若葉竜也インタビュー「人間を演じるということ」 | Numero TOKYO
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若葉竜也インタビュー「人間を演じるということ」

今、日本映画界で最も注目される監督、今泉力哉監督が新作『街の上で』を公開。下北沢の古着屋、古本屋、自主映画制作を背景に、誰にも思い当たりそうで、誰かにとっては一生の中で特別な恋と友情を描く。主演は、NHK朝ドラ『おちょやん』でも注目される若葉竜也。小さな頃から芸能界に身を置き、『愛がなんだ』『あの頃。』と今泉監督作品の出演が続く彼に、今作のエピソード、そして、街、恋愛について聞いた。

「プロとは、素人に近づくこと」

──今作で、下北沢の古着屋で働く荒川青を演じていますが、あまりに自然で、現実にもそんな人がいるんじゃないかと錯覚してしまうほどでした。今泉監督というと、アドリブを加えて、俳優の新鮮な反応を引き出すという話が有名ですが、今回もそんなシーンはありましたか。 「撮影前は、脚本を読みながら監督とディスカッションはあったんですが、撮影現場に入ってからは台本通りです。今回、監督がワークショップを開いて選んだ方が多くキャスティングされているんです。その中には、初めて演技をする人もいて、芝居のキャリアはまちまちだったんですが、その分、纏っている空気が新鮮で、定石に従った芝居ではなかったんです。だから、鮮度の高いシーンが多くて、僕もずっと刺激的でした」 ──若葉竜也さんといえば、「年齢=キャリア」というくらい、長くお芝居をされていますが、今回、いろんな方と一緒に撮影して、新たな発見があったんですね。 「経験がないからこその新鮮な空気感は、技術では辿りつけないものがあります。経験を重ねて技術を高めることも重要ですが、その反面、芝居が既視感のあるものになってしまうという矛盾を感じていて。プロになることは、素人に近づいていくことなのかもしれない。いかに経験に頼らず、挑んでいけるかを考えてきましたが、今作で、それがより確信に近づいた気がします」

──特にそれを感じたシーンは?

「ザ・スズナリの前で、青が警官と話すシーンがあるんですが、そこで警官を演じているのが、漫画家のルノアール兄弟の左近洋一郎さんなんです。映画は『用意、スタート』の掛け声で芝居を始めることも知らなかったようで。でも、だからこその新鮮さがありました。ここ10年、本番中にうっかり笑うことなんてなかったけれど、吹き出しそうになりました」

──脚本段階で監督と話し合ったのは、どのシーンですか?

「青がギターを弾くシーンです。青はかつてミュージシャンを目指していたんですが、いろいろあって古着屋で働いているんです。劇中で歌を唄うんですが、それは、今泉監督が学生時代に作った曲なんですよ。監督は楽器ができないらしく、アカペラのデータが僕に送られてきたんです(笑)。それを元に家で必死にコードをつけました」

──ギターはよく弾くんですか。

「学生時代にバンドを組んでいてギターは弾けたんですけど、この映画に合ったギター進行をどうしようかと、友達のミュージシャンからアイデアをもらったりしながら作りました」

──バンドは本格的にやっていたんですか。

「趣味程度でしたけどね。僕は劇団に生まれて、小さな頃から、この世界で仕事をして。将来は役者以外だったら、どんな仕事でもいいと思っていたんです」

──劇団一家に生まれたので、役者になるというのは家業を継ぐようなものですよね。

「そうですね。だから、バンドで生きていけたら最高だと思っていたんですが、メンバーが次々と就職してひとり取り残されて。自分の将来を考えたときに、食っていける可能性が高いのが、この仕事だったんです。それで腹を括ったのが20代半ばです。僕は、挫折して役者になった珍しい例かもしれません」

──青の気持ちに共感するところがありそうですね。

「青は普遍的ですよね。弱くてズルいところもあるけど、人間味があって惹かれます」

実は、下北沢より高円寺派だった

──青や現実の下北沢にいそうな絶妙なキャラクターだから、逆に演じるのが難しいということはありましたか。

「どの映画でもそうですが、根底は生々しい人間を演じる。という事なんです。この人物は、こんな性格だから、きっとこういうことはしない、こんなことは言わない。とキャラクター化していくと、混沌とした人物像が整理されてわかりやすくなる反面、人間の奥行きや豊かさが失われてしまいます。今、こうやってインタビューを受けている僕は、俳優の仮面をつけていて、普段よりカッコつけて喋っているけれど、家では高いニットを洗濯機で普通に洗ってしまって、泣きそうになっていたりもします。人間は多面的で、いくつもの顔があって、声色だって変わるし、ひとつの出会いで価値観が真逆になったりもする。だから、青に関しては、最初から人物像を決めずに、出会う人たちによって、表情が変わっていくように演じました」

──今作は下北沢が舞台ですが、よく遊びに来ますか。

「実はあまり馴染みがないんです(笑)。むしろ以前、高円寺の近くに住んでいたので、高円寺のスタジオでバンドの練習をしたりして。役者の先輩に誘われて下北沢に来るようになったのは、ここ2、3年です」

──下北沢も高円寺と同じように、街に個性があって、その街だけの魅力がありますよね。

「そうですね。下北沢に憧れて田舎から上京してくる人がいたり、居酒屋で役者が芝居のことでケンカしたり。憧れと現実の中で、挫折して地元に帰る人もいれば、成功して代々木上原あたりに引越していく人もいて。誰かが来ては去っていく交差点みたいな街で、儚くもあるけど、誰のことも受け入れてくれる温かさも感じます」

「気になる人には、すぐ『友達として見てない』と伝えます」

──この映画で、街ともうひとつ、柱になるのは恋愛です。恋愛にたいしてロマンティストなタイプですか。

「見ての通り、ロマンティストではないです。」

──誰かを好きになるのはどんなときですか。

「話しながら、温度感や、言葉の選び方、リズムが自分にフィットする人には好意を感じます」

──ひと目惚れすることは?

「圧倒的にコミュニケーションする中で、そう感じることの方が多いですね」

──劇中、青とイハ(中田青渚)が「友達のままで付き合えたらいいのに」と語り合うシーンがあります。友情から恋愛に発展することは?

「それ、照れますよね。さっきまで友達として話してたのに、どのタイミングで手を繋いだりするんですか(笑)。お互いに恋愛している感覚があれば、『ちょっと照れるね』なんて言ってる自分も肯定できる気がするんですけど」

──じゃあ、友達と恋人の線引きははっきりしているんですね。

「そうですね。もし、好意があるなら、本人に『友達として見てないから』と伝えます。向こうにも僕を友達として見られていたら損な気がして、最初にはっきり言います。なんか、俺の話は面白くないかもしれないですね(笑)」

──いえ、なかなかのキラーフレーズでした。結婚願望はありますか?

「結婚したいと思ってもできるもんでもないだろうし、流れに身を任せます。このタイミングでこの風が吹いてるなら乗っておくかと思うかもしれないし、それがいつなのかは僕にもわかりません」

──今年は朝ドラ『おちょやん』の出演もあって、今の風は仕事に向かって吹いていそうですね。

「でも、仕事を人生の柱にすることはないと思います。僕は、プライベートを一番大切にたいと思っています。生きるために仕事するか、仕事のために生きるのか二択だったら、生きるための仕事。日々の生活が一番大事で、生活していける以上のお金は必要ないので、これまで通りに生きていきたいと思っています」

──今、プライベートでハマっていることは?

「今ということではないですけど、ずっと古着のTシャツや、ヴィンテージのスウェットを集めるのが好きです。最近は、チャンピオンの80年代のスウェットと40年代のつなぎを手に入れました。実際に着ることは少ないですけど、どんな歴史があってここに流れ着いたのか、想像することが楽しくて。それに、80年代のカルチャーがすごく好きなんですよ。映画とか音楽もそうですし、今、80年代の車に乗っています。しょっちゅう故障するし、修理費も高いんですけど、あの時代の形が好きなんですよ」

『街の上で』

古着屋で働く荒川青(若葉竜也)は、ある日、恋人・雪(穂志もえか)に浮気されフラれてしまう。彼女のことが忘れられずにいたある日、美大生の映画監督(萩原みのり)から自主映画に出演を依頼される。行きつけの飲み屋で「それは“告白”だ!」とそそのかされるが……。

監督/今泉力哉
脚本/今泉力哉、大橋裕之
出演/若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚/成田凌(友情出演)ほか
配給/「街の上で」フィルムパートナーズ
新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか、全国公開中
©️「街の上で」フィルムパートナーズ

Photos: Kouki Hayashi Interview & Text: Miho Matsuda Edit: Yukiko Shinto

Profile

若葉竜也Ryuya Wakaba 1989年生まれ、東京都出身。2016年、映画『葛城事件』で、第8回TAMA映画賞 最優秀新進男優賞を受賞。近年の出演作に、『サラバ静寂』、『パンク侍、斬られて候』、『愛がなんだ』、『台風家族』、『ワンダーウォール 劇場版』、『生きちゃった』、『朝が来る』、『罪の声』、映画『AWAKE』、『あの頃。』など。NHK連続テレビ小説『おちょやん』では、小暮真治役で注目を集める。今後は『くれなずめ』(松居大悟監督/4月29日公開予定)のほか、公開待機作が多数控えている。

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