小室哲哉によるオンライントーク番組「Ground TK」第二回ゲスト:田村淳
小室哲哉が著名人をゲストに招き対談を繰り広げるオンライン配信プログラム「Ground TK」。第一回の河瀬直美に続く第二回のゲストは、小室氏と親交も深く多方面でマルチに活躍する田村淳。二人のトークの模様を、ダイジェストでお届けします。
実は20年来の付き合い
小室「淳とは20年くらい前に音楽のバラエティー番組で共演していたんだよね」
田村「そこからのご縁ですね。あの番組をいまの僕のスキルでやったら、もっと小室さんの面白い部分を掘り下げられたのになって思います(笑)。」
小室「(笑)」
田村「あのときはもう話すだけで緊張したし、でも小室さんに触れれば触れるほど、緊張しなくていい人だというのが長い年月でわかったので」
小室「プライベートでは、かなり僕が喋っているよね。淳が聞き役に回ってくれて」
田村「小室さん、覚えてます? ロケの途中で迷いもなく、僕と(田村)亮に80万円くらいする腕時計を買ってくれたの」
小室「そんなに高くなかったと思うけど…何か買ったのは覚えてる。懐かしいね」
田村「小室さんがこうやってメディアの前に戻ってきたわけですが、これからどのような音楽活動をされていくのですか」
小室「ほぼ2年自粛していたので楽器に触れていなくて。音楽を作るのにも慣れないし、途中までは本当にやめる気でいたんだよね」
田村「音楽とは縁を切ろうと?」
小室「そう。過去の自分の作品は大切にしたいけど、新しい音楽を作る必然性が感じられなくて。そのとき、近しい人たちから『音楽やらないの、やろうよ』と言っていただいて、リハビリみたいな感じで作ってみて…」
田村「久々に音楽に触れたときのことは覚えてます?」
小室「覚えてる。やっぱり肩の力が入っている感じで、いつも通りでいいじゃんという感じにはなれなかった。新しいものを聞いたりしてやってみたけど、やはり皆さん基本的に『あっ、これ小室哲哉だ』とわかる音楽が好きで」
田村「そうですね。やっぱりそれぐらい築き上げてきましたからね、小室哲哉という音楽を」
小室哲哉を拒んだ大きな壁とは
小室「でもやっぱり、それが個性だから仕方ないのかなって。自分の個性やオリジナリティには結局は勝てないというか。それより勝るものができない。自分の個性を作ってしまったら、それと向き合わないといけないんだよね」
田村「それは到達した人しか言えないんでしょうね。そんな悩みがあるなんて思わないじゃないですか」
小室「ミュージシャンの人もそれにもがいて苦しんでいる人が多いと思う」
田村「本人の中では、こういう一面もあるし、違う一面もあると。でもそれを出そうとすると、なかなか難しいということですか」
小室「ポピュラリティという意味ではちょっと受け入れられがたいというか。結局はみんなその戦いになってしまうような気がする」
田村「今回の新曲、僕いち早く聞かせてもらっているじゃないですか。本当にお世辞でもなんでもなく、『TKサウンドが戻ってきた』というのと『新しいことに挑戦してる』というのが、すごくいい感じに合わさった楽曲だなと思ったんですよ。小室さんの中ではどうですか?」
小室「まさに、なるべくチャレンジをしながら、『これどこからどう聴いても小室哲哉だろう』というものにするという感じで作りましたね」
田村「なるほど。それがせめぎあって、あの楽曲ができたんですね」
小室「それはあるね。やっぱりアーティストって呼ばれる限りは、何か殻をぶっ壊すというか、新しいものを見せたいという思いがあるんだよね」
田村「それは、自分の中である程度見せたいものの目標みたいなものがあるんですか?」
小室「ある。そこにある程度到達したいというのが。結局この2〜3年くらいはずっとそれを探してる。2008年くらいからは、ちょっとポップスとはかけ離れた環境音楽をやっていて」
田村「その空間に合わせたような音楽のことですね」
小室「そう。ありものではなくて、そこでしか聴けないような音楽をやってみようと思って。もう20年近くになるかな」
環境音楽という新たな分野への挑戦
田村「そうだったんですね! 僕たちが知らない小室さんの活動のメインストリームではないところで」
小室「今トライしようと思っていて。そこでのポピュラリティが勝ち取れたら、しばらく面白いことがやれるかな、と」
田村「しばらくっていうか、僕はアーティストは死ぬまでアーティストだと思いますけど、小室さんなんてまさにそういうタイプじゃないですか」
小室「そうだね、うん(笑)。時間があるときに色々なアーティストのドキュメンタリーを観たりしたけど、みんなギリギリまで戦ってるよね」
田村「アーティストの人って、本当に身を削って追い込んで苦しんで表現するじゃないですか。それは自分がそうしたいのか、それとも相手重視なんですか」
小室「一人でも共鳴してくれる人とか、感激してくれる人に向けてやっているという感じだね。だから削るというよりは、自分でやりたかったところに一度行って、とりあえず到達したあとはその影と戦うっていうか」
田村「すごい作業だなぁ…! 小室哲哉が小室哲哉と戦うっていうことですよね!?」
小室「そうだね。それで、新しい『ニュー小室哲哉』ができるのを目指すっていう」
田村「そのジャッジは自分ですか?」
小室「自分だったり、世の中の人だったり、世の中の風みたいなものが認めてくれたりするかな」
田村「環境音楽は、どういうものになるんですか?」
小室「ミュージックデザインという言葉をふっと考えて。アートギャラリーみたいなところだけではなくて、駅だったりとか、お店だったりとか、公園とか。いらなければ消せばいい。あって嫌じゃなかったら鳴っていてもいいかなって場所」
田村「何かを掻き立てるための音になっていればいいと。でもそんなオファーなんてめちゃくちゃ来るんじゃないですか? 僕が今思い浮かんだのは、故郷の山口県・下関なんですけど、関門海峡の美しい景色にメロディーが乗っていたら、どれだけ素晴らしいだろうと思いました」
小室「音楽って今、水より安いじゃない。一曲」
田村「そういう感覚で捉えたことないですけど、言われてみたらそうですね」
小室「そういったお金での価値ではないけれども、音楽が当たり前すぎて、作っているほうからすると大事なものだけれど忘れがちになってしまっているんで。お店とか公園で音楽が流れていて、『あぁいいね』っていう風に思ってくれると嬉しいかな」
田村「音楽の価値を再認識するという意味でも、そうですね。新しい活動も楽しみにしています」
対談を終えて…Q&A
──今日はDSQUARED2の衣装をお召しですが、お気に入りポイントを教えてください。
小室「タイトなシルエットで、背筋が伸びますね。ダメージデニムもあまり履くことが少ないので新鮮です」
田村「気品溢れるダメージデニムですね。僕は普段楽な格好しかしないのですが、今日みたいにフォーマルだけどあまりカチッとしすぎないスタイルもいいですね」
──出会いから20年。お互いの最初の印象は?
小室「僕はテレビで見て知っていたけど、一緒に仕事をしてプライベートの付き合いになって楽な関係になってきたら、淳くんの方から連絡してくれるようになって。すごく嬉しいです」
田村「最初お会いしたときは、殿上人みたいな人じゃないですか。TM NETWORKとしても、自分がお金を時間を費やした人だし、その後もTKとして一時代を築いて。そんな人がなんで自分たちと番組をやってくれるんだろうという不思議な感覚でした。後からわかったのですが、小室さんって自分が偉いとかそういうことを一切振りかざしてこないので、人付き合いは超フラットです。年上で気軽に連絡できる唯一の先輩かもしれないですね」
──プライベートでお会いするときは、どんなお話をされるのですか?
小室「他の人にはできないような本当に私的な話もしていますね」
田村「ゲームの話で盛り上がったこともありましたよね。小室さんがウイニングイレブンにハマっていた頃、僕の後輩まで自宅に呼んでくださって。後輩が『点を獲ってもいいんですか』って怯えてたけど、『いいよ、そんなことで怒る人じゃないから』って(笑)」
──新曲のデータのやりとりもされているとか。
田村「これ新曲だよって言って送られてきて。びっくりしました」
小室「素直に感想を言ってくれるから。ダメなときはダメだし」
田村「ダメとは言わないですけど、苦手とか他の言葉で言います(笑)」
──今後何か二人でコラボレーションすることはありますか?
田村「小室さんが考えていることを咀嚼して発言するのに僕は適していると思います。ただ、小室さんの音楽の領域に自分がいくことはないですね(笑)」
小室「僕は喋り下手なので人に伝えるのは苦手だし。そこは淳の才能であって、わかりやすく噛み砕いて伝えるのが上手だなと思いますね」
──年齢もフィールドも違いますが、こんなにお二人が仲良くなれたのはなぜでしょう?
田村「僕は楽なんで、小室さんといて。帰りたいときに帰ります、と言える人ですね」
小室「たまたま相性が良いのかもしれないね」
田村「感覚も合うんだと思います」
Photos:Leslie Kee Styling:DAN Hair: KUJIRA(AVGVST), Koki Noguchi (Tron) Make-up:Mariko Suzuki Text: Yukiko Shinto
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