「AKIKOAOKI」デザイナー青木明子に聞く、クリエーションの源
シャツやジャケットなどユニフォームライクなウェアを得意とし、独自のフェミニンな世界観で表現するブランド「AKIKOAOKI」。2018年「毎日ファッション大賞・新人賞資生堂奨励賞」を受賞、「LVMHプライズ」のショートリストにノミネートされるなど、国内外から高い評価を得ている彼女のクリエーションに込められた思いに迫る。
ファッションは時代を写す鏡
──インスピレーションはどういったところから得ているのですか?
「生活をしていく中で日常的に感じていることから紐解くことが多いです。ファッションって、その時の時代の流れや背景が色濃く反映されるものだと思っています。時代性を自分なりに考えて、それに対してどんな新しい提案ができるかと考えることは、インスピレーションの一つになっています」
──“時代の空気感”が青木さんのデザインに大きく影響されているのですね。
「表層的な流行とはまた違った意味で、この瞬間に良しとされているものが、3年後にはダサかったり、その逆もしかりなわけで。生き物っぽいというか。日常的に人が感じていることを背景に、そこから次の時代の可能性や固定概念を打ち破るような考えを指し示すには、ファッションが一番だなって思うんですよね。セントマーチンに留学していた頃も、講師の方々がデザインを評価するポイントとして、時代感にあっているかどうかというのは、重要視されていると感じていました」
──青木さんが考える時代性について具体的に教えてください。
「以前のシーズンにはなりますが、例えば、東京で便利な日常を過ごしながらも、世界のどこかで戦争が起きている事実。知りながらもなにもできない現状とか。毎日誰もが抱える矛盾やジレンマいったところからスタートしたシーズンもありました。誰が悪いともいえないなかで、無意識に溜まるフラストレーションって誰にでもあるはずで。どこにぶつけていいかわからないところへのモヤモヤした感じを着想源に、“じゃあ、なにができるのか”、“そんな今でこそ提案できること”について思いを巡らせていました。コレクションを制作していく過程で、理由やメッセージが取っ払われて着地することは、よくあることですし、それでいいと思っているんですが、最初はそういう思いがないと考えられないかもしれないです」
──最新の2019SSコレクション制作時には、どういった思いを抱えていらしたのですか?
「そこまで直接的ではないのですが、いま家とかマンションってすごく快適じゃないですか。どこに行っても綺麗だし、全部が満たされちゃっているけれど、どこか、すこーんとあいている虚無な部分ってあるなと感じていました。それに、携帯やパソコンによって、生活のなかで遮断されるということが滅多にないですよね。でもホテルの客室って、雑多な人混みからある種、隔離されているというか遮断されている空間。そこがとてもおもしろいなと思っていました」
──現代に生きる虚無感みたいなものを表現されたのですか?
「いまって、圧倒的に感動することが減ってきていませんか? 空間も食べ物もなにもかも、ある程度“いい感じ”のものが揃っていて、チョイスが増えたぶん、簡単に手に入ってしまうから感動も薄い。昔は、年に1度のクリスマスケーキを買うことってもっとわくわくしていたと思います。それは単に自分が大人になったからというわけではなくて。大型チェーン店が増えて地域性が薄れていることや、忙しない世の中も影響しているはず。だからといって、昔に戻したいと思っているわけではないのですが、いまの流れに対して抱えるストレスを解決するために、なにができるんだろうって考えたいなとは思っています」
──次のシーズンに向けて、いま考えていることはありますか?
「モノが溢れるなかで、少しレスにしたいなという思いはあります。ノームコアとは違う意味でのミニマリズム的な精神に気になります。すごく自分にとって大切なものを抽出して、それに対して向き合う時間を濃くとる。味わう。つまり、表現に対して純度を高めていけたらいいなと考えています」
──いまある固定概念や価値観へのアンチテーゼみたいな思いでしょうか?
「そういう思いもあります。ファッションとは、聞こえが違うかもしれませんが、私はファッションから発信できることがあると信じているので」
──今後ブランドをどのように成長させていきたいですか?
「ファッションを通して、新たな価値観やライフスタイルを提案していくことを、追求していきたいと思っています。自分がかっこいいなと思う世界中のブランドたちと戦えるぐらい力はつけていきたいですね。例えば、ヴェトモンの出現は、新しい価値観を提案するという意味で一つのムーブメントになりましたし、すごいなって素直に思います。なかなか実現は難しいのですが、以前から、クチュールにも興味はあります。私自身もあったらほしいなと思うので。そういった個人的ではありますが、一女性としてのリアルな願望や感覚からも、紐解いていけたらと思っています」
Photos(Look)& Props: Chiho Hirano&Kenji Hirano Styling: marie choi higuchi Hair: Show Fujimoto Makeup: Maki Ihara
Interview&Text: Yukino Takakura