People / Interview

ヴェロニカ・ゲンシツカの不思議の世界へ

Untitled #48 Courtesy of the artist and Jednostka gallery
Untitled #48 Courtesy of the artist and Jednostka gallery

写真に表されたものはリアルか、否か? 巷にフェイクニュースもあふれかえる昨今にあって、そもそも真実とは何なのか? 新進気鋭のアーティストとして注目を集めるポーランドのヴェロニカ・ゲンシツカ(Weronika Gęsicka)の作品は、そんな疑問を私たちに投げかけているようだ。(「ヌメロ・トウキョウ」2019年4月号掲載)

Untitled #1 from the Traces series,2015–2017. Courtesy of the artist and Jednostka gallery
Untitled #1 from the Traces series,2015–2017. Courtesy of the artist and Jednostka gallery

ヴェロニカ・ゲンシツカの作品の中でも1950〜60年代のアメリカのストック写真使ったフォトモンタージュのシリーズ「Traces(トレーシーズ)」は、当時のアメリカにおける典型的な家族の幸福なイメージに手を加えることで、その文脈をシュールレアリスティックに変換している。この作品群は5月12日(日)まで京都で開催されている国際写真祭「KYOTOGRAPHIE」でも公開。展示の準備を進めるゲンシツカに話を聞いた。

Untitled #5 from the Traces series,2015–2017. Courtesy of the artist and Jednostka gallery
Untitled #5 from the Traces series,2015–2017. Courtesy of the artist and Jednostka gallery

——この「Traces」のシリーズを作り始めた経緯について教えてください。

「私は今、ワルシャワから約2時間の距離にある場所にアトリエを構えているのですが、ここは人口が200人くらいの小さな街で、映画館はおろかレストランもないようなところなんです。街には刺激的なことは何もないから、インターネットに向かい、ネットでいろんな画像のアーカイブをサーチすることがいちばんの楽しみ。ネット上では図書館や新聞、警察や犯罪のリポートまで、世界中のアーカイブや日常的なニュース画像を閲覧することができる。時にはフェイクニュースまでもね。ほとんどはアートの世界とは程遠いものだけれど、自分の創作はそういった日常的な事象からアイデアを得ることが多いんです。

Untitled #3 from the Traces series,2015–2017. Courtesy of the artist and Jednostka gallery
Untitled #3 from the Traces series,2015–2017. Courtesy of the artist and Jednostka gallery

『Traces』では“家族”や“カップル”といったキーワードで検索してヒットしたアメリカの50〜60年代の画像を50枚ほどを使いました。その当時独特の雰囲気、パーフェクトすぎるともいえる幸福感は今あらためて見るとどこか奇妙にも映ります。というのも、写真の中の人物は本物の家族なのか、それとも俳優やモデルが演じたものなのかは、今となってはわからないから」

——家族やカップルにとって幸せとは何か?といった価値基準も、当時と現代とでは変わっていますね。

「当時のヴィジュアルには圧倒的な男女格差、女性蔑視的な表現も多く見受けられます。『Traces』では、私が画像に手を加えることによって、女性たちをよりパワフルに描き直しています」

Untitled #54 from the Traces series,2015–2017. Courtesy of the artist and Jednostka gallery
Untitled #54 from the Traces series,2015–2017. Courtesy of the artist and Jednostka gallery

——なぜアメリカのアーカイヴを使ったのでしょうか?

「(ポーランドが共産主義から民主主義へ移り変わった)90年代に思春期を過ごした私にとって、アメリカという存在はずっと輝いていた。『雨に唄えば』(1952年公開)など、50年代のミュージカル映画が好きで、アメリカ文化に憧れ続けていたんです。このシリーズを制作する1年ほど前に約1カ月間、アメリカのさまざまな場所を旅する中で、LAの映画製作所も訪れることができました。50年代のミュージカルに使われたカラフルなセットは、ファサードだけは美しいけれど、実際は中身が空っぽだった。リアリティは表面にしかなかったって、ある意味がっかりもしたの。その体験がこの『Traces』を制作するきっかけにもなっています」

Untitled #2 from the Collection series,2015–2017. Courtesy of the artist and Jednostka gallery
Untitled #2 from the Collection series,2015–2017. Courtesy of the artist and Jednostka gallery

——日常の中のリアリティという意味では、いま私たちが日々インスタグラムにあげているような、いわゆる“リア充”的な写真も作為性が強いといっていい。フィルターやリタッチのアプリもますます手軽になって、誰もが幸福度100%みたいな写真をインスタにあげることができる。その意味では「Traces」のもとになった50年代アメリカのポートレート並みの過度な完璧さに通じる部分もあるような気がします。

「『Traces』の中にも人形と顔をスワップした作品があるけれど、いま取り組んでいる新しいシリーズは、まさにインスタグラム的なポートレートの加工をテーマにしています。みんなインスタにあげるのはその日に撮ったベストな自分。そしてさまざまなアプリでリアリティは加工されているから、インターネットに流されるイメージは全てフィクション、ともいえるかもしれないですよね」

Untitled #3 from the Collection series,2015–2017. Courtesy of the artist and Jednostka gallery
Untitled #3 from the Collection series,2015–2017. Courtesy of the artist and Jednostka gallery

Untitled #10 from the Collection series,2015–2017. Courtesy of the artist and Jednostka gallery
Untitled #10 from the Collection series,2015–2017. Courtesy of the artist and Jednostka gallery

——最近では、「Collection」のシリーズなど彫刻的な作品にも取り組まれていますね。くしやゴム手袋、ほうきなどの生活雑貨をモチーフとした作品などですが。

「私はいつも日常のリアリティに関心があるから、そういった日々のオブジェを使って作品づくりをしています。3Dの作品は写真と違ってどの方向からも見ることができる。より作品自体に近づくことができるという特徴があると思います」

Untitled #4 from the Collection series,2015–2017. Courtesy of the artist and Jednostka gallery
Untitled #4 from the Collection series,2015–2017. Courtesy of the artist and Jednostka gallery

——KYOTOGRAPHIEではヴィンテージの家具を使ったインスタレーションを計画しているとか。写真作品とのマッチングも楽しみです。
 
「50年代のアメリカ製の家具を使いながら、当時の家を彷彿させる設定です。私はもともと人の記憶について興味があります。記憶とは過去と現在が混在しているもので、私自身、新しいニュースもさることながら、古い事象にも出合いたいと思っています。今回の展示では京都という歴史ある街の古い酒蔵を会場にしながら、現代の写真作品を見せるということで、そのミックス感が見どころの一つになるかとも考えています。私の作品自体、古さと新しさが交じり合い、またファニーさの中に批判性も共存した多様性のあるものだから」
 

Interview & Text : Akiko Ichikawa Edit: Michie Mito

Profile

ヴェロニカ・ゲンシツカWeronika Gęsicka 1984年生まれ、ポーランド・ヴウォツワヴェグ出身。ワルシャワ芸術大学にてグラフィックを専攻し、ワルシャワ写真アカデミーを卒業。ゲンシツカは思想や記憶術、記憶障害に関わる科学理論にも関心を寄せ、記憶とそのメカニズムについてのプロジェクトに取り組んでいる。写真だけでなく、職人や他の作家と共同で立体や工芸品の制作も 行っている。また、ストックフォトやインターネットや、警察の記録、古いプレスなどから見つけられた写真など、さまざまなアーカイブ資料を用いて制作を行うことに重きを置いている。主な個展に「I remenber my birth」(ウヤズドフスキ城現代美術センター ワルシャワ 2018年)、グループ展に「Foam Talent」(フォーム写真美術館 オランダほか巡回 2017-2018年)などがある。

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