『リコリス・ピザ』主演のアラナ・ハイムにインタビュー「今日こそクビになると思いながら演じていた(笑)」
テイラー・スウィフトとも親友で知られるカリフォルニア出身の3姉妹バンド、ハイム。末娘のアラナが今回なんとポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作『リコリス・ピザ』で、初の演技にして主演に大抜擢された。しかも、すでに公開されたアメリカでは、アカデミー賞の主要部門3部門にノミネートされるなど大絶賛されているのだ。
物語は、カメラマンのアシスタントとして20代のアラナが訪れた高校で出会った高校生のゲイリー(クーパー・ホフマン)と大きな年の差がありながらも、お互いを必要として、惹かれ合っていくラブストーリー。興味深いのは、キャリアが25年以上ありすでに“巨匠”と言えるアンダーソンが、ここに来て青春、初恋を描いたこと。監督がこの映画を作るきっかけとなり、彼女のために書いたというこの役について、アラナ・ハイムに聞いた。
“ポール・トーマス・アンダーソンが私の人生を変えた”
──ポール・トーマス・アンダーソン監督が、あなたのことを「ホアキン・フェニックスとダニエル・デイ=ルイスと同じ才能を感じる」と絶賛していて、俳優としてそれ以上の褒め言葉もないと思ったのですが。
「本当にそうだと思う。なんてクレイジーなこと言うんだろうって」
──今回ポール・トーマス・アンダーソン監督のもとで初めて演技をすると言うのは、どのような体験でしたか。
「ポールに出会った日に私の人生は変わった。100%! 私の世界が変わったの。『人生が変わった』とか『世界が変わった』なんていうのはすごく大袈裟でクレイジーに聞こえると思うけど、でも彼は本当に私の人生を変えたと思う。
そもそも映画を作る以前に、彼は私の良き友達で、しかも私を応援してくれるチアリーダーのような存在でもあった。私の心の支えになってくれている人だったの。彼は、私たちのバンドのミュージックビデオも作ってくれたけど、それ以前に私たちの音楽のファンでもいてくれたわけだから。
さらに、私たちが(映画の舞台となったサンフェルナンド・)バレー出身であることも気に入ってくれた理由だった。最高の友達で、忠誠心のある人で、姉たちも含めすごくよくしてもらっている。今回ミュージックビデオ以上の大きな規模で仕事できて本当に光栄だった。それにポールは彼自身が偉大な監督というだけではなくて、ダニエル・デイ=ルイスとか、ホアキン・フェニックスと言った偉大な俳優たちと仕事しているよね。
だから、私はとにかく最善を尽くす以外に道はなかった。でも毎日今日こそクビになると思いながら演じていた(笑)」
──いきなりショーン・ペンや、ブラッドリー・クーパーなどの大俳優と共演というのはいかがでしたか。
「最高だった。ブラッドリー・クーパーとのシーンが私がこの映画の最初の記憶なんだけど。本当に映画を見ているみたいだったから(笑)。撮影現場はカオスに思えたけど、『アクション!』と聞こえた瞬間にシーンとなって、ジョン・ピーターズになり切ったブラッドリー・クーパーが私に向かって歩いて来たの。
その瞬間、1)うわ、まじで自分は映画作っているんだ、と思い、2)私はここで一体何してるんだろう、と思い、3)ブラッドリー・クーパーじゃん、ヤバっ!って思った(笑)。
でも彼はこんな経験のない俳優2人を相手にものすごく辛抱強く付き合ってくれて、すごく楽しかった。それから、ショーン・ペンとの撮影では、トム・ウェイツもいて、私は2人の大ファンだったから、2人のサンドイッチになっていたなんてこれ以上ないくらい恵まれていた。2人とも素敵で、辛抱強くて、私を応援してくれたの」
“私のキャラクターには私自身の経験も混ぜられているの”
──ポール・トーマス・アンダーソンがキャリアのこの時期になって、初恋や、青春、成長をテーマにした、しかもこれまでにない軽やかな映画を作ったのはすごく興味深いと思いました。彼は、暗い時代だったので20年前から作りたかったこの映画を作るときが来たと思った、と言っていましたが、あなたのお母さんは、ポール・トーマス・アンダーソンの小学校の美術の先生だったそうですね。あなたたちと出会ったことがきっかけで、彼の青春時代が蘇るきっかけになった可能性はありますか。
「(笑)。私のお母さんとは絶対に関係がないと思う。私のキャラクターと母が何かしら関係があるという話も全くしなかったし。ただ私は母に一番似ていると言われているから、それは面白いところなんだけど。でも、私のキャラクターは、ポールがバレーで聞いたいろいろな話を合わせてできたものだし、私自身の経験も混ぜられているの(笑)」
──監督があなたのバンドのミュージック・ビデオを何本も手がけていたことは助けになりましたか。
「間違いなく。これまでミュージックビデオで、一緒にクレイジーだと思うようなことにも挑戦して、それがうまくいったのも良かったんだと思う。彼はいきなり突拍子もないアイディアを提案したりするんだけど、彼が『やってみよう!』と言った瞬間に、私はもうその場所に向かって走り出すタイプだった。彼は私のそういうところを評価して、今回主演に選んでくれたのかもしれない。映画の撮影は、ミュージックビデオを作るより長い間一緒に仕事しているという感覚だった」
──脚本が送られて来た時はどう思いましたか。
「すぐに大好きになった。私が育ったバレーへのラブレターであると思ったから。私たちがロンドンにいるときにポールからメールで脚本が届いて、夜中だったけどすぐに読んだの。読み始めたら、私の名前“アラナ”が出て来て、私の名前を映画で使ってくれるなんて、素敵だと思った。それで、読み進めていくうちに、私がポールに言った話がそのまま使われていたりしてびっくりした」
──具体的にはどの部分があなたの話だったのですか。
「家族との夕食のシーンとか。私のボーイフレンドではなくて、姉のボーイフレンドの話だったんだけど。ポールがこの脚本を書いているときに電話がかってきて、『あの話をもう一度聞かせて』と言うから話したんだけど、それが脚本で使われていたからびっくりした!
それで脚本を読んだ次の朝に、姉達に脚本を読んでどう思った?と聞いたら2人とも『なんのこと?』と、2人には送られていなかった。そこで初めて私にこの役を演じてもらいたいだと知って仰天したわけ」
──『リコリス(=リコリス菓子)・ピザ』と言うのはすごく変わったタイトルですが、あなたにとってはどのような意味でしょうか?
「すごくいろんな意味があると思うんだけど、元々は、70年代にカリフォルニア南部にあったレコード店の名前で、ポールが言うには、コメディアンのアボットとコステロが“リコリス・ピザ”に関するネタを持っていたところから付けた名前だったそう。
タイトルについては人それぞれで解釈してくれていいと思うけど、私はアラナとゲイリーのことだと思った。リコリスとピザという、本来だったら一緒になるはずのないかけ離れた2人が、ここで何かの運命で一緒になったという物語を象徴しているんじゃないかな」
『リコリス・ピザ』
脚本・監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:アラナ・ハイム、クーパー・ホフマン、ショーン・ペン、トム・ウェイツ、ブラッドリー・クーパー、ベニー・サフディ
7月1日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー。
licorice-pizza.jp
© 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:ビターズ・エンド、パルコ ユニバーサル映画
Interview & Text:Akemi Nakamura Edit:Mariko Kimbara