所より、都会が好きですか?

「どちらも好きです。今、行きたいのはアイスランド。大自然のある場所に行ってみたくて。今は世界中に行ってみたいところがたくさんあるので、それこそ身軽なうちにじゃないですけど、いろんなところに足を運んでみようと思っています」

──ちなみに、旅の必需品は?

「パジャマは自分のものを持っていきます。あとは、カメラと本。コンパクトのフィルムカメラを持っているので」

──写真も趣味なんですか?

「こだわっているわけじゃないですけど、現像に出すまでどう撮れているのかわからなかったり、フィルム独特の風合いもあったりして、面白いですよね。持ち物は、そのくらいですね。荷物はなるべく少なくするようにしています」

──東京にいるときには、オフはどう過ごしていますか?

「エアリアルヨガをやっています。私、体が硬いんですけど、床でやるヨガより紐に助けられます。体が軽くなっていいですね」

──旅行とヨガ、健康的ですよね。意識されているんですか?

「ヘルシーなことしか言ってないから。ちょっと見栄をはりました(笑)。あとは、しょうもないことをしています」

──今、28歳ですが変化は感じますか? 30歳に向けて抱負は?

「30歳に向けてというのはあまり意識していません。30代は20代よりも、もっと自由に楽しくいられたら。そのために、今、いろんなことを吸収して、自分の視野を広げて行きたいと思っています。10代から仕事を始めたので、この世界しか知らなくて、私は狭い世界で生きてるなと感じたことがあったんです。これからもこの仕事に携わることができるなら、新しいことに挑戦していきたいし、つねに面白いことに関わっていたい。そのために、人生勉強が必要だと思っています。いろんな場所に行って、いろんな人に会って。もっともっといろんな経験をして、広い世界を見て、30代につなげていければいいなと思っています」

ひとつの再会が、ある女性の人生を変える。
夏帆×妻夫木聡による官能的で美しい愛の物語

村主塔子(夏帆)は、誰もがうらやむ夫、かわいい娘、夫の両親と、瀟洒な一軒家に住み、他人から見れば何の問題もない生活を送っていた。一流商社に勤務する夫の真(間宮祥太朗)に尽くし、夫の両親や娘の世話にいそしむ日々。ある日、かつて愛した建築士の鞍田(妻夫木聡)に再会する。2人の再会は、塔子の行き場のなかった気持ちを少しずつ変化させていく……。

『Red』
監督/三島有紀子
原作/島本理生『Red』(中公文庫)
脚本/池田千尋、三島有紀子
出演/夏帆、妻夫木聡、柄本 佑、間宮祥太朗
配給/日活
2020年2月21日(金)新宿バルト9ほか全国ロードショー
redmovie.jp
©2020『Red』製作委員会

シャツ¥57,000 パンツ¥70,000/ともにChristian Wijnants(ショールーム リンクス 0120-61-1315)

Photos: Takehiro Goto Styling: Naomi Shimizu Hair & Makeup: Naoki Ishikawa Interview & Text: Miho Matsuda Edit: Yukiko Shinto

Profile

夏帆Kaho 1991年6月30日、東京生まれ。2007年『天然コケッコー』にて映画デビュー。第31回日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ新人賞を総なめに。以降、映画、ドラマを中心に活躍。15年『海街diary』では第39回日本アカデミー賞助演女優賞に輝く。主な出演作に『うた魂♪』(08)『箱入り息子の恋』(13)『ブルーアワーにぶっ飛ばす』(19)など多数。20年は『架空OL日記』(2月28日公開)『喜劇 愛妻物語』などが待機している。

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